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松本清張_葦の浮船 

No_002

題名 葦の浮船
読み アシノウキブネ
原題/改題/副題/備考  
本の題名 葦の浮船■【蔵書No0002】
出版社 (株)角川書店
本のサイズ 文庫(角川文庫)
初版&購入版.年月日 1974/03/30●5版1976/01/30
価格 300
発表雑誌/発表場所 「婦人倶楽部」
作品発表 年月日 1966年(昭和41年)1月号〜1967年(昭和42年)4月号
コードNo 19660100-19670400
書き出し 今年の総合歴史学会の当番校は金沢の大学であった。三月十七日から二日間だったが、北陸の春はまだ浅い。雪は解けていたが、風は寒かった。大学の講堂に二百八十名集まるので、講堂に座っていると人いきれであたたかいが、外に出ると底冷えがする。「こういう学会もますますつまらなくなってくるね」折戸二郎は、講堂から吐き出された人々にまじって廊下を歩きながら小関久雄に言った。折戸も小関も東京の同じ大学の助教授で、折戸は国史科の上代史、小関は中世史を専攻している。集まってきている教師も北海道から九州まで全国の大学の教授、助教授、講師たちであった。二人は同僚だが、折戸が小関より二つ上の三十六歳だった。小関久雄はまだ独身である。
あらすじ感想 「アカデミズムの構造にメス」(解説)が主題なのだろうか?。
婦人雑誌〔婦人倶楽部〕に掲載された作品である。濡れ場の描写もなかなかである。
作品は、折戸二郎と小関久雄の妙な友人関係が主軸をなしている。
同僚でありながら折戸に頭の上がらない小関。それは折戸に対する小関のコンプレックスなのか
折戸に対する、ある種の尊敬が小関の行動を支配する。折戸の頼みを断れない小関。
(私には理解できない)

その分野では優秀であるが、好色漢の折戸。その後始末をさせられる小関。
助教授である折戸と小関。学問の分野では優秀であるが講師に据え置かれる西脇敏夫。
大学内での権力争いは主流の折戸を教授にすることで勢力の温存を図る。
小説は金沢での学会に参加した折戸と小関の行動から始まる。
学会のついでに女(笠原幸子)を旅行に誘った折戸。
一方の小関は、折戸と別れたあと古文書を見に古寺に立ち寄る。そこで近村達子に会う。
達子の兄は、高校教師で西脇敏夫の弟子であった。
笠原幸子にあきてきた折戸は、教授になることを契機に笠原幸子と手を切ろうとする。
折戸は結果として後始末を小関に頼む。
小関の話から、近村達子に興味を持つ折戸。
折戸は小関をだしにして達子を旅行に誘う。珍しく折戸の気持ちに逆らうように小関もいっしょに旅に出る。
笠原幸子は、折戸からの別れ話を苦にして、遺書を遺して自殺を図る。
笠原幸子の夫はすべてを知ることになる。
小関たちの旅行先のホテルに笠原幸子の夫から折戸へ電報が届く。
自殺を知らせ、面談を求める電報に動転し恐れおののく折戸。またも後始末を小関に頼む。
小関と笠原幸子の夫との話し合いは、予想外の展開となる。小関の報告は、折戸を安心させることになる。
冷静さを取り戻した折戸は、ここでも好色さを発揮する。隣室に宿泊する近村達子に手を出そうとする。

事態は急転する。
ホテルの廊下で争う折戸と達子のまえに、立ちはだかる笠原幸子の夫。修羅場だ。
笠原幸子の夫の話は、折戸を安心させるための計略だった。
>「...おれは、幸子の仇として君を殺すよ。学者の飾りをつけた君という油虫をな」

笠原幸子の夫の手に握られた「刃物」は、白く光っていた。
倒れたのは小関久雄であった。騒ぎを聞いて駆けつけた小関が仲裁に入ったのだった。
スキャンダルで葬られるべき折戸は、大学に教授として居座ることが出来る。

小関久雄は山陰の大学教授として赴任することになる。
西脇敏夫は大学の仕打ちに怒るが、ようやく折戸と離れることが出来る小関は何故かホットする。
結果は、すべてを知る小関久雄を飛ばすことによって旧態依然としてその勢力の温存を図る。

少しイライラさせられる。小関は好色漢の折戸を理解し最後まで弁護する。
最後の近村達子への手紙で自己分析をする小関。

>要するにそれは、ぼくが学問に異常な尊敬持ちながらも、実際にはそれだけの能力が自分に無いこと、
>また折戸はそれほど学問を尊敬していないように見えても、ぼくとは格段な能力を持っていること、
>その差からきているとおもいます。ぼくがかれに負け犬的な卑屈さをもっているとすれば、ぼくがあまりに
>学問を尊敬しすぎているかであり、また、折戸の学問の圧力がぼくにのしかかっているからだと思います。

理解できない。

小関に好意を見せる達子、小関もまんざらではなさそうだが口に出せない。
清張のアカデミズム批判は理解できるが、浜田学部長の西脇講師に対する描写など硬直すぎる感じがした。
でも、その「硬直さ」こそ清張の批判の対象なのだろう。


蛇足
清張作品に不足しているのは、「ユーモア」と「セックス描写」だと、何かの本で読んだ記憶がある。
でも、「セックス描写」はなかなかである。確かに、「ユーモア」は不足している。
私の読書遍歴は、不足している「ユーモア」を井上ひさしでカバーし、SF的志向を星新一で補っている。
さらに、ノンフイックションは千田夏光。ルポルタージュは本多勝一。
そして、私小説的リアリズムは小林多喜二で満たしている。
(特別意識したわけではないが)


2007年3月14日 記
作品分類 小説(長編)  308P×540=166320
検索キーワード 私立大学・助教授・古文書・歴史学者・高山の寺・愛人・好色漢・アカデミズム・高校教師・電報・ホテル
【カバー】妻を寝取られた挙句、ボロ布のように捨てられた男の怒りが爆発した。「学者の名を借りた油虫め!貴様を殺してやる!」男が折戸めがけて短刀を振り上げた・・・・・・。才能を鼻にかけ、己の出世と漁色のためには冷然と他人を犠牲にする、傲慢なR大学史学科助教授の折戸。学問上の負い目から常に彼に屈服してしまう小関。正反対の性格を持つ二人の心理的葛藤を、見事なコントラストで描き、背景にある大学の腐敗した派閥問題を鋭くえぐる。松本清張の野心的問題作!
登場人物
小関 久雄 主人公。助教授。折戸二郎の同僚。何故か女に縁のない男。独身、34歳
折戸 二郎 助教授。小関久雄の同僚、後に教授になる。好色漢。学問では優秀な男。36歳
折戸二郎の妻 折戸の妻。夫に不満を持ちつつもその出世に満足している。小関に縁談を勧める。
笠原 幸子 折戸二郎の愛人。進んで折戸の女になったのか?。遺書を遺して自殺を図る。死亡。
笠原幸子の夫 幸子の夫。化学繊維会社の技術部次長。妻を寝取られる。折戸に復讐の刃をむける。
近村 達子 高山の古寺で小関久雄と出会う。兄は、高校教師で西脇敏夫の弟子
西脇 敏夫 大学講師。浜田学部長の意向で助教授になれない。
浜田学部長 主任教授。小関や折戸の恩師。異常なまでに西脇敏夫を嫌う。
室田教授 小関久雄に高山の古寺の古文書を紹介する。

葦の浮船




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