研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室:完成登録

2016年09月21日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_074

 【遠い接近
(【黒の図説】第九話として発表)


研究発表=No 074

【遠い接近】 〔週刊朝日 1971年8月6日号〜1972年4月21日号〕

夏が過ぎ、九月にはいると,どこの印刷所もぼつぼつ活気を帯びてきた。連日徹夜をしてもまだ足りない一二月の忙しさがこのころからぼつぼつはじまる。【遠い接近】(株)光文社/新書(KAPPANOVELS)より

夏が過ぎ、九月にはいると,どこの印刷所もぼつぼつ活気を帯びてきた。連日徹夜をしてもまだ足りない一二月の忙しさがこのころからぼつぼつはじまる。自営の色版画工の山尾信治には夏でも仕事の切れ間がなかった。小川町の裏通りにすんでいる彼は、神田から四谷にかけて二つの大きなオフセット印刷所と三つの小さな石版印刷所を顧客に持っている。戦争がしだいに激しくなってきていたが、信治の仕事は、減らないばかりか、かえって忙しくなっていた。色版画工は、二色以上の印刷物の原版を描く。原画を見ながら、色別に分解して描き分ける。多色刷りの場合は、三原色の版に補色が二版、それに墨(クロ)版を入れて六色の版を描き分ける。濃淡やボカシにはフィルムの網目をこすりつけて調子を出す。中間色は三原色混合の法則に従って、色と色とをかけ合わせる。

                   研究
清張の職歴からか、印刷所(印刷工)がたびたび登場する。
映画の印象からか、『鬼畜』がすぐ思い出される。主人公は竹中宗吉。
鬼畜以外に、『連環』『二階』『天城越え』『信号』『河西電機出張所』『偶数』などがある。
※書き出し300文字前後に「印刷」の文字が登場

『遠い接近』は山尾信治。自営の色版画工である。
時代は戦争が激しくなっていた...と、書かれているように戦争末期だろう。
題名が奇妙である。
○○
△△となる題は数多い。代表的なのは、『蒼い描点』『黒い空』『黄色い風土』『黒い樹海』
など、後に来る言葉を、前に来る言葉が装飾している感じのものが多い。
ただ、『白い闇』『紅い白描』など反対の言葉を繋げたものもある。『遠い接近』はこの分類
になるだろう。もっとも「い」を挟むと前後が装飾的関係になるのは、おなじである。

書き出しは、色版画工の仕事内容の説明だけで、内容を探る手掛かりは全くない。


※黒の図説
第一話『速力の告発』〔(株)文藝春秋=全集10(第一話)(1973/05/20)〕
第二話
『分離の時間』〔(株)文藝春秋=全集10(第二話)(1973/05/20)〕
第三話
『鴎外の碑』〔(株)文藝春秋=全集10(第三話)(1973/05/20)〕
第四話
『書道教授』〔(株)文藝春秋=全集10(第四話)(1973/05/20)〕
第五話
『六畳の生涯』〔(株)文藝春秋=全集10(第五話)(1973/05/20)〕
第六話
『梅雨と西洋風呂』〔(株)文藝春秋=全集10(第六話)(1973/05/20)〕
第七話『聞かなかった場所』〔(株)文藝春秋=全集23(1974/04/20)〕
第八話『生けるパスカル』〔(株)光文社=生けるパスカル〕
第九話『遠い接近』〔(株)光文社=遠い接近〕
第十話『山の骨』〔(株)光文社=表象詩人〕
第十一話『表象詩人』〔(株)光文社=表象詩人〕
第十二話『高台の家』〔(株)文藝春秋=高台の家〕