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松本清張_切符 絢爛たる流離(第八話)

No_108

題名 絢爛たる流離 第八話 切符
読み ケンランタルリュリ ダイ08ワ キップ
原題/改題/副題/備考 ●シリーズ名(連作)=絢爛たる流離
●全12話=全集(全12話)
 1.土俗玩具
 2.小町鼓
 3.
百済の草
 4.
走路
 5.
雨の二階
 6.
夕日の城
 7.

 8.切符

 9.
代筆
10.
安全率
11.
陰影
12.
消滅
本の題名 松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離【蔵書No0021】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/06/20●初版
価格 800
発表雑誌/発表場所 「婦人公論」
作品発表 年月日 1963年(昭和38年)7月号
コードNo 19630700-00000000
書き出し 山口県宇部市。 足立二郎は、その町の古物商であった。敗戦から数年経っていた。足立二郎は、大きな古物屋ではないが、目ぼしい古い物は何でも売れた時代で、それなりに商売繁盛をつづけていた。わざわざ北九州や京阪神からめぼしい物を彼の店に探しにくる同業者もあった。しかし、足立二郎は資金を持たない。彼は同業者のヤミ儲けを聞いて羨ましがってはいたが、元手のない悲しさは手いっぱいの商売で満足するほかはなかった。もっとも、彼にはヤマを張って伸るか反るかの取引をするような冒険心もなければ勇気もなかった。ところで、最近、同業者がやってきては店先に座っている二郎に、「あんたンとこに針金はないのかのう?」と、よく訊くようになった。針金でも、それは二十四番から二十五,六番といった細いものだった。はじめは、どのような目的でそれが探されているのか分からなかったが、あんまり業者が同じ品物を求めにくるので、その一人に訊いてみた。
あらすじ感想    山口県宇部市の古物商足立二郎が主人公。
第五話で、戦後のヤミ市時代、第六話の「夕日の城」・第七話「灯」から主人公は古物商。

古物商の足立二郎の店に同業者がやって来て、「あんたンところに針金はないかのう?」と、よく聞くようになった。
針金が商売になるらしい。
足立二郎は、この話を知り合いの米山スガにした。
元芸者の米山スガは、三十を三つぐらい越して、大阪の骨董商の愛人だった。
足立二郎は、米山スガとは小学校からの友達だったが、色恋の感情はなかった。彼は女房との間に三人の子供がいた。
スガの旦那は、よっぽど儲けているらしく、スガに家を買い与えているだけでなく、スガの指には素晴らしいダイヤの指輪
嵌められていた。足立二郎はそれを見て「えらいもの持っているね?」と、やっかみ半分に聞いてみた。
旦那からあずかったと答えながらも、実質貰ったもので、三カラット以上、台はプラチナと自慢した。
酒好きのスガに針金の話をしながら、骨董商の旦那に頼めないか聞いてみた。
旦那の商売とは違うようだと言いながら、儲け口であると聞いたスガは、A製鋼所の偉い人に聞いてみると答えた。
その偉いさんは、芸者時代のなじみ客らしい。
A製鋼所と言えば針金製造では業界屈指のメーカだった。
スガの話は早くて正確だった。
二週間ぐらい経って米山スガは足立二郎の店先にやって来た。
新品は、「臨時物資需給調整法」があるからだめだが、製造過程で出る「ヤレ」なら、切符のない人に流しても警察に
ひっかからなで済む。沢山ではないが数回に分けてなら出してもよいとの話だった。
縒があっても新品である。 

一ヶ月後薦に包まれた針金が届いた。
銀色に輝く、眼を見張るような針金だった。ただ、縒がひどく「ヤレ」と言うだけにひどい状態だった。
やっと六メートルばかり伸ばして「見本」とした。同業者は驚嘆して欲しがった。
縒れた針金を伸ばすために女工を雇うことになった。安値で縒れた針金は、米山スガが回してくれたが、それを伸ばすための
女工を雇う金が大きな負担となった。
そんな時、足立二郎の店に一人の男がやって来た。
三十四,五くらいの工員服を着た男で、坂井芳夫という名前だった。山口市に住んでいるらしい。
この男が、広島に新品ではないが針金があるという。被爆した針金だという。
その話に乗って、大儲けを企んだ足立二郎の夢は見事に挫折してしまう。
「被爆針金」はコシがない。脆くて使い物にならなかった。
話を持ちかけた坂井芳夫も、そんな事情を知ら無かったと謝った。
そんな坂井が驚くべき提案をしたのだった。
縒がひどく「ヤレ」た針金を、機械化して伸ばそうというのだ。
それも、その機械を坂井芳夫自身が設計するというのだ。坂井はW大学の機械科を出ているというのだ。
それも、金属を使うのではなく、木材で機械を作るというのだ。
女工の手間も四分の一以下で済むという坂井芳夫の話を、足立二郎は信用した。
当面の生活費と「設計研究費」を坂井に与えた。
機械の費用が三十万円くらいかかると聞いたが、足立二郎には、その金がなかった。
足立は、その金を米山スガに出させようと考えた。スガを説得して十五万円ほど出させることが出来た。

ようやく機械が出来た。大仕掛けの木造身延機とでも言うものが十坪の工場に鎮座した。
その機械は「...その巨大な機械はあたかも反逆した象のように人間意志に梃子でも従わなかった。
見事に失敗したのだった。
米山スガの猛烈な返金の督促が始まった。
坂井芳夫は、もう一度設計をやり直させてくれと言うが、足立は懲り懲りだった。
このあたりで坂井の詐欺師的人物像が浮かび上がってくる。
坂井は足立に、ヌケヌケと迷惑を掛けた事を口実に、山林の売買を持ちかける。
一時的にも返金の督促からのがれる為にもと、足立を口説く坂井だった。
>「で、その山林とうのがどくにある?」
>「それはな、大分県の耶馬溪の奥にある」

足立と坂井は、二人で米山スガを説得にかかる。ここでも坂井の弁舌で米山スガは、心を動かす。
三人は現地を見に行くことになる。
米山スガは、ダイヤの指輪をして列車に乗る。スガの指輪に眼を付けた坂井の希望なのだ。
実は、この土地の下見は、坂井が計画した、米山スガ殺害計画なのだ。
耶馬溪までは遠かった。宇部市から耶鉄の柿坂駅、そして耶馬溪までの殺人行が始まる。

計画通り耶馬溪の山奥で米山スガを殺害した。
柿坂駅から宇部市に帰り着き、構内を出ようとしたとき、坂井芳夫が叫んだ。
>「あっ、しまった。えらいことをした
殺して埋めた米山スガの着物の中に汽車の切符が入っていたというのだ。
切符一枚ぐらいは...という足立に対して、「何を言うんだ。あの切符から女の身元がすぐ分かる。...」
ここから少し強引だが
坂井芳夫は足立に、現場まで引き返し死体から切符を抜いてこいと言った。
自分は山口にどうしても帰らなければならないというのだ。
断る足立二郎に坂井は言った。
>「どうして出来ない?」
>「怖い。恐ろしいのだ。とてもおれ一人では行けない、から、君もいっしょに付いて行ってくれ」
>「出来ないね」
坂井は拒絶した。
その言い訳が
>「...どうせ独り者の風来坊だからね。しかし、君はそういうわけにはいかないだろう。
>女房、子もあるし、店もちゃんと持っている。風来坊のおれとは違う」

開き直る坂井芳夫。
一晩経って足立二郎は現場に行くことになる。

結末はドンデン返しになる。
今回は、結末を書かないことにする。
ダイヤの指輪は何処に行ったのだろう?



1.「臨時物資需給調整法」は、まだ生きている法律なのか?
2.柿坂駅:耶馬渓線(やばけいせん)は、かつて大分県中津市の中津駅から同県下毛郡山国町(現・中津市)の
 守実温泉駅に至る、大分交通が運営していた鉄道路線である。地元では「耶鉄」と称される。
 柿坂駅は第二期工事の終点として大正3年に開業した。その後第三期工事が完成する大正13年までの10年間のあいだ、
 耶馬渓鉄道の終点としてその任を果たした。深耶馬溪(しんやばけい)観光の基地となり、大正14年には駅名を「深耶馬溪」
 と改めた。


2019年04月21日 記
作品分類 小説(短編/連作) 15P×1000=15000
検索キーワード 古物商・針金・縒・ヤリ・機械科・設計図・耶馬溪・土地取引・酒・骨董商の愛人
登場人物
足立 二郎 古物商。米山スガとは小学校時代からの友人で、色恋の感情はなかった。。女房との間に三人の子供。
坂井 芳夫 三十四,五くらいの工員服を着た男。山口市に住んでいるらしい。自称だが、W大の機械科卒。饒舌な詐欺師的な男。
米山 スガ 三十を三つぐらい越して、大阪の骨董商の愛人。元芸者。足立二郎の商売に資金を出すが、失敗する。酒好き。

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