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松本清張_(改名)

(原題=きず)

No_568

題名
読み キズ
原題/改題/副題/備考 【重複】〔中央公論社=五十四万石の嘘〕
(原題=きず)
本の題名 松本清張短編全集4 殺意■【蔵書No0196】
出版社 (株)光文社
本のサイズ 新書(KAPPANOVELS)
初版&購入版.年月日 1964/01/15●3版2002/10/25 没後10年記念企画復古新版
価格 848+税(5%)/古本 300(税5%込み)+送料340
発表雑誌/発表場所 「面白倶楽部」新春増刊号
作品発表 年月日 1955年(昭和30年)1月
コードNo 19550100-00000000
書き出し 黒田甲斐守長政が豊前中津から筑前福岡に国替えになって、まもないころである。家中に木谷太兵衛という者がいた。木谷は元からの家臣ではなく、領内に土着の豪族であったが、長政が筑前に入部したさいに、新しく付いたのである。いったい、そのころは、各地の土着の豪族は新領主になじまず、反逆することも珍しくなかった。現に長政も豊前にいた時、宇都宮鎮房という土豪に手を焼いている。それで、おとなしく黒田家の手に付いた木谷に対して長政は宥和の意味もあって厚遇していたが、それに狎れたのか、木谷は先祖代々の土地に引っこんで、だんだん出仕をおこたるようになった。木谷は長政から催促があっても、病気を言いたてて五ヵ月以上も福岡に出てこなかった。木谷が籠もっている土地は福岡から五里ばかり離れた山の中だった。
あらすじ感想 黒田甲斐守長政は豊前中津から筑前福岡に国替えになる。領内土着の豪族、木谷太兵衛に手を焼く。
木谷を討つ決意をするが、良い手だてがない。
高月藤三郎は家老の平野美作を訪ね、木谷太兵衛の仕手を申し出る。
木谷を討つ目算を「余人にはできぬ手前だけの手段で必ず討ちとります。」と自信ありげに答える。
そして、無事討ち取った後に「息女の萩江」を頂きたいと申し出る。
美作は断るが、「藤三郎、萩江とそのほうとの間に...」の問いかけに
「その儀は萩江殿におたずねくだされば。」の答えに、承諾する。
藤三郎が帰った後、萩江を呼んで叱責しようとした美作に、萩江の答えは
「そんな方は見たこともありません。」美作の早のみこみであった。
美作は逆に藤三郎が木谷に討たれることを期待する。

長政は、家老の平野 美作から仕手として高月藤三郎を推挙される。
長政は、高月藤三郎の「女のような細づくりの身体」を思い浮かべ、美作に呆れた表情を見せる。
「余人にはできぬ手前だけの手段で...。」の申しでに、乗気なさそうに承諾する。

高月藤三郎は木谷太兵衛に取り入った。
藤三郎の「余人にはできぬ手前だけの手段で...。」は
「当時は戦国の遺風が去らず、まだ若衆を寵愛する衆道の風習が残っていた。」ことを利用することで
あった。

木谷を討った藤三郎は、長政に経緯を報告する。
わかった。退るがよい。大義であった。」が長政の言葉であった。笑顔も、賞賛の言葉もなかった。
十俵もくれておけ」が藤三郎へのご褒美であった。その「武士らしくない仕方。」で、
家老平野美作の息女のもらい受けも断られる。
藤三郎は、正面から美作の顔を見つめて、言い放つ。
藤三郎にも一分がござりまする。何をするか、見ていただきまする。
高月藤三郎が福岡城を蓄電したのはその翌日であった。

黒田甲斐長政は江戸へ登る途中で、小柄に括りつけられた紙に「十俵」の墨二文字を見る。
そして、平野美作の息女萩江の婚礼の席で、花婿が殺され、花嫁が連れ去られた話を聞く。

前半を詳しく説明しすぎました。

行方不明の藤三郎は海賊になり身を起こす。
それは、刀疵の治療を町医者に頼んだことから知られることになる。

黒田藩の若い武士が吉原に遊んだ。主君のお供で出府した馬回り役の、河野左門と西本市太郎である。
武家屋敷の門で雨宿りをする。主人の申しつでとして女中に招かれ屋敷内に案内される。
美女揃いの屋敷内で歓待される。が、黒田家の藩中と知れて、主人の老人は意外に鋭い目つきをした。
老人は、昔話として高月藤三郎の話を持ち出す。
老人の住む屋敷の普請と暮らしぶりを羨む河野左門は、その身上つくりの秘訣の伝授をたのむ。

口外せぬ事を条件に河野左門を別間に案内する。半刻後左門は蒼い顔をして現れる。

別間で見せられたものは、老人の胸から横腹にかけての刀疵であった。
そして、「人に言うでないぞ、言えば命はないぞ」の言葉であった。

屋敷を辞した二人。酒に酔って上機嫌な西本市太郎、黙って歩く河野左門。

他言無用の口止めは長くは続かない。市太郎に話す。
あの老人こそ、高月藤三郎であった。

地元福岡でもこの話はたちまちひろがった。
左門は話の広がりとともに何かに脅え、首を吊って死んだ。
>藤三郎の仕返しがそれほど恐ろしかったのである。
が、最後の一行。

短編であるが、と言うより、短編だからなのか、起承転結が明確で面白い。
感想ですが
藤三郎が「その儀は萩江殿におたずねくだされば。」と言い
萩江の「そんな方は見たこともありません。」は、二人の共謀では...と思った。
それは、萩江の婚礼の席から花嫁をさらう下りでさらにその感を深めた。

たしか、映画で花嫁を式場から攫う話があったが、どちらが先なのだろう?
老人が河野左門だけを半刻も別間に通し話をする場面は少し疑問。

清張はあとがき(松本清張短編全集4/殺意2002年10月25日3版)
>とりたてて言うほどのことはない。
>この作品と次の「蓆」とはだいたい同時期のもので、ただすらすらと書いていったにすぎない。

「まいった!」=素不徒破人
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「衆道」とは、
男色である。

織田信長には森蘭丸
武田信玄には高坂弾正
上杉謙信には直江山城守
徳川家康には井伊直正
といった具合に夜伽の相手がいたのである。
この時代は、衆道(男色)というのは決して奇特な行為ではなく、戦場という特殊な環境において必要不可欠だったのである。
そのため、各武将の相手をつとめた者のすべてが、一流の武芸者であったと言われている。



2006年1月29日 記
作品分類 小説(短編/時代) 35×320=11200
検索キーワード 衆道・男色・藩主・豪族・海賊・刀疵・吉原・老人・馬回り役・口止め・十俵・筑前・町医者
登場人物
高月 藤三郎 女のような細づくりの身体。木谷太兵衛を討つ。海賊となり身を起こす
黒田甲斐守長政 豊前中津から筑前福岡に国替え。藤三郎に木谷 太兵衛を討たせる。
平野 美作 黒田藩家老。萩江の父。黒田甲斐長政へ木谷 兵衛の刺客として藤三郎を推挙
萩江 平野 美作の息女。婚礼の席から攫われる。藤三郎の仕業
木谷 太兵衛 土着の豪族。衆道家。高月藤三郎に討たれる
河野 左門 百五十石馬回り役、主君のお供で出府。藤三郎の恐怖から首を吊って自害
西本 市太郎 百二十石馬回り役、主君のお供で出府
弘庵 町医者。藤三郎の傷の手当てをする。






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