(原題=昇る足音)
題名 | 疑惑 | |
読み | ギワク | |
原題/改題/副題/備考 | 【同姓同名】 (原題=昇る足音) |
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本の題名 | 疑惑■【蔵書No0004】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1982/03/30●初版 | |
価格 | 900 | |
発表雑誌/発表場所 | 「オール讀物」 | |
作品発表 年月日 | 1982年(昭和57年)2月号 | |
コードNo | 19820200-00000000 | |
書き出し | 十月の初めであった。北陸の秋は早くくるが、紅葉まではまだ間がある。越中と信濃とを分ける立山連峰のいちばん高い山頂に新しい雪がひろがっているのをT市から見ることができた。T市は県庁の所在地である。北陸日日新聞の社会部記者秋谷茂一は、私立総合病院に入院している親戚に者を見舞ったあと、五階の病棟からエレベーターで降りた。一階は広いロビーで、受付や薬局の窓口があり、長椅子が夥しくならぶ待合室になっていた。そこには薬をうけとる外来患者がいつもいっぱいに腰をかけていた。名前を呼ばれるまでの無聊の時間を、横に据えつけたテレビを見たりしていた。ロビーから玄関の出口に歩きかけた秋谷の太い黒縁眼鏡の奥にある瞳が、その待合室の長椅子の中ほどにいる白髪の頭にとまった。頸が長く、痩せた肩が特徴で、後ろから見ても弁護士の原山正雄とわかった。原山はうなだれて本を読んでいた。 | |
あらすじ&感想 | テレビ東京で「黒の奔流」が放映された。 映画「黒の奔流」は、松本清張氏が1967年(昭和42年)に発表した短編小説「種族同盟」を、 映画化されたものでした。 冤罪の被告を弁護士が無罪に導く筋立てであるが、私は清張作品に「黒の奔流」なんて無いな、などと考えて 調べた結果、黒の奔流の元ネタが「種族同盟」だと知った。 無罪を勝ち取った弁護士の話という意味で「疑惑」と「種族同盟」を混同していました。 だから、「疑惑」の結末が新聞記者「秋谷」の犯罪を予見させる場面で終わっていることに戸惑った。 場所の設定はT市K空港と出てくるので、富山市、小松空港だろう。 弁護士の原山正雄を病院のロビーで見かける新聞記者秋谷茂一 原山は被告鬼塚球磨子の弁護人である。 鬼塚球磨子は、三億円の保険金詐欺目的で、亭主の白川福太郎を殺害した嫌疑が掛かっている 殺害方法は、自家用車を運転して車ごと新港湾の埠頭岸壁から海に飛び込み、彼女だけが 水中で車から脱出したというものだ。 新聞記者の秋谷は球磨子の前歴等でその犯行を確信して、北陸日日新聞に連載記事を書いている。 歩きながら話しをする原山と秋谷。 》原山はこつこつと歩いている。 鬼塚球磨子は 「大きな女ですからね。身長172センチ、体重61キロ。グラマーですな...。」(原山弁護士) 以後「グラマー」が4〜5回出てくる。彼女の前歴は秋谷によって徹底的に暴かれる。 「そうです。鬼塚球磨子、つづめるとオニクマです。つまり鬼熊になります」(秋谷茂一) 秋谷は一抹の不安を抱えている。それは鬼塚球磨子が無罪になることである。 鬼熊事件【事件概要】 1926年(大正15年)8月18日、千葉県香取郡久賀村(現・多古町)で、荷馬車引き・岩淵熊次郎(39歳)が 4人を殺傷して、山中に逃げ込んだ。熊次郎は「鬼熊」と報じられたが、村の人々は彼を捕らえさせまいと 匿い続けた。しかし、熊次郎は逃走から40日後の9月30日に自殺した。 彼の記事は球磨子を犯人との前提でその過去を含めて執拗に描き出している。 社会正義の為の記事という自負はいささか心許ない。 原山弁護士だけの弁護では有罪になるのは間違いなさそうであるが、東京から有能な弁護士 岡村兼孝を共同弁護人として喚ぶ話しが舞い込む。 新宿のヤクザと関係のある球磨子のお礼参り恐れる秋谷の懸念は増幅する。 球磨子を犯人とする秋谷の記事は −−−自分の書いたものを読み返してみて、秋谷は沈んだ気持ちになった。.... われながら誇張の強い、浮き上がった文章だ。 岡村弁護士は家族の反対で共同弁護人を断る。 原山弁護士は体調不良で球磨子の弁護人を降りる。 国選弁護人佐原卓吉が選任される。佐原は民事を専門とする弁護士である。 安堵する秋谷。国選弁護士は当該事件にたいした興味もなく、真剣に弁護する気のないものである。 しかし、事態は秋谷の思うようにはいかなかった。 秋谷は弁護人佐原卓吉の意外な熱意を知ることになる。 物証のスパナに疑問を持つ佐原。 公判は回を重ねる。最初の公判から4年。 法廷場面は清張ならではで緊張感あるやり取りが続く。 「靴とスパナを法廷に持ち出し、実験して立証するつもりです。 悪女でも、無実の被告には変わりありません。私は彼女を救い出しますよ」 正義心と功名心に逸って優秀な国選弁護人は、昂奮を見せて云った。 >秋谷がドアから出て行ったのを佐原見送った。が、その夢遊病者のような後ろ姿の意味する >ものを弁護士は知らなかった。 秋谷茂一は階段を昇って行く。 》靴音は三階に昇ってくる。こつ、こつ、こつ、とコンクリートにひびく。 >正常な神経を失った秋谷茂一がそこに立っていて、太い鉄パイプを片手に握っていることをこの国選 >弁護士はもちろん知らなかった。 原題は「昇る足音」 秋谷の異常なまでの鬼塚球磨子に対する恐怖心が今ひとつ理解出来ない。 秋谷は球磨子の過去の所行に怯えているのか? 話しは結末まで書かれていない。が、それを連想させる。 登場する弁護士が三人三様、清張作品には大勢の弁護士が登場するがこの分類も面白そうだ。 私の誤解は勝手に結末を想像させた。 裁判は鬼塚球磨子を有罪にした。それは球磨子に男がいて保険詐欺の手口を証言する。 秋谷の殺人は何だったのか? 「種族同盟」と「一年半待て」を混同したものでした。 余談 和歌山毒物カレー事件の林眞須美(はやし ますみ)を思い出した。 状況証拠は林被告に不利だが決定的な物証がない。 松本サリン事件 『第一通報者であった河野義行氏を重要参考人とし、警察の発表を踏まえた偏見を含んだ報道により、 無実の人間が半ば公然と犯人として扱われてしまった冤罪事件・報道被害事件でもある。』 以来この手の報道を信じないことにしています。 2009年03月23日 記 |
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作品分類 | 小説(中編) | 110P×600=66000 |
検索キーワード | 北陸・県庁所在地・保険金・国選弁護人・マスコミ報道・悪女・鬼クマ・自動車事故 |