題名 | 絢爛たる流離 第七話 灯 | |
読み | ケンランタルリュリ ダイ07ワ ヒ | |
原題/改題/副題/備考 | ●シリーズ名(連作)=絢爛たる流離 ●全12話=全集(全12話) 1.土俗玩具 2.小町鼓 3.百済の草 4.走路 5.雨の二階 6.夕日の城 7.灯 8.切符 9.代筆 10.安全率 11.陰影 12.消滅 |
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本の題名 | 松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離■【蔵書No0021】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1971/06/20●初版 | |
価格 | 800 | |
発表雑誌/発表場所 | 「婦人公論」 | |
作品発表 年月日 | 1963年(昭和38年)7月号 | |
コードNo | 19630700-00000000 | |
書き出し | 山辺澄子は、毎日、父親の経営する骨董店の店先にぼんやりと座っていた。父親は、そういう澄子の姿をなるべく見ないようにしていた。彼は娘の暗い翳にまつわられている。嫁入り前の娘と、離縁になって帰った娘との感じがまるで違っていた。今は崩れた「女」を感じていた。父親は忙しそうに外を飛び回った。彼は骨董の興味と金儲けとに没頭しはじめていた。彼はよく同業者を店に連れてきた。ほとんどが年輩者ばかりで、なかには七十ぐらいの老人もいた。彼らはちょっと見ただけでは職業に見当がつかなかった。自家用車かハイヤーをよく使っていた。これは骨董ものを運ぶためで、桐の四角い函や長い函などがものものしく鬱金の風呂敷に包まれていた。店先では彼らの仲間が集まって、今にも百万や二百万円は稼げそうな、景気のいいことばかりを言っていた。どこそこの旧家にはどういうものが残っているとか、売立てがあるとか、茶を飲みながら長話をした。 | |
あらすじ&感想 | 前作「夕日の城」(第六話)は、再読後、そのままで終わったものと思っていた。 そころが、「灯」は、続編。「灯」は、「アカリ」と読むのだろうか? 「ヒ」と、登録しています。(松本清張事典では「ヒ」で分類) 登場人物も、山辺澄子。 蛇足的研究で、 前作「夕日の城」(第六話)の続き。登場人物も、山辺澄子。 前作で、縁談があった澄子だが、会社員で事務員だった二十五歳の女が、父親の経営する >骨董店の店先にぼんやり座っていた。 とされ、離縁されていたのだが、山辺澄子がおかしい。 離縁になって帰ってきたとはいえ、『今は崩れた「女」を感じていた。』 結婚生活は何年続いたのか? 離縁の原因は? 何が「崩れた女」にさせたのか? 父親と澄子の関係もおかしな雰囲気だ。 書き出しでは、父親の名前は出ないが骨董商でその周りに集まる輩は相変わらずである。 「夕日の城」で何が起きたのか、続けて読まなければ理解できないであろう。 と、書いたが、見事当たった感じがする。『夕日の城』を再読しても完結と思ってしまった。 前作を読めば、『今は崩れた「女」を感じていた。』は、当然である。 わずか一年足らずの結婚生活だが、狂人との生活。そんな生活を仲人した男、粟島重介に対する復讐。 凄まじい経験をしたのであった。 仔細は分からないまでも、出戻りであることは、古物商の店へ出入りのものにも分かってきた。 縁談は、後添えの話がほとんどだった。 >「山辺の娘は顔立ちは悪くないが、どうも暗い。一度縁づいて帰ってくれば、あんなになるものかな」 事実を知らないものの大方の見方だった。 粟島重介と共同責任とも言える父親は、娘に憎まれていることを知っていて、「眩しげに避けていた」。 母親は、はらはらしながら傍に小さくなっていた。 父親は、商売が上手くなってきたと娘を褒めていたが、自らは、商売に没頭することで娘から逃げていたのだ。 古物商としても、小さな店先にいろいろ並べ、古美術に一端の口を利くようになっていた。 澄子は、店先の商売にはあまり関心は無かった。父親の居ない間は、留守番役で、電話番で、連絡係だった。 そんな澄子に気がかりがあった。 ふとしたことで、狂人の夫を思い出していた。夫も、その義理の両親も良い想い出としてだけ存在した。 粟島重介を殺したことなど実感から遠ざかっていた。 それよりも、〔あの女はどうしたかしら?〕 『共犯者』的な心理なのだろうか、しかし、すべて過去の出来事であり、忘却の彼方になりつつあった。 こうして一年ばかり経った。 澄子に縁談を持ち込む男がいた。金井一郎、三十五歳、下町生まれ。父親の店に出入りするかつぎ屋 父親も、相変わらず暗い澄子の存在を、鬱陶しく、目障りに感じていた。 金井は、何度も直接澄子に縁談を持ちかけた。 金井に連れられて見合いをすることになる。相手はおとなしそうな男だったが、どこか狂人の前の夫に似ていた。 この縁談は崩れた。 次に持ち込まれた縁談は、妻から逃げられたという小売電気商の主人だった。両親は乗り気だった。 仲人口で、言うほどの立派な店ではなかった。この話もまとまらなかった。 かつぎ屋の男である金井は、父親と一心同体で商売をしていたが、店を持っている父親には負い目があり 父親との関係を深めたいという下心からか熱心に縁談を勧めた。 村田省吾という男がいた。この男は大分の田舎の生まれで、三十七歳。脂ぎった顔のどす黒い感じの男。 十年前に東京に出てきて、いろいろ商売を替えたが今に落ち着いていた。 村田は澄子を映画や食事に誘って、ちょっかいを掛けていた。安物のブローチを送ったりしていた。 その村田は、金井とは、そりが合っていなかった。 >「あいつは狡い奴だからね」 >と、澄子に自分のほ卯からうから吹き込んだりした。 >「あんたは用心せんといけませんよ。腹黒い男だからね、何を考えているかもしれない。。商売もインチキ専門でさ」 また、金井の口からも同じようなことがささやかれていた。 金井は、村田が澄子に言い寄っていたことを知っていた。 父親は両人のことをよく知っていた。「金井の言う通り」が、父親の立場だった。 昭和二十×年晩秋の夜、澄子は殺された。 好奇心の強い新聞配達の少年が、二階に電気が点けっぱなしであることを不審に思い店に知らせた。 二階に澄子が住み、階下が店で、澄子の両親が住んでいた。 骨董店の戸を叩き、呼び出された。父は東北へ仕入れに出張、母親が出てきた。 「電気が点いている?」 母親はいったん外に出て二階を見上げた。灯の明かりは外からよく分かった。 確認のため、二階に上がって襖を開けた。娘が横たわっていた。死体だと気づいた。 >...それが女として正常なかたちで横臥していなかったからである。 「灯」が点けっぱなしの二階。このシリーズでは題名が直接的に文脈の中に登場する。 >「灯の明かりは外からよく分かった。」の表現があることからも「灯」は、「ヒ」と読むのか? なぜか気になる。 現場は、物取りに見せかけてあるが、暴行の上での殺害らしい。加害者は、暴行目的で、ガラスを焼き切り侵入したらしい。 死亡推定時刻は検視の所見とは少しずれて、午前一時過ぎから三時間の間と推定した。 解剖を担当した法医学教室の教授が自信を持って「だいたい、これで間違いないと思います」と、言った。 捜査が進む中で、犯人が絞り込まれてきた。金井一郎と村田省吾の二人だった。 村田省吾には窃盗の前科があった。懲役一年の実刑をくらっていた。妻はいたが、別居状態。 金井一郎には前科はないが、詐欺めいた行為はあった。江東区深川生まれの独身。 被害者の体内に残っていた分泌液から、血液型が特定されA型であることは判明したが、両容疑者もA型 しかし分泌液からでは詳細は不明だった。 ここで、血液型について少し詳しく書かれている。A型のラージQとか、MN式とか。 死亡推定時刻からは、アリバイが成立することになった。二人は否認を続けた。 思わぬ事から謎解きが始まる。 二人は、留置場に入れているとき地震があった。 その時の金井と村田の反応についての報告を聞いた主任刑事の顔色が変わった。 地震を手がかりにした謎解きだが、結論の導き出し方に疑問が... 地震の多く発生している地域に住んでいる者とそうでない場合では、揺れに対して、どちらが恐怖を覚えるだろか? 大きな地震の体験がある者とない者では...? 体験者は、体験に応じて地震の規模を考える、この程度ならたいしたことが無いとか...尋常で無い揺れ方だとか... 体験の少ない者は、小さな揺れでも驚く...私の体験だが。 謎解きの結論は省略する。 科学的所見(血液型と死亡推定時刻)の正確さが謎解きに一役買っている。 ただ、消化不良気味に感じる。第七話「灯」は、物足りない。 それに、ダイヤの行方が、行方不明だ! それに、山辺澄子の生き方が成り行き任せの感がある。粟島重介殺し以外は... 2019年02月21日 記 |
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作品分類 | 小説(短編/連作) | 15P×1000=15000 |
検索キーワード | かつぎ屋・縁談・後添え・暗い女・出戻り・地震・血液型・新聞配達の少年・ガラス・血液型・死亡推定時間 |
登場人物 | |
山辺 澄子 | 狂人との結婚生活も粟島重介殺害も忘却の彼方か...。暗く、崩れた「女」を感じさせていた。縁談は後添えの話ばかり。 |
澄子の父 | 粟島重介と同罪で狂人へ嫁がせた責任を感じていた。娘に憎まれていることを知っていて、「眩しげに避けていた」。 |
金井 一郎 | 三十五歳。澄子の父の古物店に出入りするかつぎ屋。澄子に縁談を持ち込む。江東区深川生まれの独身。澄子の殺害犯。 |
村田 省吾 | 大分の生まれで、三十七歳。脂ぎった顔のどす黒い感じの男。窃盗の前科、懲役一年の実刑。妻はいたが、別居状態。 |
新聞配達の少年 | 好奇心の強い新聞配達の少年。まだ暗い早朝の、骨董店の二階の「灯」を不審に思い家人(澄子の母)に知らせる。 |