「松本清張の蛇足的研究」のTOPページへ

松本清張_寒流 黒い画集(第六話) 

〔(株)文藝春秋=全集4(1971/08/20):【黒い画集 】第六話〕/発表時(週刊朝日)でも第六話〕

No_126

題名 黒い画集 第六話 寒流
読み クロイガシュウ ダイ06ワ カンリュウ
原題/改題/副題/備考 ● シリーズ名=黒い画集
●全9話
1.
遭難
2.
証言
3.
坂道の家
4.
失踪
5.

6.寒流
7.凶器
8.
濁った陽
9.
●全集(9話)
1.
遭難
2.
坂道の家
3.

4.
天城越え
5.
証言
6.寒流
7.凶器
8.
濁った陽
9.

『黒い画集』を終わって
本の題名 松本清張全集 4 黒い画集【蔵書No0055】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/08/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「週刊朝日」
作品発表 年月日 1959年(昭和34年)9月6日号〜11月29日号
コードNo 19590906-19591129
書き出し B銀行R支店長沖野一郎が、割烹料理屋「みなみ」の女主人前川奈美を知ったのは、沖野一郎が新任支店長として取引先をまわったときが最初であった。つまり「みなみ」は、B銀行のお得意先の一つだったのだ。Rは、東京都内でも活気のある一区画で、都の人口がふくれるにつれて急速に拡大してゆく住宅地を背後に控え、都心からの交通が蝟集し、デパートが競立している。夜の人出の多いことは、銀座を凌ぐものがあった。それで各銀行もことごとくここに支店を置いて激烈な競争をしている。R支店長に転勤してきた沖野一郎は重要なポストに据えられたわけである。沖野一郎には、目下、B銀行で勢力を伸ばしにかかっている重役の推輓がある。桑山英己という四十二歳の常務ある。この若さで常務になっているのは、彼の先代がB銀行創立の功労者で、長い間、頭取をやっていたのである。
あらすじ感想    極めて俗ぽっく言えば、自分の女を上司に寝取られ、復讐を試みるが巧くいかない。覚悟を決めて最後の賭に出る。
始の展開が如何にも過ぎるのに食傷気味だった。
寝取られても何も言えない根性無しの男。「葦の浮き船」を思い出される。
そのくせ、女房に隠れて女を作る。

B銀行のR支店、支店長沖野一郎は、取引先の割烹料理店の女将前川奈美と出来ていた。
沖野一郎は初対面で前川奈美が好きになり、半年後には親しくなっていた。
沖野一郎は、R銀行で勢力を伸ばしていた常務の桑山英己の贔屓で支店長にの要職に就いていた。

一郎には妻と子供が二人居た。
妻は、身体が弱い以外は非難するところが無い。
それでも、一郎が奈美にのめり込むには、それだけの魅力が奈美にあった。
素人に無い美しさ、愛嬌もいい、上品な色気...奈美も一郎が嫌では無かったようだ。

始から沖野一郎の前川奈美への入れ込み様は半端ではなかった。万難を排して結婚したいと考えるようになっていた。

常務の桑山英己も前川奈美に関心を寄せていた。
桑山はその方面では評判の男だった。
桑山は、沖野一郎に前川奈美を紹介しろと迫った。
桑山と沖野は、学校の同級生でもあり、商売上の口実で挨拶がしたいと言われれば沖野には断る理由がなかった。


破廉恥にも桑山英己は前川奈美に迫る。奈美が沖野一郎の女である事は承知の上だ。
それも表現は汚いが、盛りのついた犬のごとくの迫り様だ。

桑山英己の行動は常軌を逸している感じがする。それでも沖野一郎は無抵抗である。
桑山のキャデラックで箱根にドライブする事になり、宿泊先の旅館での三人はおぞましい醜態を見せ合う。余りにも強引な感じがする。

やがて一郎と奈美の間に別れ話が出てくるようになった。
>「わたし、こうして、あなたとつきあっていて、だんだん、なんだか空しくなってきたんです」
奥さんに気の毒だというのである。
奈美の決定的な言葉が沖野一郎を突き刺した。
>「はっきり言って、あたし、自分より惨めにみえる人、好きになれないわ。これ以上、
>あなたは、あたしとつきあっていると、ますます惨めになってゆくような気がするわ」

沖野一郎の返事は「君は、ひどい女だな」

沖野一郎は宇都宮支店に転勤になる。もちろん桑山の仕業である。
桑山の側近であるはずの沖野が左遷されたのである。沖野は奈美に未練があったが、奈美は別れることを決断していた。

沖野もある決断をした
私立探偵事務所に向かう沖野。探偵事務所で沖野に対応したのは伊牟田博助
桑山英己の素行調査を依頼した。漫然とした素行調査ではなく前川奈美との関係、特に密会している場所の調査を依頼した。

沖野一郎は出勤すると机の上に書類が載っていた。探偵事務所から調査書類が届いていたのだ。

沖野を伊牟田博助が訪ねてきた。
郵送で良いと言っていたのにわざわざ届けに来たのである。隠し撮りの写真と調査書類だった。

沖野は、福光喜太カと言う男に電話をした。躊躇しながらも電話をしたのはある決心が固まったからだ。
福光喜太カは総会屋で、二年くらい前に接触したことがあった。
B銀行の常務である桑山英己のスキャンダルを売り込むのが目的だった。沖野一郎の復讐が始まった。

しかし、事はそう簡単に進まない
福光善太郎は、沖野を呼び出し一喝した。
桑山英己に確かめると、沖野一郎が渡した調査資料や写真は偽物で、恥を掻かされたというのである。
福光喜太カは食わせ者だった。これは福光善太郎の腹芝居なのだが。
驚く沖野は、私立探偵社の伊牟田博助に騙された。と思った。
探偵社を訪ねると伊牟田博助は社を辞めていた。

桑山の逆襲なのだろう。
土建屋の久保田謙治が沖野を訪ねて銀行にやってくる。宴席を設けるので出席をしてくれと言うのである。
久保田謙治が特別な顧客という訳では無いが、沖野は断ることが出来ず出席する。
宴席で紹介されたのは東京の山本組の社長山本甚造。会計部長の榎本正吉、傷害前科四犯。施行部長桜井忠助、傷害前科四犯
礼儀正しく自己紹介するが、沖野一郎は怯えたた。
この宴席の目的はすぐに分かった。
山本甚造が沖野一郎のそばに寄ってきて
>「沖野さん。桑山常務の一件ですがね。あれは、あんた、もういいかげnに、いたずらは、おやめなさいよ...」
山甚にささやかれた沖野は、うなずく以外無かった。

悪い奴ほどよく眠るのか...
清張作品では無残に敗れ去る者が描かれることが多い。「中央流沙」など思い浮かべた。
しかし、この作品にはもうひと工夫があった。
伊牟田博助から手紙が来たのだ。
伊牟田は中古車販売の会社に再就職していたのだ。沖野は伊牟田博助と東京で会った。
伊牟田が言うには、沖野が福光善太郎に騙されているというのだ。
胡散臭い私立探偵社の調査員の伊牟田博助は、如何にも小狡そうな冴えない男として登場したが、沖野にとっては救世主だった。
伊牟田の話で沖野は納得した。
「ありがとう、伊牟田君」これが沖野一郎の伊牟田に対する返事だった。
清張の小説に限ったことでは無いが、小説の中には時々冴えない男が登場する。頼りなく時には敵対するのでは無いこと思わせる。
犯罪小説では、犯人と思われる登場の仕方の場合もある。しかし、その実態は! なのである。

沖野一郎は覚悟を決めた。今まで自分が安全なところにいて桑山常務を追い落とそうとしていた。
全てを投げ打って桑山英己と対決する決心がついた。

ある意味清張的で無い結末が待っていた。
ただ、登場人物は伊牟田博助を除けば、悪党ばかりだ。主人公の沖野一郎も、さほど同情できる人物ではない。
結末も沖野一郎と共に溜飲を下げるまでには至らなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−スキャンダル−−−−−
あらすじ&感想を書いているとき、思わぬニュースが飛び込んできた。   
●11月11日、「SmartFlash」によって国民民主党・玉木雄一郎代表(55)と元グラビアアイドル・小泉みゆき(39)の不倫が報じられた。
玉木氏は直後に開いた会見で、報道を「おおむね事実」と認め、深々と頭を下げた。●



2024年11月21日 記 
作品分類 小説(中編/シリーズ) 68P×1000=68000
検索キーワード 割烹料理店・女将・支店長・常務・左遷・スキャンダル・総会屋・土建屋・傷害前科・ドライブ・箱根・キャデラック・自殺未遂・私立探偵・調査員 
登場人物
沖野 一郎 B銀行の支店長。取引関係の割烹料理店の女将とできている。桑山常務の引き立てもあり出世街道に乗っている。
桑山に女を寝取られる。探偵社に探らせた、常務のスキャンダルを総会屋に持ち込むが、裏切られる。身を賭して復讐に燃える。
前川 奈美 美人の未亡人。三年ばかり前に亭主は死んでいる。三十歳。銀座で「みなみ」と言う割烹料理店を営んでいる。
結局男を手玉に取りながらのし上がっている。始は沖野一郎の女だったが、桑山に乗り換える。
桑山 英巳 B銀行の常務。四十二歳、先代がB銀行創立の苦労者。切れ者の副頭取に取って代わろうとしている。腹心を重要ポストに就けている。沖野一郎もその一人。
沖野の女だった奈美を強引に自分のモノにする。徹底した悪人ぶりを発揮する。
伊牟田 博助 私立探偵事務所の社員。沖野一郎の依頼を受け、桑山英己と前川奈美の密会を調べ沖野に報告する。
沖野は、伊牟田の報告を元に桑山を追い落とそうとする。話の途中までには胡散臭い役回りで、沖野を裏切っているように見える。
福光 喜太カ 総会屋。沖野が桑山常務のスキャンダルを持ち込む。沖野に協力する振りをするが裏切る。悪党。
久保田 謙治 土建会社の社長。おそらく桑山の依頼だろうが、暴力団風の山本組を使って沖野一郎を脅す。
沖野 淳子 沖野一郎の妻。病弱。二人の子供がいる。一郎の浮気に気がつき、自殺未遂を図る。以来実家に帰る。一郎との夫婦関係は破綻している。
山本 甚造 山本組の社長を名乗る。宴席で沖野一郎を脅し桑山のスキャンダルをもみ消そうとする。桑山に頼まれたの暴力団の親玉と言える。

寒流




■TOP■