(原題=清張短編新集)
No_489
題名 | 隠花の飾り 第九話 箱根初詣で | |||
読み | インカノカザリ ダイ09ワ ハコネハツモウデ | |||
原題/改題/副題/備考 | 【清張短編新集】第二話として発表 シリーズ名=隠花の飾り (原題=清張短編新集) ●全11話=隠花の飾り(11話) 1.足袋 2.狗(改題=愛犬) 3.北の火箭 4.見送って 5.誤訳 6.百円硬貨 7.お手玉 8.記念に 9.箱根初詣で 10.再春 11.遺墨 ● .あとがき |
|||
本の題名 | 隠花の飾り■【蔵書No0150】 | |||
出版社 | (株)新潮社 | |||
本のサイズ | A5(普通) | |||
初版&購入版.年月日 | 1979/12/05●初版 | |||
価格 | 800 | |||
発表雑誌/発表場所 | 「小説新潮」 | |||
作品発表 年月日 | 1979年(昭和54年)1月号 | |||
コードNo | 19790100-00000000 | |||
書き出し | 昨夜フロントに五時間半のモーニングコール(朝起し)を頼んだが、それをあてにする必要はなかった。慶子は部屋に隣り合ったせまい温泉風呂から上がって鏡の前に座っていた。目蓋の裏に渋を塗ったように眠気と疲労が粘りついていた。カーテンの隙間から見える外は夜だった。ホテル敷地内の青白い外灯が眩しく、鈎の手になった別棟の窓にも橙色の灯がいくつか闇にこぼれている。それでも近い山の上に空がうっすらと乳色がかっていた。湯音を騒がせて夫の弘吉が浴室から上がってきた。禿げた頭に湯気が立ち、頸から胸のあたりが真赤だった。肥った身体を動かしてズボンをはき、シャツをつけ、どっかと尻を据えて沓下をはいている。緩慢な動作だったが、心臓肥大のため荒い呼吸をしていた。慶子は知らぬ顔で化粧をつづける。 | |||
あらすじ&感想 | 予想通りの展開。 しかし、箱根神社で白髪頭の六十男といる絹江を見かけた慶子の回想で急展開する。 全くの想像外である。 主題は、タイトルの「箱根初詣で」というより慶子の回想である。 ニューヨークで社員三人が交通事故に遇ったという知らせで本社に駆けつける。 そこには、近藤志摩夫の妻絹江、河上正志の妻安子がいた。 ニューヨークに駆けつけることになる。 羽田での見送りや、本社に駆けつけたときの専務の態度など、安子は会社の態度に不審を抱く。 飛行機が太平洋上を飛んでしばらくして安子が言い始めた。既に三人は死亡しているのではないかと... 声を上げて泣き出す絹江。なだめる慶子。安子はアメリカ青年と英語で談笑。 ニューヨークについた三人は病院へ直行を申し出るが、支店長は困惑と狼狽。 三人の死亡と死亡の原因を知らされる。交通事故ではなかった。 ニューヨークの売春宿で黒人とトラブルになり、殴り殺されたのである。案内役の大槻隆二が一人助かる。 >「日本人が衆をたのんだ」行動だったとしかいいようがない。 初詣での帰りに新幹線で体験する外国人の行動も同じだった。一人ならおとなしく引き下がるのに。 帰りの飛行機が三人の修羅場であった。 安子が火ぶたを切った。絹江の夫をなじる。 >絹江の前身がバアのホステスで、したがってその夫の志摩夫が蕩児であるという論法からだ。 絹江が反撃する。安子の夫が浮気者で、「主人の素行も監督できない女が何を言うか」 学歴を鼻に掛ける安子を罵った。 >その言葉は伝法だった。 仲に入る慶子に安子が矛先を向ける。 慶子の夫、直井祐介を大酒飲みのとののしり、売春宿に誘ったのは祐介と言い出した。 慶子が言い返すと、絹江が... この修羅場はすさまじい。 >もはや往路で誓い合った共同体による友情の紐帯は完全に崩れ去っていた。 往復の飛行機の中の出来事を対比させながら、今を描く。 慶子は弘吉と再婚、しかしその経緯は全く描かれていない。 絹江は、白髪頭の六十男の愛人か? 安子の現況は特に描かれてないが、その才気と要領の良さ、気の強い性格でしたたかに生きていそうだ。 >ニューヨークに行ったとき聞いた風聞から考えた。風聞だけだが、駐在商社員にありそうな話である。 >箱根神社の初詣では、わたしの経験からだが、この場面はよけいだったかもしれない。 『松本清張全集/月報7(着想ばなし)より』 私も、そんな気がした。 −−−−−−−−−言葉の事典−−−−−−−−−−−−−−− 「伝法」(デンポウ) 1 粗暴で無法な振る舞いをすること。また、その人や、そのさま。「―な男」 2 勇み肌であること。また、その人や、そのさま。多く、女性にいう。「意気がって―な口をきく」 3 無料見物・無銭飲食をすること。また、その者。江戸時代、浅草寺伝法院の寺男が、 寺の威光をかさにきて、境内の見世物小屋や飲食店で無法な振る舞いをしたところからいう。 「蕩児」(トウジ) 正業を忘れて、酒色にふける者。放蕩むすこ。遊蕩児。蕩子(とうし)。 「紐帯」(チュウタイ) 1 ひもと、おび。転じて、二つのものをかたく結びつけるもの。 2 血縁・地縁・利害関係など、社会を形づくる結びつき。 2007年1月21日 記 |
|||
作品分類 | 小説(短編/シリーズ) | 16P×580=9280 | ||
検索キーワード | 箱根・小涌谷・ニューヨーク・交通事故・飛行機・英語・ホステス・繊維問屋・売春宿・黒人 |
登場人物 | |
弘吉 | 慶子と再婚。前に二度結婚をしている、二人とも六年くらいで病死。猪首で禿げ頭 |
慶子 | 弘吉と再婚。前夫(直井祐介)はニューヨークで死亡、慶子が25歳の年の七月半ば |
直井 祐介 | ニューヨークの売春宿で黒人とトラブルになり殺される。慶子の前夫 |
近藤 志摩夫 | ニューヨークの売春宿で黒人とトラブルになり殺される。絹江の夫 |
河上 正志 | ニューヨークの売春宿で黒人とトラブルになり殺される。安子の夫 |
近藤 絹江 | 近藤志摩夫の妻。以前はバアのホステス。可愛い顔でおとなしい性格 |
河上 安子 | 河上正志の妻。ぎすぎすした顔に度の強い眼鏡。英語も話せる高学歴 |
大槻 隆二 | ニュヨーク支店員。直井、近藤、河上の案内役、一人助かる。 |