〔(株)文藝春秋=松本清張全集66巻 収録〕
題名 | 削除の復元 | |
読み | サクジョノフクゲン | |
原題/改題/副題/備考 | ●シリーズ名=草の径 ●全8話 1.削除の復元 2.ネッカー川の影 3.死者の眼の犯人像(改題=死者の網膜犯人像) 4.「隠り人」日記抄 5.モーツアルトの伯楽 6.無限の渦巻文様(改題=呪術の渦巻文様) 7.老公 8.夜が怕い |
※「松本清張全集 66 老公 短篇6」 では、 シリーズ「草の径」ではなく単独で収録 ●削除の復元 全集66:「草の径」 1.老公 2.モーツアルトの伯楽 3.死者の網膜犯人像 4.ネッカー川の影 5.「隠り人」日記抄 6.呪術の渦巻文様 7.夜が怕い |
本の題名 | 松本清張全集 66 老公 短篇6■【蔵書No0233】 | |
出版社 | 文藝春秋(株) | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1996/03/30●初版 | |
価格 | 1631円税込み:中古/アマゾン | |
発表雑誌/発表場所 | 月刊「文藝春秋」 | |
作品発表 年月日 | 1990年(平成02年)1月号 | |
コードNo | 19900100-00000000 | |
書き出し | 小説家の畑中利雄は、北九州小倉北区富野の工藤徳三郎という未知の人に手紙をもらった。畑中はときおり自作のことで読者から手紙やハガキがくる。批判もあれば疑問の質問もある。賞められることはめったにない。工藤徳三郎という人の手紙は質問だった。しかし、畑中の書いたものではなく、I書店から出版された『鴎外全集』(決定版)の「小倉日記」についてだった。同書店では『鴎外全集』をこれまで昭和十一年版と昭和二十七年版と二回出しているが、三回目の『鴎外全集』は大型の装幀で「決定版」と銘打ち、「小倉日記」収録の第三十五巻は昭和五十年一月二十二日発行であった。 | |
あらすじ&感想 | 鴎外の評伝類は汗牛充棟(カンギュウジュウトウ)ただならぬものがある。 「汗牛充棟」の四文字熟語で表されている。 ※《柳宗元「陸文通先生墓表」から。引くと牛が汗を流すほどの重さ、積むと家の棟に届くほどの多さの意》蔵書が非常に多いことのたとえ。また、多くの書物。 作品的には、「純文学」である。文学は、いろいろなジャンルに分けて語られることが多い。無学の徒としては、その話の端にも加わることが出来ない。 この作品「削除の復元」」には戸惑うばかりでした。 タイトルは明確で、まさに「削除の復元」です。作品は清張最晩年の1990年(平成2年)の作品です。 森鴎外の話で、1952年(昭和27年)に書かれた、「或る『小倉日記』伝」に通じる話でもあります。 半世紀を経て再び(厳密には何度か鴎外を書いています)鴎外にたどり着いたのでしょうか?考え深い物があります。 条件反射のように、鴎外関係で清張作品と言えば、「或る『小倉日記』伝」を上げましたが、1969年(昭和44年)に「鴎外の碑」という作品を発表しています。 「両像・森鴎外」(1984年/昭和59年)を忘れていました。 松本清張の森鴎外に対する思い入れは特別なものを感じます。 小説として書かれているので、「森鴎外」と言う現実の人物の素顔を真実として捉えてい良いのか分かりません。 清張作品に時々登場する、評伝的小説?伝記的小説?(実在した人物を小説として書く)なのでしょうが、少々苦手です。 畑中利夫は清張自身だと思います。 畑中に未知の男から手紙が届く。小説家である畑中はときおり読者から手紙やハガキが届くことがある。 手紙の主は、工藤徳三郎。 手紙の内容は質問だったが、畑中の書いたものではなかった。I書店から出版された「鴎外全集」の「小倉日記」についてだった。 「鴎外全集」と言えば、岩波書店です。I書店とはまさに、岩波書店。 手紙に添えられた「コピー」が、第三回に出版された「完全版」に初めて付けられたものだった。 鴎外は毛筆で書く。 削除する場合にいつも墨で棒を引いている。「小倉日記」の場合、他の者に毛筆で清書させたようだ。 削除の文章が長すぎたせいだろうが、「後記」によると和紙を貼って削除訂正していた。 これらの記述が、事実なのか読者としては判断しかねる。ただ、これが作り話だとしたらリアリティーが雲散霧消だ。 手紙は、小倉の富野に住む、工藤徳三郎と名乗っている。 そして、友石定太郎の縁続きの者だと自己紹介をしている。 友石は、鴎外が小倉鍛治町に住んでいたころ、鴎外家に仕えていた「婢元」の嫁ぎ先。(「後書」に書いてある) 工藤徳三郎は、その辺りを調べたようだ。 ※「婢」とは、女の召使いとか、下女とか言う意味だが、「婢元」とは下女の名前が「元」(モト)なので、下女のモトという意味? 友石類太郎の長男が友石定太郎。定太郎と「婢元」とが結婚した。しかし、定太郎は、31歳で病死している。一度も結婚はしていない。 元は、木村元と言い、気に染まぬ結婚して、耐えられず逸走し、鴎外の女中として雇われた。が、その時既に妊っていた。 これらの事は、 >「貴下が、『小倉の鴎外』で書かれています。と述べている。 畑中は『清張』であり、『小倉の鴎外』は、「或る『小倉日記』伝」か「鴎外の碑」を示すものかもしれない。 工藤徳三郎の手紙は、元が、鴎外を訪問して、「夫婚の家」について虚言を言ったのか? ※ここで私は混乱しました。「鴎外の碑」と言う作品に思い当たったのです。「鴎外の婢」と「鴎外の碑」 「鴎外の碑」は、一読したことはありますが、内容的には全く覚えていません。婢と碑は? 畑中は、自作の「小倉の鴎外」のなかで、『婢元』について書いていたようで、手紙の主の工藤徳三郎は、疑問を尋ねながら教示を願ったのだった。 畑中は、通りいっぺんの返事を書いた。 >「元女」が旧主鴎外のもとに来て夫婿について虚言を云ったとすれば、それはたぶん女の見栄からではないでしょうか。 >あまり貧乏くさい家庭に嫁いだとあっては旧主に対して疎ましい気持ちがあって、つい、 >無邪気に事実を曲げたのではないかと思われます」 畑中の返事に対して、工藤徳三郎は、同意して、「私もそのように感じていたところです。ありがとうございます」 と、礼状をよこした。 畑中利夫と工藤徳三郎の交渉はそれっきりで終わった。 畑中利夫は、心残りだった。「通りいっぺんの返事」で満足していなかった。 作品の中では、鴎外家の女中達の状況がイロイロ書かれている。 畑中は、自身で調べ始める。畑中は、まるで、「或る『小倉日記』伝」の田上耕作のごとく行動する。 以後は、畑中利夫の木村元を中心とする関係者の調査とも言える。 それは、紛れもなく、鴎外の「小倉日記」を拠り所にした調査だった。 「日記」は、正確とは限らない。 話は進んで、登場人物は多岐にわたる。畑中の調査は死んだ友人の弟の白根謙吉に引き継がれ、二人の対面での会話で結末に向かう。 推理小説の謎解きと違って、興味が無ければ退屈な話になってしまう。 それを、読ませるのは作家の力なのだろう. 「削除の復元」のタイトルが意味深である。テーマが作品内に埋め込まれている。 一つは、鴎外が、文章を書く場合、毛筆で書く、そしてそれを訂正する場合、和紙を貼って、削除・訂正をしていた。 もう一つが、白根謙吉が調べた、「釈正心童子」という、墓石に見られる、剥離された痕の発見である。 寺の住職の話では、浮説としながらも、「釈正心童子」は、鷗外と元のあいだに生れた遺児なのでは... 削除が復元されれば...タイトルに込められた内容に、文学的な深さを感じる。 話は逸れて、蛇足になるが、私は、「半生の記」に触発されて家系の調査を始めた。(2022年夏頃から) 両親の調査ももちろんだが、小学校6年頃まで同居して居た大伯父の経歴が知りたく、興味を持った。 戸籍謄本など取り寄せ、何年ぶりかで実家にも帰り、市役所の戸籍係にも面談するなどして、それなりの調査をした。 調査の結果を纏めて、「○○家の物語」・「○○の戸籍」として、私の兄弟に送った。 四人兄弟の末っ子である私の調査に驚いていたが、反応の濃淡はそれぞれだった。 以下、小説の材料として、私の調査結果を示します。事実は小説より奇なりです。信じてもらえますか? ①両親は従妹同士でした。 ②父方の祖父の妻・祖父の兄(大伯父)の妻・母方の祖母は、三姉妹だった。 ③大伯父(長男)が家督想像したが、祖父(三男)が本家を継ぎ、その後長男(父の兄)が継ぐ。 ④戸籍上、祖父の兄(長男以外に、二男)が居るのだが不明。)(戸籍謄本には祖父は三男の記載がある/名前は不明) ⑤父(二男)は大伯父と暮らす。父と大伯父は養子縁組をしていたと思っていたが、養子では無かった。 ⑥戸籍上は、大伯父は死亡するまで戸主のママだった。(戸籍謄本上は本家の戸主)。、実質的には本家を出て行った。 戸籍謄本上の動きは複雑で、父は、姪孫として祖父の父の妹の籍に入籍していた。 まだ少し書き足すべき事実がありますが、これまでの戸籍上の関係を信じてもらえますか? ※それぞれの関係は、私を基準に書いています。 『削除の復元』は、「或る『小倉日記』伝」以上に、純文学的な匂いのする作品と言える。 鴎外家で女中をしていた「元」が、鴎外家を去ってからの経歴が話の中心になっているようだが、彼女の遍歴は鴎外の遍歴とも言えるので 興味はあるが、なぜか、入り込めない。 畑中利夫の調査と、それに続く白根謙吉の報告は基本的に、割愛しました。読んでのお楽しみと云うことで。 記述が正しいのか(歴史的事実なのか?)分からないし、清張の想像で「仮構」の世界の話なのか、ついて行けないのが正直な気持ちだ。 最後は、【白根謙吉は、あれから畑中のところに現れない。】で、終わっている。 ----------------------------------------- ■作品に登場する人物抜き書き■(重複もあると思いますが...参考までに書き出しました) 友石定太郎 赤松則良 赤松登志子 吉村春 吉村元(木村モト) 吉田春 末次はな 久保忠造(でんの夫) 元の姉(でん/長女) 杉原了俊 木村デン 木村モト 木村良高 木村タツ 山田真円 白根謙吉 宮下道三郎 田中寅吉 久保平一 森平一 玉水俊?(タマミズシュンコ) 森林林太郎(森鴎外) 額田晋(ヌカダススム) 小金井良精 ----------------------------------------- ●四文字熟語? 汗牛充棟(カンギュウジュウトウ) 道聴塗説(ドウチョウトセツ) 冗語笑声(ジョウゴショウセイ?) 功彗譎黠(コウスイケツカツ?)
-----------------------------------------
●童子 1歳余にして不幸に世を去った幼児に付けられる戒名 ●婢 声符は(卑)(ひ)。に卑賤の意があり、俾使(ひし)の意がある。そのような女を婢という。〔説文〕十二下に「女のしきなり。女に從ふは亦聲なり」という。 古い時代には、女の罪ある者を没して官婢とした。 [訓義] 1. はしため、下女、女奴。 2. わらわ、めわらわ。 3. めかけ。 4. 女の謙称。 2025年03月21日 記 |
|
作品分類 | 小説(短編/シリーズ) | 30P×1000=30000 |
検索キーワード | 森鴎外・婢・女中・小倉日記・夫婚・嫁ぎ先・虚言・毛筆・墓・童子・見栄 |
登場人物 | |
畑中 利夫 | 小説家。清張を投影している人物と言える。「小倉の鴎外」なる作品を物にしている。「鴎外の小倉日記」の研究家でもある。 |
工藤 徳三郎 | 市井の鴎外研究家? 畑中利夫に手紙を出して質問する.。友石定太郎の縁者。 |
友石 定太郎 | 友石類太郎の長男。木村元の結婚相手とされるが間違いらしい。 |
木村 元 | 20歳の時、鴎外家の女中になる。当時婚家から逃れて女中になったが、妊っていた。 |
白根謙吉 | 畑中利夫の友人の弟。某私大の文学部の助手。畑中に代わり「釈正心童子」の墓を調査する。 |