◎「鬼火の町」と「大黒屋」◎ ●サブタイトル● 『くるま宿』が清張作品の「時代物」の源流か? 源流は『無宿人別帳』と「逃亡」(原題:江戸秘紋)で本流となった??? |
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徹底検証【03】 |
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比較表 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
「鬼火の町」 | 「大黒屋」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
●初出 「潮」 1965年(昭和40年)8月号~1966年(昭和41年)12月号 | ●初出 「オール讀物」 1964年(昭和39年)1月号~2月号 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■蔵書 ●(株)文藝春秋=鬼火の町 |
■蔵書 ●松本清張全集 24 無宿人別帳・彩色江戸切絵図/紅刷り江戸噂 |
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●書き出し 天保十二年五月六日の朝のことである。隅田川の上にあつい霧が白く張っていた。浅草側の待乳山も、向島側の三囲い神社も白い壁の中に塗り潰されたようである。「えれえ霧だ。一寸先も見えねとは、このことだ」と、独り言を呟いた小舟の船頭がある。夜が明けたばかりで、六ツ(午前六時)を少し回っていた。舟は千住のほうから来たのだが、折からの上げ潮にさしかかっているので、水の流れも湖水のように動かない。うっかりすると、方向を間違えて、どこかの岸にぶつかっりそうだった。現在なら汽笛でも鳴らすところだが、当時のことで、鼻唄でも唄うほかはなかった。船頭が警戒したのは、不意に、その厚い霧の中からほかの舟が正面に現れることだった。もっとも、朝が早いのでほかの舟も少ないに違いないが、しかし、一艘でも衝突の危険は同じだった。 |
●書き出し 文久二年正月一五日の八ツ(午後二時)ごろのことだった。日本橋堀江町の通りを二十七,八くらいの職人風な男が歩いていた。この辺りは焼芋を売る店が多い。その匂いが寒い風に混じって流れていた。この焼芋屋は冬の間だけで、春になるとすべて団扇屋に早替わりする。役者の似顔絵の団扇も、この堀江町から売出されたものだ。秋風が立つと団扇が駄目になるので、団扇が焼芋屋に早替わりするわけである。また、この辺りには穀物問屋がならんでいる。職人がふと足を停めたのは、それほど大きくない穀物問屋の店から、三十一,二くらいの大きな男がふらりと出て来たからだった。その男は酒気をおびている。十五日というと、まだ正月気分が抜けずに振舞酒を出すところもあるから、これはふしぎではない。ただ、その職人が男に眼をつけたのは、酔った彼の人相がよくないのと、その男の出ていったあとで四十七,八ぐらいの雇女が塩を撒いていることだった。 |
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時 代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
天保十二年五月六日(1842年) | 文久二年正月一五日(1862年) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
登場人物(鬼火の町) | 登場人物(大黒屋) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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●物語の共通性&登場人物の共通性 大雑把に登場人物の共通性を指摘したい。 岡っ引きの活躍。とりわけ子分の活躍【「鬼火の町」=幸太(親分:藤兵衛)・「大黒屋=幸八(親分:惣兵衛)」】 悪巧みの舞台が「寺」(「鬼火の町」=円行寺・「大黒屋」=浄験寺)で、納所坊主の登場という共通点がある。 だが、重大な勘違いをしていた。どちらも贋金造りが主題と思っていた。 「鬼火の町」は、大奥のスキャンダルとそれに関わる権力闘争が主題だった。 「大黒屋」は、贋金造り。贋金造りがキーワードの作品は「逃亡」(原題:江戸秘紋)があった。 あわてて「逃亡」を読み直してみた。 とんでもないことが起きた。 作品を時系列で並べると 「逃亡」(原題:江戸秘紋):長編時代物【「信濃毎日新聞・夕刊」(大系社扱い)1958年(昭和33年)7月号)】 「大黒屋」(彩色江戸切り絵図第一話):短編時代物【オール讀物』1964年(昭和39年)1月号~2月号】 「大山詣で」(彩色江戸切り絵図第二話):短編時代物【オール讀物』1964年(昭和39年)3月号~4月号】 「鬼火の町」:長編時代物【『潮』1965年(昭和40年)8月号~1966年(昭和41年)12月号 お気付きだろうが、「大山詣で」が追加されてる。 さらに、清張には「逃亡」と名のつく作品がもう一つある。 無宿人別帳の第四話が「逃亡」 無宿人別帳の「逃亡」作品発表時期(1957年(昭和32年)10月)で、一番古い。 原題が、江戸秘紋の「逃亡」作品発表時期(1958年(昭和33年)7月),※「逃亡」に改題された時期は不明 どちらにしろ、すでに無宿人別帳の「逃亡」が発表された後に、「江戸秘紋」が「逃亡」に改題されている。 なぜ改題されたのだろう? ●発表時期:1956年(昭和31年)7月号 「疑惑」(時代物) ●発表時期:1982年(昭和57年)2月号 「疑惑」(原題:昇る足音) 改題して同姓同名の作品が出来ることを承知で改題しているようだ。 疑問だ 「逃亡」(原題:江戸秘紋)は、以前読んでいる。読み進むと思い出してきた。 はじめは、「大黒屋」だが後半は「大山詣で」だ。 急遽、今月(8月21日の更新)で一気に蛇足的研究と紹介作品に取り上げる! なぜ時系列に取り上げたのかは、シリーズ作品の『彩色江戸切り絵図』は『逃亡』(江戸秘紋)に通じているからだ。 それだけではない。「左の腕」(無宿人別帳は1957年(昭和32年)9月)も共通項がある。※「無宿人別帳」が書かれた時期が一番古い。 『逃亡』(無宿人別帳)は、『左の腕』が源流なのか混乱してくる(苦笑) 『左の腕』の卯助が飴売りなら、『逃亡』の卯平も飴売りになる。飴売りで『左の腕』を思い出した。 それだけではない。料理屋が出てくる『松葉屋』だ! 書き出しからこうだ!(『左の腕』書き出し) >深川西念寺横の料理屋松葉屋に、この一月ほど前から新しい女中が入った。まだ一七だったが、小柄でおさない顔をしている。 まるで『逃亡』のお蝶が松葉屋に顔を出す場面にしてもおかしくない。 なんと松葉屋には「おあき」も居るが、この女中「おあき」の姿こそ『逃亡』のお蝶。 登場人物が、銀次=源次・麻吉=梅三郎(どちらも岡っ引きで悪党)・熊五郎(上州の熊五郎・梅三郎の手下) 『左の腕』が源流と確信した。 話は、『逃亡』に戻さなければならない。 『逃亡』に登場する人物は悪人ばかり、主役の源次にしても誉められた生活はしていない。ただ根っからの悪人ではない。 女にはやさしい、だからもてる。 唯一と言ってよいのが、番太郎の卯平で一服の清涼剤。 問題は岡っ引きだ。 役目に忠実な奴もいれば、その立場を利用して悪事を働き身を肥やす輩もいる。 『逃亡』の梅三郎は最悪だ。『左の腕』の麻吉も同様 女はお蝶にしても、お秋にしても世話女房タイプでかいがいしく男に尽くす。 ただ、梅三郎の妾になったお米は、食わせ物である。 登場人物が大山へ集まる。それぞれの目的で... 『大山詣で』である 御師(先達):●『逃亡』:仙山(富太)●『大山詣で』:天順 生臭坊主で女好き 場当たり的に書き続けてみたが、また根本的な疑問が湧いてきた。 清張は小説を書き始めた初期から『時代物』を多く物にしてきた。 最初の作品は『くるま宿』(1951年12月)だ。1950年代にもかなりの数の作品を書いている。 1950年代初期の作品(時代物)を検索すると以下の通り 出てくる、出てくる。 1951年~1957年間の「時代物」作品一覧
シリーズ作品(時代物)
これだけの作品が検索できた。 タイトルは、「鬼火の町」と「大黒屋」 だったが、内容は全く違ったものになった。何が徹底検証だ! ●サブタイトル● 『くるま宿』が清張作品の「時代物」の源流か? 源流は『無宿人別帳』と「逃亡」(原題:江戸秘紋)で大河となった! サブタイトルで逃げたが、逃げ切れなかった。 個々の作品の類似性を比較してもきりが無い。 小説の全てに言えるのだろうが、主人公の醸し出す神秘性が読者を引きつける。 「時代物」では、主人公と脇を固める人物の魅力が決定的だ。 (例えば、『くるま宿』の吉兵衛・『左の腕』の卯助・『逃亡』の卯平・『鬼火の町』の川路三左衛門 ) 書き手としての力不足というか、能力の無さを自覚することになった。 無理矢理で、中途半端だがここらでひとまず終わりにする。蛇足的結論へ。 もう一度再挑戦してみたいテーマだ |
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【蛇足的結論】 -------------------------------------------- 清張作品の「時代物」の源流は『くるま宿』 源流は『逃亡』(原題:江戸秘紋)や『鬼火の町』で本流になり 『天保図録』『西海道談綺』で大河となった!!。 支流はシリーズ作品となって【大奥婦女記】【無宿人別帳】【紅刷り江戸噂』【彩色江戸切絵図】へと結実していった。 2021年8月21日 |