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松本清張_共犯者

No_411

題名 共犯者
読み キョウハンシャ
原題/改題/副題/備考 【重復】〔(株)新潮社=共犯者(新潮文庫)〕
本の題名 松本清張全集 36 地方紙を買う女・短編2【蔵書No0086】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通) 
初版&購入版.年月日 1973/2/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「週間読売」
作品発表 年月日 1956年(昭和31年)11月18日号
コードNo 19561118-00000000
書き出し 内堀彦介は、成功した、と自分で信じている。○堀屋といえば、この福岡の市内では家具の月賦販売として今ではひろく知られている。「家具デパート」として宣伝したが、まず、五年間にしては、名前も売りこんだし、商売も思いのほかのびた、前からいる土地の同業者がおどろいている。商売の繁盛は、やはり彦介の長い間の外交員生活の腕が役立ったといえよう。しかし彦介は家具の外交をしてきたのではない。彼は十五年間、食器具の販売員として、ほとんど全国のデパートや問屋を回っていた。製品は印度向けの輸出もするメーカー品で、その会社の専属販売店で働いていたのである。商品見本をきれいにならべて詰めたトランクを提げて各地の問屋の軒先をくぐる。見本を見せて注文を取る。前に残った勘定を手形で貰う。予定が決めてあるから、一分間のむだもせずに、次の店に回らなければならない。いつも忙しく汽車の時間表を見ている。それが内堀彦介のかつての十五年間の生活であった。
あらすじ感想  内堀彦介は、成功した、と自分で信じている。
食器具の販売員であった内堀が家具屋として成功しているというのだ。
しかしと続く文章で一転する。
>しかし、彼の過去は、すぎ去った哀れな生活を愛撫している追憶だけではすまなかった。
>もっと大きな秘密の暗い陥没があった。

その秘密は、次ページですべて書かれている。(「共犯者」新潮文庫

家具屋で成功する為の資金は銀行強盗で得たのである。一人での仕業ではない。共犯者は町田武治。
町田は内堀同様、見本を鞄に詰めて回るセールスマンで、町田の扱うのは漆器だった。
彦介より八つくらい年下。青白い陰気な感じの男。
いわば商売仲間として内堀と町田は知り合った。
計画は町田が持ちかけた。銀行への手引きは彦介がした。
彦介は集金お金をその銀行に送金していたので内部に精通していた。犯行は一人の人間に重傷を負わせることになったが
成功した。
奪った金を山分けしながら
「お互いに、これまでのつきあいだぜ。今後は絶対に会ったこともない他人だ。
むろん、これからはハガキ一本のたよりもしないし、互いの住所もどこに移ったか知らせぬことにしよう」


約束は出来た。
しかし不安がよぎった。内堀彦介は町田武治に言った。
「なあ町田君。君はぼくよりも年齢(とし)も若いし、世の中がぼくよりもっと面白いに違いない。
しかし新聞を見てもわかるように、大金を派手に使うと、必ずアシがつく。ことに女はいけない。いろごとなら、もっと先で愉しめる
町田君、この金を資金(もとで)にして、目立たぬように商売をやるのだ。遊んではだめだよ」

町田の返事は
「内堀さん、おれも同じ考えだよ。中年のいろごとは危ないというからな。あんたこそ、気をつけなよ」

5年が経過した。
内堀彦介は福岡で成功した。最良の身にありながら新しい危惧に襲われてきた。
>どこにいるかわからないが、確かにこの世に町田武治が生きている。
それは共犯者から恐喝されるのではないかという不安である。

犯罪は単独犯か少人数でなければ発覚しやすい。仲間割れは疑心暗鬼が呼び水になる。
内堀は町田と約束したことと矛盾するが、町田の消息が分からないことに不安を覚える。
内堀に女が出来た。内堀は守りに入ることになる。

素晴らしい思いつきと考えたのだったが、それは破滅へと向かうことになる。
町田武治が宇都宮出身だったことを思い出した。
町田武治の近況を探ろうとするのだった。それは簡単に分かった。
電話局に問い合わせ、町田武治の名で調べる。該当者がある。しかも漆器商。
転落もせず、順調に商売をしている様子に一応安心
だが安心するのは早い、町田の具体的な状況は不明である。
知らないことは安心でもあったが、知ることによって安心を得るには更に知るべき事が増える。
町田を監視しなくては安心できなくなる。目に届くところで彼を捉えることだ。
監視の方法を思いつく。”商工特報社”なる業界紙をでっち上げる。
でっち上げるだけではなく、宇都宮の通信員として一人採用した。
東京の私立大学出で、二十八歳、妻帯者。ある会社に勤めていたが事業縮小により整理された男である。
竹岡良一と言う、
内堀は竹岡に町田武治を含めて適当な人物を三、四名上げ取材をさせる。町田以外の人物は新聞社発行の「商工大観」から
選んだに過ぎない。興信所に頼むことも考えたが、専属の見張りを付けたのだった。
不必要な人物は竹岡に怪しまれない為である。

最初の通信が、竹岡良一から送られてきた。もちろん他の人物の報告もあったが、内堀にとっては、どうでも良いことだった
町田の商売は順調。資産は推定300万円ぐらい。性格は多少孤独的で交際は上手なほうではない。
妻と二人の子。趣味は碁。酒は晩酌二合程度。婦人関係は聞かれない。
「商工特報」の社長、内堀彦介は竹岡良一を褒めた。続けての通信を依頼した。
美味い商売にありついた感のある竹岡は感激し、一度「本社」の福岡に挨拶に行くと言い出す始末である。
これには彦介も慌てて断りの手紙を出す。
町田の状況に変化はない。
ところが、竹岡が余計なことを詮索し始めた。
竹岡が通信した内容がいっこうに記事ならないのだ。「商工特報」なる発行紙があってもよく、通信内容はみんな没なのか...
印刷物などあろうはずも無い「特報新報社」なのである。
竹岡の疑問は当然なのだが、社長である内堀彦介は腹立たしく思った。
貴紙を一部でも送ってほしいと願う竹岡に、不定期発行紙だから通信文の採否は心配するな、
今まで通り通信することを指示した。

半年を過ぎた頃から竹岡の通信内容が一変する。
町田武治は競輪に熱中している。家庭内が不和である。
さらに彦介を不安にする通信が続いた。妾を囲っている。
竹岡はこれまで町田の経営する会社の営業内容が堅実だと報告したのは誤りだったと報告してきた。
調査の不十分さを詫びてきたのだ。
破産寸前の経営状態の報告が三,四回続きいた後に来た通報は内堀彦介を不安のどん底に落とした。
>町田武治は失敗した。店を整理し、当地から姿を消した。噂によると千葉市で小さな漆器の小売商をはじめるそうである。

几帳面に通信する竹岡であるが、もはや宇都宮からの通信は意味が無くなった。
彦介は竹岡に千葉への転勤を指示する。竹岡は了承する。
ここで少々疑問がある。
彦介に取っては、町田の近況を知ることだけが目的の竹岡の転勤であるが、残りの三,四名の通信は千葉市では困難になる。
偽装を繕う為には更に嘘が必要になる。この嘘は背に腹は代えられない。本来の目的を竹岡に知らせることになる。
表面的には装っての事だが...特別に町田の身辺を通信してくれるように指示を出す。
三ヵ月後の通信は町田の破滅を知らせてきた。
町田の破滅は、商人の没落の一形態として資料にしたいと言うもっともらしい理由で報告を続けさせた。
町田は大阪でニコヨンをしている。
町田は神戸でニコヨンをしている。
町田は岡山に移った。
山口県の柳井でにいるがどういう仕事をしているかよくわからない。
町田は漫然と放浪しているのではない。目的を持っていた。西へと向かう、内堀彦介の住む福岡へ向かっているのだ。
彦介は確信する。
竹岡の報告は続く。
町田武治は山口県の防府市にいる。
今は宇部市に行っている。
下関市でニコヨンになっている。
小倉市に行っている。何をやっているかわからない。
たたみかけるような竹岡の通信は続く。
”町田氏は小倉で病気になり、目下、寝込んでいる死活は浮浪者同様である。
寂しい山の裾に小屋をつくり、ひとり住んでいる。
以上は町田氏が従兄に宛てた便りで、小生はそれを見せてもらった。その住所を書きとったから、ご参考までに書いておく”

>---いま、すべての幸福が、彼から去って行こうとしていた。
捨て身の共犯者は、金持ちの共犯者を抱いて沈むだろう。
....成功の座からすべり落ちない共犯者に、嫉妬と憎悪を持っているに違いない。
逃れたい一心の彦介は一人の一生を絶ち、一人の生命を助けてくれる方法を考えついた。小刀を準備したのだった。
内堀彦介は、小刀を手に小倉に向かった。
目的の小屋を捜し出し、内部に一歩踏み入った。
「町田武治だな」彦介は小刀の柄を握った。
「うむ」呻くような返事が聞こえた。その声をめがけてとびかかった。
不意に懐中電灯に照らし出された彦介は、声を立てて笑う相手に驚く。その声は町田武治に似ても似つかぬ若い声だった。
「誰だ」
「やって
きましたね、内堀さん。竹岡です。あなたから雇っていただいている竹岡良一です」


「崖っぷち」での謎解きが始まる。
映像化にはもってこいの場面である。
町田武治が千葉から姿を消した話は嘘だった。竹岡は、疑問解決の為に行動を起こしていたのだ。
町田を福岡へと向かわせ、内堀彦介の所在もつかんでいた。
ただし、竹岡は、二人が犯した犯罪も、その共犯関係にもたどり着けていなかった。
そして、町田武治は内堀彦介との約束を守っていたのだ。

最後は
>そういって、竹岡良一は、何か合図めいた口笛を吹いた。外の暗い草むらの間から、警官の靴音が起こってきた。

そのままドラマになる。ひねりは必要ない。
犯罪の手口や、その描写はほとんど書かれていない。
反面、二人の職業について詳細が書かれている。
清張自身、箒の訪問販売を経験している。旅から旅への気楽な商売ではなく、その怨み節は実体験から来るものだろう。

細かいことを言えば、竹岡に疑問を持たれないようにもう少し小細工が必要だったのではないか。
ただ、小細工は新しい疑問作り出すことになる。


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●映画
1958年大映で映画化
●テレビドラマ
1 1960年版
2 1962年版
3 1964年版
4 1983年版
5 2006年版
6 2015年版
 6度のテレビドラマ化が示すとおり映像化されやすい作品なのだろう。

初期のドラマ化は原作に忠実だが、2006年.2015年は主人公が女性に代わっている。少し違和感がある。



※蔵書が重複している
共犯者〔(株)文藝春秋社=松本清張全集36(1973/02/20)〕
共犯者〔(株)新潮社=共犯者(新潮文庫)(2002/06/05)〕

※【ニコヨン】
1949年6月、東京都の失業対策事業として職業安定所が支払う日雇い労働者への定額日給を240円と定めた。
そしてこの百円2枚と十円4枚という日当から日雇い労働者のことをニコヨンと呼んだ。
ただし、日当の額の変化とともに意味を成さなくなり、この呼び方は使われなくなる。


2017年4月21日 記
作品分類 小説(短編) 14P×1000=14000
検索キーワード 銀行強盗・食器の販売員・漆器の販売員・家具屋・千葉市・山口県・小倉・小屋・通信員・商工特報 
登場人物
内堀 彦介 元は食器具の販売員。福岡で家具屋として成功。町田と銀行強盗の過去がある。共犯者の町田が気になり動向を探る。
町田 武治 漆器商。彦介より八つくらい年下。青白い陰気な感じの男。銀行強盗の主犯格。内堀の共犯者。
竹岡 良一 東京の私立大学出で、二十八歳、妻帯者。事業縮小により整理された男。商工特報社の通信員として内堀に雇われる。

共犯者




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