清張作品ギャラリー

シリーズ作品

 

【黒い画集】
作品紹介完結に当たって:素不徒破人


【黒い画集】の作品紹介完結に当たって:素不徒破人


清張は「『黒い画集』を終わって」で、昭和33年9月末から、「週刊朝日」に連載をはじめた。
完結までに、1年9ヵ月掛かっている。
週刊誌の連載にしては長いほうであろう。
書き終えるとほっとするとともに短かったような気がする。
それは、作者の満足が満たされなかったからであり、もう少し気に入ったものが書けたような未練を語っている。
1回15枚程度、三回としても45枚程度の短篇に自信が無かったと吐露している。
作品の長さは、私の分類でも短篇と中編に別けられる。

特筆すべきは、第八話「濁った陽」だと思う。
清張氏自身は、「気楽に書く事を考え、それに一種のムードといったものをつけ加えようと思った。」と述べている。
それはそれとして一応成功していると思うが、作品は「ある小官僚の抹殺」の焼き直し的だと感じてしまった。
清張氏が全く触れていないのが多少疑問だ。

私は、「濁った陽」が文庫本化された『断崖』(双葉社)も持っている。
この本の解説は、細谷正充氏であるが、彼は明確に触れている。
清張の読者であれば気がつくであろうがとして、「ある小官僚の抹殺」と「中央流沙」を取り上げている。
彼の指摘には私も全く同感である。
細谷氏は、類似性は認めながら、ストーリーなど組み立ては別物で、清張氏が狙った
「気楽に書く事を考え、それに一種のムードといったものをつけ加えようと思った。」を評価しているようだ。
私は、別の意味で、同じ材料で、別の料理を出されたような気がした。

シリーズ作品ですが、タイトルがピンとこない物があります。
『寒流』・『草』など、内容との関係が分からない。『濁った陽』は最後にタイトルの説明が述べられている。
清張作品には時々、抽象的で不思議なタイトルの場合がある。
題名に関する一考察」で蛇足的考察をしてみた。
【草】も一文字のタイトルとして、俎板にのせたが、具体的な名だけに内容が浮かんでこない。
再放送された、テレビドラマを見たが、陳腐な刑事ドラマになっていた。
ただ、「草」について説明の描写があった。
小説では、見落としたのかもしれない。

作品的には、「遭難」と「証言」が好きだ。


(蛇足的まとめ)

作品名   作品の長さ  キーワード
第一話『遭難』 中編(62000) 登山・寝台車・リュックサック・山小屋・地図・動機・金沢・不倫・姉・従兄・銀行・鹿島槍ヶ岳
第二話『証言』 短篇(11000) 西大久保・丸の内・大森・渋谷・映画・偽証・筆跡・課長・陥穽(カンセイ)・愛人・若い恋人・最高裁
第三話『坂道の家』 中編(89000) 小間物屋の主人・紙入れ・キャバレー・アパート・店員・浮気・高台の貸屋・弟・テレビ・風呂・おがくず・氷・司法解剖・受験生・遺体の引取 
第四話『失踪』 短篇(37000) 捜査資料・不動産詐欺・台湾人・偽名・失踪・年齢の間違い・古物商・リヤカー・デシン・ギャバン・デパートの店員・無実の罪・アリバイ・証言
第五話『紐』 中編(64000) 多摩川土手・少年・神官・絞殺・保険金・理髪店・寄席・講談・映画・親子丼・デパート・田端駅・渋谷・新宿・自殺・愛人・所帯道具
第六話『寒流』 中編(68000) 割烹料理店・女将・支店長・常務・左遷・スキャンダル・総会屋・土建屋・ドライブ・箱根・キャデラック・自殺未遂・私立探偵・調査員
第七話『凶器』 短篇(22000) 農婦・自転車・未亡人・木槌・餅・大釜・叺・蓑・雑貨商・黒岩村・××平野・五歳の息
第八話『濁った陽』 中編(76000) 劇作家・放送局・汚職事件・自殺・××公団・花札・課長補佐・弁護士・愛人・伊東・溺死・バー、レスロランの経営・メバル・麻雀 
第九話『草』 中編(60000) 病院・院長・婦長・事務長・駆落ち・薬室・ヒロポン・入院患者・値下闘争・偽装・麻薬組織・刑事・自殺・逮捕状・ウイスキー・付添婦 
※作品の長さの数字は、文字数だが概略の数字(●短編:文字数=50000以下●中編:文字数=50001〜100000●長編:文字数=100001以上)




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