(原題=三河物語)
題名 | 廃物 | |
読み | ハイブツ | |
原題/改題/副題/備考 | 【重複】〔(株)文藝春秋=松本清張全集35〕 (原題=三河物語) |
|
本の題名 | 青春の彷徨■【蔵書No0066】 | |
出版社 | (株)光文社 | |
本のサイズ | 新書(KAPPANOVELS) | |
初版&購入版.年月日 | 1964/04/20●7版1978/12/20 | |
価格 | 580 | |
発表雑誌/発表場所 | 「文藝」 | |
作品発表 年月日 | 1955年(昭和30年)10月号 | |
コードNo | 19551000-00000000 | |
書き出し | 大久保彦左衛門忠教は八十歳を一期として静かに死の床に横たわっていた。寛永十六年二月のうそ寒い日の午後である。神田駿河台の手広い屋敷の奥まった病室には、見舞いの客たちがいくつかの火桶をかこみながら詰めていた。忠教は老いしぼんだ顔に死相をただよわせて半眼を薄くあけたまま眠っていた。さきほど加々爪甚内と二言三言何か言っていたが、疲れたように黙ると、そのまま軽いいびきを立てはじめたのである。頬骨の尖りと、肉のない皮膚を刻んだ皺の乱れと、落ち込んだ口辺のくぼみとが目立った。医者は傍らにうずくまったまま、脈搏をとっていた。もう何刻かの後には忠教は息を引き取るに違いない。詰めている見舞客といっても、じつは臨終に立ちあって最後の別れにきた人々であった。町屋の者だったらあるいは誰かの口からひそかに称名が唱えられたであろう。しかし、むろんここに集まっている者は日ごろから気の荒いといわれる旗本ばかりだった。戦国の埃がその身体に残っている男たちであった。 | |
作品分類 | 小説(短編・時代) | 19P×680=12920 |
検索キーワード |