松本清張_左の腕 無宿人別帳(第十話)

No_400

題名 無宿人別帳 第十話 左の腕
読み ムシュクニンベツチョウ ダイ10ワ ヒダリノウデ
原題/改題/副題/備考 ●シリーズ名=無宿人別帳
●全12話
 1.町の島帰り
 2.海嘯
 3.おのれの顔
 4.逃亡
 5.俺は知らない
 6.夜の足音
 7.流人騒ぎ
 8.抜け舟(未購入)
 9.赤猫
10.左の腕
11.なかま(未購入)
12.雨と川の音
●全集(全10話)
 1.町の島帰り
 2.海嘯
 3.おのれの顔
 4.逃亡
 5.俺は知らない
 6.夜の足音
 7.流人騒ぎ
 8.赤猫
 9.左の腕
10.雨と川の音
本の題名 松本清張全集 24 無宿人別帳・彩色江戸切絵図/紅刷り江戸噂■【蔵書No0134】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1972/10/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「オール讀物」
作品発表 年月日 1958年(昭和33年)6月号
コードNo 19580600-00000000
書き出し 深川西念寺横の料理屋松葉屋に、この一月ほど前から新しい女中が入った。まだ一七だったが、小柄でおさない顔をしている。しかし、苦労しているらしく、することが何でも気が利いていて、よく働く。おあきという名だったが、一二,三人も居るこの家のふるい女中たちからはすぐに可愛がられた。松葉屋は、おあきと同じ日に六十近い老人を下男に雇い入れた。庭の掃除や、客の履物番、風呂焚き、薪割り、近くへの使い走りなどの雑用をさせる。卯助といって、顔に皺が多く、痩せた男である。あまり口かずを利かないが、これも精を出して働く。のっそりとして動作が鈍いのは年齢のせいだろうが、仕事に陰日向がない。おあきと卯助とが同時に松葉やに奉公したのは、二人が親子だからである。実をいうと、卯助は近くの油堀を渡った相川町の庄兵衛店の裏長屋に住んで、それまでは飴細工の荷を担いで売り歩いていた。飴細工は葭の茎の頭に飴をつけ、茎の口から息を吹いて飴をふくらませ、指で鳥の形などをこしらえて子どもに買わせる荷商いである。
あらすじ感想 清張作品初期の時代物である。
短編物で面白い作品が多い。前進座で舞台化され評判を呼んでいる。(松本清張傑作世話狂言)

銀次の紹介で深川西念寺横の料理屋松葉屋に奉公することになる卯助親娘
働き者の娘、おあき。無口だがこれまた働き者の卯助。

卯助の左の腕に白い布が巻かれている。火傷の後を隠していると言うが、誰にも見せない。

稲荷の麻吉という岡っ引きが松葉屋で働く卯助に目を留める。

この麻吉は、銀次に言わせると狐野郎なのである。
陰では威勢の良い銀次も、麻吉の前ではからきし意気地無しである。
銀次同様、麻吉もおあきに目を付けている。

麻吉は卯助の過去を知っているようだ。卯助の左腕の秘密である。
それは卯助も麻吉の過去を知っていることでもある。

松葉屋に押し込みが入る。銀次の知らせで松葉屋に駆けつける卯助。
卯助と押し入りの盗賊との大立ち回り。盗賊の一人が声を上げる。
「おれだ、おれだ。上州の熊五郎だ」

卯助はじっと見ていたが、
「うむ。違えねえ。おめえは熊だ、珍しいところで会ったの?」
「面目ねえ」と熊五郎は頭を掻いた。

芝居の為に書かれた小説のようだ。
押し入りの熊五郎、その場の隅に縮こまっている麻吉。
麻吉に目をやりながら話を続ける卯助。
麻吉と卯助の立場は逆転している。大向こうから卯助に声を掛けたくなる。


人生訓か?
人間、古傷でも大威張りで見せて歩くことだね。そうしなけりゃ、己が己に負けるのだ。

「−−−−子供はいい。子供は飴の細工だけを一心に見ているからな」
このせりふは最初に銀次が、飴売りから松葉屋に奉公させるため卯助を説得する部分に重なる。


●辞書
蜈蚣の卯助(ムカデノウスケ)

2010年1月5日 記
作品分類 小説(短編・時代/シリーズ) 15P×1000=15000
検索キーワード 入墨・松葉屋・奉公・飴細工・押し入り・蜈蚣・料理屋・十手・包帯・火傷・飴売り・悪徳岡っ引き
登場人物
卯助 左の腕に四角い桝形の入墨がある。入墨から長門者だと言われる。蜈蚣の卯助
おあき 卯助の娘。おっかさんは十ぐらいに死んだ。働き者で器量よし。
銀次 卯助親娘を松葉屋に世話をする。おあきに惚れている。お人好しの意気地無し
麻吉 稲荷の麻吉。銀次からは狐野郎と言われる。十手持ちの小悪党。
熊五郎 上州の熊五郎。押し入り。卯助の昔仲間で卯助を「大そうなお人だ」という。

左の腕




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