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検索キーワードに見る清張作品の傾向と対策?

(その二十四:中央)

清張作品の書き出し300文字前後からあぶり出すキーワード!
(登録キーワードも検索する)


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●中央

【中央】
二冊の同じ本
高校殺人事件
梅雨と西洋風呂」(黒の図説:第六話)
」(黒い画集:第五話)
不在宴会」(死の枝:第十話)
歯止め」(黒の様式:第一話)
波の塔
現代官僚論」(現代官僚論:第一話)
西南戦争」(私説・日本合戦譚:第九話)
武将不信
空白の意匠
迷走地図(上)
再春」(隠花の飾り:第十話)
霧の会議(下)
神々の乱心(上・下)
破談異変
暗い血の旋舞


【左右】
歯止め」(黒の様式:第一話)
武将不信
乱灯(上)〔江戸影絵〕
破談異変


【上下】



【中央&端】


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場所というか、位置というか...
紹介作品No115『中央流沙』にちなみ、「中央」を取り上げてみたが、目ぼしい特徴はなかった。
作品的には「中央」はそれなりに多かった。中でも、『歯止め』と『武将不信』は「左右」も共通だったが、作品に共通点は見いだせなかった。


2021年05月21日

 



題名 「中央」「左右・上下・端」
上段は登録検索キーワード 
 書き出し約300文字
歯止め」(黒の様式:第一話) 能楽堂は八分の入りであった。津留江利子の座っている位置は腋正面のうしろ寄り、ちょうど二ノ松に平行するあたりだった。それで、彼女の視角からいって正面席の観客の顔は斜め向きに自然と眼にはいっていた。江利子は、先ほど、その正面観覧席の中央あたりに旗島信雄の顔があるのに気づいてから落ちつかなくなっていた。以来、なるべく客席の方は見ないようにした。舞台では今日彼女が目当てで来ている人間国宝の老能楽師の「班女」が進行していた。この一番を観たら、次の休憩で旗島には知られないように出て行くつもりだった。後二番残っているが、家のことがきにかかるより、旗島に見つけられるのがいやだった。旗島は前から顔の幅の広い男だったが、今はすっかり肥えて、その顔が余計にふくれていた。髪も前のほうからうすくなってほとんど禿げている。いつぞやテレビで見たときの顔よりもまだ老けていた。両脇に外人夫婦をおいて、しきりと首を左右に回しては能のことを説明していた。五十歳ちょうどのはずだった。死んだ姉の年齢をおぼえているから間違いようはなかった。
武将不信 羽州山形城主最上義光は、秀吉の存生中からしきりと家康に慇懃を通じていた。それも信長の死後、秀吉の全盛に向かっているころであるから、彼は家康のどこかに恃むところがあると見抜いていたのであろう。家康がまだ岡崎にいたころから、七寸八分の川原毛馬で、左右自在、出羽奥州無双の早馬の故に両国と名づけたのを贈った。家康は大そう喜んで、その馬を秘蔵して乗馬とした。それから、毎年、義光は家康に、奥羽の駿馬と鷹とを進上した。「貴下の御厚意はまことに御奇特である。今後とも変わらずに、懇ろに願いたい」家康は律儀に必ず自筆の礼状をくれた。秀吉の滅茶苦茶な文法と下手糞な文字の手紙からくらべると、家康の人柄をうつしたように書風も重厚で知性が匂った。義光は争乱の出羽国を斬り従えて一国の領主となったいわば辺土の武人である。中央の様子もよく分らからぬ北の国にあって、赤光のような秀吉に幻惑されずに、地道な家康に眼をつけた直感は、あとになって己れをいたく満足させた。
古本屋・古文書・学士院賞受賞・詐欺・地方都市
私が粕谷侃陸という名を知ったのは、随分前からであった。この人の著書は、かなりな古本屋なら殆ど置いている。私の見る限りでは、たいていは棚の上の方の、天井近いところにならべて埃を浴びていた。手も届かないそんな高いところにある本は、あまり動きそうもない品であろうか、粕谷侃陸の書物がそういう種類の地味なものらしかった。彼の著書は二つあって、一つは千ページ近い厚さで上下からなる「古社寺願文の研究」という戦前出版の大部なものと、一つは戦時中に出した二百ページぐらいの「古社寺蔵の古文書」という小型のものとである。厚い二部の方は、戦前でも豪華な出版らしく、古代染色の文様を模した布製の装幀で、いかにも落ちついた重量感のあるものだが、もう一つは戦時中のせいもあってか、比較にならぬ薄っぺらな貧弱な本だった。私の眼に触れる彼の著書は、この二冊だけであった。 
」  七月二八日の午前十時ごろである。三人の少年が、多摩川の川原に跳ねるように走りおりた。二人はグローブを手にはめ、一人はバットを持っていた。堤防の上は、自動車が通れるくらいの道になっているが、ここから水の傍に行くには、ゆるい傾斜をおりて行かねばならない。斜面は途中で、川原の砂利盗取防止のためワイヤーロープの網が張ってある。その下は、畑になったり、草むらになったりして、川幅は広いが、水は州にせかれながら、中央部を流れている。川の片側は、東京都世田谷区だが、向かい側は神奈川県になっていた。夏のことで、水は少なく、川原の雑草だけが生い茂っている。子供たちの遊び場には格好の場所だった。「おや、金網が切られているぞ」斜面をおりている少年が、走っている足を止めていった。「あれ、ほんとだ」二人の少年はそこに近づいて目を丸くした。砂利盗取防止のために張ったワイヤーの網が一メートルほどの幅、三メートルくらいの長さで切られている。切りはの針金の先端が上にまくれあがっていた。

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