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松本清張_ネッカー川の影  草の径(第二話) 

〔(株)文藝春秋=草の径(1991/09/30)で第四話として発表〕

No_072

題名 草の径 第二話 ネッカー川の影
読み クサノミチ ダイ02ワ ネッカーガワノカゲ
原題/改題/副題/備考 【重複】〔(株)文藝春秋=松本清張全集66〕
●シリーズ名=草の径
●全8話
1.
削除の復元
2.ネッカー川の影
3.死者の眼の犯人像(
改題=死者の網膜犯人像
4.
「隠り人」日記抄
5.
モーツアルトの伯楽
6.無限の渦巻文様(
改題=呪術の渦巻文様
7.
老公
8.
夜が怕い
●草の径(7話)
1.
老公
2.
モーツアルトの伯楽
3.
死者の網膜犯人像
4.ネッカー川の影
5.
「隠り人」日記抄
6.
呪術の渦巻文様
7.
夜が怕い

※「
削除の復元」が未収録
本の題名 草の径【蔵書No0039】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1991/08/01●3版1991/09/30
価格 1300
発表雑誌/発表場所 月刊「文藝春秋」
作品発表 年月日 1990年(平成02年)4号
コードNo 19900400-00000000
書き出し 今朝も、あの日本の留学生が窓の下を通る。今朝も、というのは浅尾利江子がこのテュービンゲンのホテル《Burgwache》(城の望楼)に泊まって四日目の朝九時ころだが、毎朝その人を二階の窓から見かけた。日本の留学生とは、ホテルの主婦ディアナが云った。その留学生は前額が広く、すこしちぢれげで、髪がうしろに長かった。やや猫背にして坂道をゆっくりと登ってゆく。その横顔からして三十をかなりすぎているかと思われた。坂道を上がりきったところにあるのは橋で、中世の刎ね橋である。下に周濠があって黒みがかった水に重い緑色の藻が浮ぶ。高い石垣は蔦の網に蔽われている。橋を渡るとホーエン・テュービンゲン城の正面となる。道は海鼠状の石の煉瓦を敷き詰め、煉瓦と煉瓦の間は薄紙一枚差し込めぬくらい接合して地面に深く食い込んでいる。東西にやや矩形のプランの中央が本丸の建物で、四隅に八稜屋根の円筒を配置していた。中庭は広々している。周辺は樹林に囲まれていた。
あらすじ感想  小説は、ホテルの女将と利江子の話から、ヘルダーリンの話に移っていく。実在の人物らしく、その説明も詳しく書かれている。
正直、苦手だ。全く個人的な嗜好なのだが、外国人の名前がカタカナで多く登場するだけで引けてしまう。
ここまでで、直ぐに思いついたのが「誤訳」である。私の読後感も同じようだと思った。多少こじつけかもしれないが内容的にも同類と感じた。

1.の文節(章立ての殆どがヘルダーリンについてである。ヘルダーリン塔を見物する利江子の蘊蓄とも言える。
父親からの影響からもあるのだろうが、ヘルダーリンに少しでも関心がないと、退屈する。

利江子は友人にヘルダーリンの愛読者がいて、多少興味をもっていた。
そのことが、夫との待ち合わせの場所として、ドイツのテュービンゲンを選ばせた。

ホテルの近くの大通りで
利江子は留学生から声をかけられる。二十六~七歳の丸顔の男。隣にもう一人いたが、二人とも三十前だが、ニシハラは、三十をずっと出ている顔だった。
声をかけた男が、川添章太、26、7歳の男である。もう一人が西原淳吉、京都の大学の考古学の講師。
西原淳吉は、利江子が宿泊しているホテルの前を毎日のように通りかかる男で、ホテルの女将の娘がニシハラと言う名であることを教えていてくれていた。

二人の男は、宿泊先のホテルに利江子を訪ねてきた。
利江子の宿泊先は、ホテルの近くで城を描いている老画家がニシハラに教えたようだ。
訪問してきた二人だが、西原はおとなしく、話は川添が積極的に進めた。
大通りで会ったときは特別な自己紹介はしていなかったが、正式に訪ねてきた二人に自分お立場を説明した。ヘルダーリンについても少し触れた。
それに先立ち、二人も自己紹介をした。
川添は遠慮がちに聞いた。
>「もうすこしお時間をいただいていいでしょうか」
.....二人のお話をうかがいたいんですと言う、利江子の了解を得て、
>「ぼくよりも」 川添は顔を隣むけた。
>「西原さん、あなたの先史学のことを浅尾さんに話されたらいかがですか。ハイデンベルグ人の骨とか石器の話などはいつ聞いても興味深いですよ。.....」
いささか突然のきらいがあるが、西原淳吉はためらいながらも話し始めた。

西原淳吉の話は、この小説の基礎になる話しのようである。西原の専攻学問なので詳しく深く語られている。
先史学は、私にとっては考古学で、清張作品によく登場する蘊蓄として感じられ、申しわけないが少し興味を外れているのです。

西原の話に対して、利江子は興味があるのか、幾つかの質問をしながら、西原のプライベートな部分へ話が進む。
西原は妻を日本に残し単身でデュービンゲンに来ているらしい。
西原の状況は、彼が手洗いで席を外している間に川添が話してくれた。
お手洗いから戻ってきた西原は、話はさらに続く。

利江子と、西原、川添の話は、ナターリエの提案で、ネッカー川上流の探索に出掛けることになった。
四人の旅は、発掘調査のハイキングのような様相になった。
またもや、川添は利江子と二人きりになった機会に西原のことを話した。
西原は、大学からの公費留学ではなくて、私費留学である。西原の実家は、資産家らしく、税理事務所を経営している。
私費留学の学費くらいは大丈夫らしい。西原の妻は美人らしく、自慢で、写真を見せたがる。

利江子が、西原に妻の写真の話を振ると、上着のポケットから写真を取り出して見せた。
川添の言う通り、美人の妻だった。彼女は、西原の父が税理士でその手伝いをしているらしい。

利江子は西原に興味はありそうだが、特別な感情はもっていないようだ。
川添は、西原については、利江子にイロイロ話すが、自身のことについては殆ど語らない。それに利江子についても特別な興味は無いようだ。

一年が経過する。
江利子は東京目黒の祐天寺の商店街を歩いていた。買い物だった。
夕方近くで、買い物客で賑わう道すがら、妊婦服にコートを羽織った女性と出会った。粗末なコートで、臨月に近いお腹をしていた。
片手に買い物篭の女性は、利江子に視線を向けることは無かった。
家に着くまでの間にもその女性が誰だか思い出せなかった。
利江子は、思い当たった。彼女は西原淳吉の妻では...確か、京都に住んでいる筈だったが....

西原淳吉から二ヶ月前くらいに絵ハガキが届いていた。
ハガキには、川添章太は、留学を終えて帰国したと記されていた。西原の妻のことには何も触れていないが、彼の先史学の調査が嬉々として綴られていた。

彼女の部屋には、あのテュービンゲンのホテルの前で絵を描いていた老人の描いた絵が飾られていた。
この水彩画を描いた独身の老画家は、五十代のとき奥さんに逃げられたきりだそうだ。


何も起こらない。
前半のエピソードは何だったのだ。
これが純文学というのだろか?
心理描写と言うほどの描写もない。

文学にド素人の私には、最後の一ページ。利江子の帰国後の話だけで十分だと感じてしまった。
私の深読みかも知れませんが、この小説は、夫婦の物語というか、夫婦の関係のお話ではと思いました。
浅尾夫婦・老画家夫婦・ディアナ、アダベルト夫婦・西原夫婦。そして、実在の人物である、ヘンダーリン夫婦
それぞれが持つ夫婦の関係性が主題ではないかと感じた。


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●ヘルダーリン
ドイツの詩人、思想家。
ラウフェンに説教師の息子として生まれ、テュービンゲン大学で神学生としてヘーゲル、シェリングとともに哲学を学ぶ。
卒業後は神職にはつかず各地で家庭教師をしながら詩作を行い、書簡体小説『ヒュペーリオン』や多数の賛歌、頌歌を含む詩を執筆したが、
30代で統合失調症を患いその後人生の半分を塔の中で過ごした。
生前はロマン派からの評価を受けたものの大きな名声は得られなかったが、古代ギリシアへの傾倒から生まれた
汎神論的な文学世界はロマン主義、象徴主義の詩人によって読み継がれ、ニーチェ、ハイデッガーら思想家にも強い影響を与えた。


2025年05月21日 記 
作品分類 小説(短編/シリーズ) 45P×630=28350
検索キーワード 純文学・ドイツ・テュービンゲン・ヘルダーリン塔・画家・先史学・留学生・愛妻家・税理士・夫婦関係・目黒・祐天寺・妊婦 
登場人物
浅尾 利江子 ホテル「城の望楼」に滞在している。物理学者の夫が国際会議に出席のためホテルで待ち合わせ。帰国後祐天寺で妊婦を見かける。西原の妻?
浅尾 伸雄 半導体物理学国際会議に出席。ユーゴスラビアとロンドンに滞在している。妻の利江子とは、テュービンゲンのホテルで待ち合わせ。
ディアナ ホテル「城の望楼」の女将
アダベルト  ディアナの夫 
ナターリエ  ディアナの娘。ニシハラの名前を同じだ医学生から聞いたらしい。そのため、ディアナの知るところになる。 
川添 章太 西原と二人連れだったが、最初に利江子に声をかける。二十六~七歳の顔の丸い男テュービンゲンの大学に来ている留学生と自己紹介する。東北の私大の講師
西原 淳吉 京都の大学の考古学講師。先史学を専攻している。愛妻家のようだが、裏がありそうだ。実家は税理士事務所の経営で裕福。妻はその手伝いをしている。
画家 72歳。五十過ぎの時奥さんに家出をされる。ホテルの前で城を描いている。利江子はこの老画家の絵を購入した。
ヘルダーリン(実在の人物) 詩人。精神病者として、73歳で死亡。小説内の登場人物。ドイツの詩人、思想家で実在の人物。妻に裏切られる。

ネッカー川の影




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