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松本清張_ 黒い画集(第五話) 

〔(株)文藝春秋=全集4(1971/08/20):【黒い画集 】第三話〕/発表時(週刊朝日)では第五話〕

No_125

題名 黒い画集 第五話 紐
読み クロイガシュウ ダイ05ワ ヒモ
原題/改題/副題/備考 ● シリーズ名=黒い画集
●全9話
1.
2.証言
3.
坂道の家
4.
失踪
5.

6.
寒流
7.
凶器
8.
濁った陽
9.
●全集(9話)
1.
遭難
2.
坂道の家
3.
4.天城越え
5.
証言
6.
寒流
7.
凶器
8.
濁った陽
9.

『黒い画集』を終わって


※全集発表時には三話
本の題名 松本清張全集 4 黒い画集【蔵書No0055】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/08/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「週刊朝日」
作品発表 年月日 1959年(昭和34年)6月14日〜8月30日
コードNo 19590614-19590830
書き出し 七月二八日の午前十時ごろである。三人の少年が、多摩川の川原に跳ねるように走りおりた。二人はグローブを手にはめ、一人はバットを持っていた。堤防の上は、自動車が通れるくらいの道になっているが、ここから水の傍に行くには、ゆるい傾斜をおりて行かねばならない。斜面は途中で、川原の砂利盗取防止のためワイヤーロープの網が張ってある。その下は、畑になったり、草むらになったりして、川幅は広いが、水は州にせかれながら、中央部を流れている。川の片側は、東京都世田谷区だが、向かい側は神奈川県になっていた。夏のことで、水は少なく、川原の雑草だけが生い茂っている。子供たちの遊び場には格好の場所だった。「おや、金網が切られているぞ」斜面をおりている少年が、走っている足を止めていった。「あれ、ほんとだ」二人の少年はそこに近づいて目を丸くした。砂利盗取防止のために張ったワイヤーの網が一メートルほどの幅、三メートルくらいの長さで切られている。切りは端の針金の先端が上にまくれあがっていた。
あらすじ感想   ドデン返しのどんでん返し。
勿論再読なのだが、話の内容はすっかり忘れていた。最後まで読んで思い出すことが出来た。
途中までは保険会社尚調査員(戸田正太)がすっかり謎解きをしてのだろうと思っていた。

小説の中で登場人物が「映画」を観ていたことが、証言として出てくる場面は結構あるのでは、と思っていたがそうでもなかった。
よく覚えているのは、「証言」と「砂の器」である。
「証言」(黒い画集(第二話))は、「あるサラリーマンの証言」として映画化されている。キーワードとして記録している。
「砂の器」は、書き出しでも、キーワードとしても登場していないが、映画の場面で、映画館の支配人として渥美清が出演している。
どちらも印象的な作品で印象に残っている。

●キーワード:映画「証言」
●書き出し:「遠くからの声」・「溺れ谷」・「消滅」(絢爛たる流離)・「古本」(死の枝)・「不安の演奏」・「歪んだ演奏」
「彩霧」・「顔」・「お手玉」(隠花の飾り)・「泥炭地」


多摩川土手で死体が発見された。
死体は、両手を背中合わされ日本手拭いで縛られていた。首にはビニール紐が四巻きになっていた。
両脚もくくられていた。
捜査一課の田村係長が捜査に当たっていた。
死体の状況から、他で殺して現場に運んできたと推測された。
死体の男は四十二三、壮年の男。
夕刊の記事を見たと言う、「青木シゲ」と名乗る初老の女が出頭してきた。
死体の男は、梅田安太郎、四十二歳。職業は神官、岡山の津山で代々八幡宮の神官をしている。半年前から上京しているという。
梅田安太郎は、青木シゲの弟だという。
シゲの話では、二千万円程度を持って上京したらしい。
安太郎は神官で収まるような人間では無かった。上京して一山当てようとしたのだろうが巧くいかなかった。
青木シゲ夫婦の説得もあって一旦津山に帰った。それは、夫婦の忠告を聞いた訳では無かった。
一旦津山に帰った安太郎は、山林を売り飛ばし再び上京した。
安太郎の妻は、静子と言い三十一歳。後妻だった、先妻は病死。
再び上京した安太郎だが、事業に失敗したらしく、電話で苦境を青木シゲに連絡してきた。
安太郎が自殺でもしそだったと田村主任に話した。
その後連絡も無く、自殺も心配されることから、警察に捜査願いを出し、妻の静子を呼び寄せた。

もともと安太郎は、我が儘で、妻の静子には何一つ報せていなかった。青木シゲ夫婦も安太郎が何をしていたのか知らなかった。
ただ殺されるくらいだから危ない仕事に手を出していたらしい。

梅田静子は上京して、行方不明になった安太郎を探そうとしたが、田舎者の静子は探すあても無い、半ば東京見物的な行動をすることになってしまう。
結果、安太郎が殺された翌日に津山に帰った。
参考程度と言いながら、田村主任は、上京中の静子の行動を細かく聞いた。
銀座、渋谷、渋谷のデパートで台所用品を買う。新宿の大衆食堂で親子丼を食べた。それから映画を観た。
観た映画は、「川霧の決闘」。静子は映画のチケットの半券を示してアリバイを証明した。
田村捜査主任は、渥美と原両刑事を映画館の捜査に当たらせた。
概ね静子の証言通りだったが、時間帯が少し違うようだと、もぎりの女は話した。しかし自信なさそうだったが、6時半頃では...
半券は8時頃に売り出されたもので、もぎりの女は、思い違いだったかもと引き下がった。
場内係の女の子はもう一つ重要な証言をした。「川霧の決闘」の上映中に幼児が泣き出し、席を立って出て行ったというのだ。
渋谷のデパートで買い物をした静子の行動も調べ上げられた。電気釜・アルミ鍋大小・フライパン・コーヒー沸かし・包丁・テンピ・魔法瓶など所帯道具のようだった。
静子の言うように閉店間際のデパートの買い物であったことを店員は証言した。

大衆食堂で親子丼を食べたときのエピソードとして、蠅の死骸が入っていたので取り替えて貰った事も話し、その通りだった。

静子は、津山に帰る列車に乗り込む。見送りに青木夫婦と隣の理髪店の女房が登場する。
事件当日、青木良作シゲ夫婦と上野の寄席に行ったと言う女だった。
参考までと言いながら、田村捜査主任は、27日に殺された安太郎と28日に津山に帰った静子の行動に疑問を持っていた。

捜査本部は四十日で解散した。

R生命保険株式会社の東京本社では、調査課の課長が熱心の書類を見ていたが、書類から目を離して課員の戸田を呼んだ。
戸田正太が立ち上がった。戸田に「読んでみてくれ」と書類を渡した。
津山の代理店からの保険金請求書類だった。
被保険者は梅田安太郎。請求人は、妻梅田静子。請求保険金は1500万円。
岡山支店では最高と言える金額だった。警察では、梅田安太郎は他殺と決定していた。
警察は保険金のことを知っていたのだろうか? 課長の答えは、「それは知らなかったのじゃないかな」
これは勿論警察に報せなければならない。でも、課長は、警察は警察として、こちらは、独自で調査してみよう。
戸田正太が担当することになった。

戸田正太は、田村捜査主任を訪ねた。
保険は、一年半前に、梅田安太郎が自ら入ったと言うことだった。

迂闊だった、田村捜査主任は苦渋の表情を見せた。静子のアリバイが揃いすぎているが益々気になった。

戸田正太の調査が始まった。
青木シゲを訪ねる。シゲは安太郎が保険に入っていたとは知らなかった。安太郎も静子も教えてくれないと愚痴った。
戸田正太は、事件を担当した解剖医に会いに行った。
>「すると」
>戸田は教授の顔を見ながら聞いた。
>「死体は、最初の一二時間、あおむけにして、その後にうつぶせにした、ということですか?」
>「そういう推定にになりますね」 教授はうなずいた。
戸田は、顎に巻きついていた「ビニール紐」について聞いた。

戸田は、デパートでも調査を続けた。
翌日、青木良作の勤め先がある田端に向かった。職場は駅の構内にあり事務所で青木良作に会った。

田端の駅付近は特徴的な地形だ。事件には全く関係ないが、知っているだけに描写が面白い
帰り支度の青木良作と一緒に事務所を出た。途中の大衆食堂で飯を食うことになった。勿論戸田が誘ったのだった。
良作はビフテキを食った。
翌日、戸田正太は、千住の青木宅を訪ねた。良作が出勤した後を狙っての訪問だった。
保険金のことなど話したが、目的は安太郎が殺された当日の静子の行動であった。
行方不明の安太郎を案じての行動にしては、物見遊山的な静子の行動を確認することであった。
青木シゲは、静子の行動を批判的に戸田正太に話した。
戸田正太の調査はさらに続く。
青木家の隣家に坂本理髪店がある。戸田正太は理髪店に入った。
ここで戸田正太は一芝居打つ。
理髪店の女房に髭を当たってくれと頼む。この女房が青木夫婦と寄席に行った女だと直感した。
一度幼時を背負い、戸田正太が青木家を訪問していたとき、前を通りかかったことがある。
この女こそ映画館で子供が泣き出し途中で席を立った女だと確信した。正太の一芝居に狼狽した。

この時点では、保険会社の調査員戸田正太の推理で保険金目的の殺人事件として結末を迎えるだろうと予測できる。
静子と良作が出来ていたという結論を話した。調査内容を田村捜査主任へ話し終わると田村主任は飲み込めないところがあると言った。
捜査主任は、別の結論を用意していた。
警察は、保険金の詐取を目的とした殺人事件として調査を進めていたのだった。
ネタバレになるのでここまでに留めておくが、清張は面白結末を用意していた。結末は二重に落とされている。
それには二つの伏線が張られていた。静子の容姿が、特別な美人では無いが、色白で美人に描写される場面が所々に出ていた。
「色白で細い容貌」とか「化粧している静子の顔は、この待合室の中でもまず美人の方だった」。

もう一つは、隣家の理髪店の女房の登場の仕方である。遺骨を抱いて津山に帰る静子を見送りに来る。
保険会社の調査員である戸田正太が青木シゲに会っているとき青木宅の前を通る。

少し雑感がある。
少し気がついたことがある。殺された梅田安太郎の仕事関係の人物に捜査線上に浮かんでいないように感じたのだ。
危ない仕事に手を出しているらしい安太郎なら、尚更その周りの人物に疑いが掛けられても良いはずだ。
もうひとつ。
薄化粧の男」を思い出した。意外な共犯者。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
始めに「映画」で引っかかり、印象に残ったが、生命保険会社の「調査員」も小説では重要な役割を果たしている。

●生命保険会社・調査員
小説 3億円事件「米国保険会社内調査報告書」
別冊黒い画集 第一話 事故
別冊黒い画集 第二話 熱い空気
上申書
閉じた海

※キーワード
疑惑(改題)
留守宅の事件
小説 3億円事件「米国保険会社内調査報告書」
黒の様式 第三話 微笑の儀式
一年半待て


2024年11月21日 記 
作品分類 小説(中編/シリーズ) 64P×1000=64000
検索キーワード 多摩川土手・少年・神官・絞殺・保険金・理髪店・寄席・講談・映画・親子丼・デパート・田端駅・渋谷・新宿・自殺・愛人・所帯道具 
登場人物
梅田 安太郎 四十二歳。職業は神主。岡山の津山で八幡宮の神官をしている。事業欲が旺盛で、1500万円程度を持ち上京する。
危ない仕事に手を出しいるようだ。自身に1500万円程の生命保険を掛けている。自殺もほのめかすが、多摩川土手で絞殺される。
梅田 静子 安太郎の妻。後妻。色白で細い容貌。失踪したらしい安太郎を探しに上京する。
上京中の行動は夫を探す風でもなく東京見物をする。
事件当日のアリバイは完璧
青木 シゲ 五十歳くらい。初老の女。梅田安太郎の姉、青木良作の女房。最終的に事件の首謀者か?
青木 良作  講談好きで、事件当日上野の寄席に出掛けていた。青木シゲの夫。梅田安太郎には内心反感を持っていた。田端駅に勤めている。 
理髪店の女房 三十四五の目のつり上がった痩せた顔。映画館で子供が泣き出し席を外す。保険会社の調査員の戸田正太に細工を見破られる。
田村捜査主任 捜査主任。安太郎が生命保険に入っていたことは掴んでいなかった。多摩川絞殺死体事件の指揮をとる。
早くから静子に目星を付けていたが、アリバイは完璧だった。保険会社の調査員戸田正太の情報から警察として独自の調査をして犯人逮捕へ導く
渥美刑事 背が高く痩せていた。田村捜査主任の下で原刑事と共に捜査に当たる。
原刑事 渥美刑事と共に映画館など静子の行動を探る。田村捜査主任の下で渥美刑事と共に捜査に当たる。
戸田 正太 梅田安太郎の生命保険を妻の静子が請求したのでその調査に当たる。R生命保険東京本社の調査課社員。
調査の結果を捜査主任の刑事に報告する。ほぼ犯人にたどり着く。






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