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松本清張_呪術の渦巻き文様  草の径(第五話) 

〔(株)文藝春秋=【草の径】(1991/09/30)で第五話として集録〕・全集では六話として集録

No_076

題名 草の径 第五話 呪術の渦巻文様
読み クサノミチ ダイ05ワ ジュジュツノウズマキモンヨウ
原題/改題/副題/備考 【重複】〔(株)文藝春秋=松本清張全集66〕
月刊文藝春秋連載

1.ネッカー川の影
2.死者の眼の犯人像(
改題=死者の網膜犯人像
3.
「隠り人」日記抄
4.
モーツアルトの伯楽
5.無限の渦巻文様(
改題=呪術の渦巻文様
6.
老公
7.
夜が怕い

※順番は発表当時の順
単行本・文藝春秋【草の径】
(全7話)

第一話『ネッカー川の影』
第二話『死者の網膜犯人像』
第三話『「隠り人」日記抄』
第四話『モーツアルトの伯楽』
第五話『呪術の渦巻き文様」
第六話『老公』
第七話『夜が怕い』
●全集66【草の径】(全7話)

1.
老公
2.
モーツアルトの伯楽
3.
死者の網膜犯人像
4.
ネッカー川の影
5.
「隠り人」日記抄
6.呪術の渦巻文様
7.
夜が怕い
本の題名 草の径【蔵書No0039】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1991/08/01●3版1991/09/30
価格 1300
発表雑誌/発表場所 月刊「文藝春秋」
作品発表 年月日 1990年(平成02年)10月号
コードNo 19901000-00000000
書き出し ダブリン行きの搭乗口はヒースロー空港の西の端ゲートで、そこは地下道に入っていくように狭くて、じめじめした感じである。世界各国の主要都市と直結しているこの空港のゲートではいかにも冷遇されて隅っこに追いやられた感じで、待合室の天井も低く、漆喰の壁はうすよごれてコンクリート床にならんだ長椅子は公園のベンチのように硬かった。掛けている人々も華やかな旅支度の男女は一人もいなく、まるで出稼ぎ人の里帰りといった地味な服装だった。ジャンボ機が頻繁に離陸するのを背景に、ダブリン行きボーイング737の百人乗りが、ゲートの出口の百五十メートル先にあらわれた秋の蜻蛉のように小さな翼を縮めていた。田代はさきほどから煙草を喫みたかったが、どこにも置かれている筒形の灰皿は見当たらなかった。そういえば田舎空港の待合室と変わらないこkでは煙一筋も流れていなかった。何列かの新聞をひろげたり低声で陰気に話し合ったりしているが、煙草をくわえているすがたはなかった。
あらすじ感想   伏線が仕掛けられていた。
ヒースロー空港で日本人女性に出会いい言葉を交わす田代。
女は、話しの中で、田代がこれから会いに行く小村を知っていた。名前を聞いたことがあると言うだけらしい。
空港での出来事から一転して、田代は小村憲吉の妹、杉子に初めて会った時の記憶が蘇る。
田代と妹の杉子との出会いは奇妙なものだった。
田代と小村は大学は同じだが、科が違い、知り合ったのも共通の友人を介してだった。
卒業後小村は銀行に就職。田代は院生に残り、西洋史の助手などをして「ウロチョロ」したあと《評論家・作家》を名乗り、雑誌などのもの書きになっていた。
小村はサンフランシスコの支店次長をしていた。杉子は画家志望で、フランスに留学の希望を持っていたが、語学の勉強を兼ねて兄の憲吉の配慮で知り合いの
フランス人からフランス語の初歩を学んでいた。
杉子は小柄で、どこか少女のようなあどけなsを残していた。美人とは言えなかった。
小村の父は、鉄鋼関係の会社を経営していた。小村兄妹は、認知はされていたが、正統な遺産相続人は別にいた。
田代も小村の生い立ちなど、直接聞いた訳では無い。仲間内での噂話で知った情報だった。
サンフランシスコで小村の住まいを訪ねた時に杉子に会っていた。
小村の提案で、杉子は田代を自分の部屋に案内した。
杉子の画室は衝撃的だった。
>「部屋中が爬虫類で充満していた。」 剥製であったが、田代は立ちすくんだ。
それは、杉子が描こうとする表現方法を示しているものだった。彼女が師とする画家の表現方法であり、職人的な表現をする人物らしい。
爬虫類のウロコ描くのである。田代の蘊蓄を含め絵についてひとしきり書かれている。

田代はダブリンへ向かう飛行機の中で小村兄妹について考えるのだった。
小村憲吉はまだ独身なのだろうか? ダブリンの支店長になったのはなぜだろう? 
出世コースを順調に歩んでいたはずの小村が、新規に開業する、それもアイルランドの支店長とは? 杉子はどうしているのだろうか? 
彼女の絵画に対する技法が認められれば、新たな表現者の旗手として活躍しているのだろうか?

田代は、ダブリンで小村と再会した。

田代は小村から、ケルト美術の粋といわれるキリスト教福音書が所蔵されている図書館のような所へ案内された。
>...細密画というのは、
渦巻き文様と曲線が複雑に絡み合い、それが際限なく連続して
>寸分の余地もなく文様で埋め尽くされている不思議千万なものだった。

ここまでの雑感
小説の中に直接題名に関連するワード出てくることは珍しい。直接調べた訳では無いが、清張作品には、曖昧な題名が付けられることが多い。
少し考えすぎかもしれませんが、
>ベンチの人々は草が起き上がるように立ち上がった
の記述を見つけた。
さらに、思いがけない単語に出会った。
『直弧文』である。
直弧文は、X形の斜交線を中心に、渦状に巻いた文様があり、うずまきから抜け出た縁取りのある次の文様に連続している。
何故か、『直弧文』に見覚えがあった。清張作品の中で古代史関係で読んだ気がした。古代史に関しては知識も無いし、そんなに興味は無い。
あえて言えば、「古墳」に多少興味があるくらいだ。
清張作品を調べてみたが関係ありそうなのは、「直弧文の一解釈」『文藝春秋』(1991年11月)で、未購入だから当然読んでいない。
何故か気になる。「直弧文」の文字が私に何時記憶に残ったのか分からない。モヤモヤした気分だ。

シリーズ作品【草の径】で、シリーズ作品名が気になり調べてみた。「シリーズ作品と単行本・【草の径】に関連して
作品内容とシリーズ名の関係が理解出来ない。

話しが右往左往しましたが、元に戻します。
話の展開から、芸術家特有とも言える得意な感性の妹を微笑ましく見守る兄の関係。
生い立ちの特殊性も相まって、偏愛的な関係を含んでいるような感じがした。
典雅な姉弟」を思い浮かべた。
田代は再開した小村に提案されるままに、ティッペラリイを訪れることになった。田代はその場所に関心があった。

話は時系列を前後しながら進む。
詳しく触れると、ネタバレになるので、時空を超える。
田代は、小村から妹の杉子が入院しているらしいことを聞かされていた。

小村から刷り物の挨拶状がスイスのチューリッヒから届いた。
小村は、A銀行を退職して、B証券会社の支配人へ就職することになった知らせだった。

田代はダブリンでの再会時、小村の行動に少し疑問を感じていた。
ダブリンからヒースロー空港に戻った時、あの、旅行会社を開いていると言った女性にまた会った。
田代は、アイルランドはどちらを回ったかの質問に答えた。リメリックには寄らなかったと答えた。
女性は、話しのついでとは言え奇妙なことを教えてくれた。
>シャノンの丘にはゴルフ場があります。保養所もあります。
それから云い淀んで低く云った。
それに、大学の精神病院もございます。

リメリックに行ったであろう小村に田代は同行していない。小村は、精神病院へ入院している杉子に会いに行ったのだろう。
杉子に為に独身を続け、その世話をする兄の姿が目に浮かぶ。
小説の中では触れていないが、暗示的ではあるが小村と旅行社の女性とが関係ありそうだ。
精神病院と云えば、「眼の壁」を思い出した。出てくる単語で他作品を思い浮かべてしまうが、清張作品も晩年にはネタ切れの感がある。

結末は、読んで下さいとします。
清張作品らしい終わり方とも言えます。

沢山の蘊蓄を含んだ作品で、取材旅行の成果をまとめ、舞台をアイルランドに設定しての作品で、
【草の径】第一話の「ネッカー川の影」的な、純文学的な香りの
作品と思う。ただ、シリーズ作品【草の径】とは関連性が理解出来ない。
全集66に、収録されている【草の径】の表書きとも云えるページに
★わが力なきものをあきらめしが、されど草の葉で綴る焔文様
と、書かれている。
余命を覚悟した、清張の心の思いを【草の径】に込めたのだろうが、凡人には到底理解しがたい。

※蛇足
「ケルト」・「ケルン」は関係あるのだろうか?

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●渦巻き文様




直弧文


ちょっこ‐もんチョクコ‥【直弧文】
〘 名詞 〙 古墳文化の文様の一つ。
直線と弧線を巧みに組み合わせた日本独自の文様。
彌生晩期に起源し、古墳前・中期に盛行し、貝輪・鏡をはじめ石棺・石枕・刀剣の柄・
石室壁面などに用いられた。

●関連作品
直弧文の一解釈」(文藝春秋(1991年11月))という作品もある。
遊古疑考」『藝術新潮』●原題=遊史疑考(1971年1月~1972年11月)







●シャノンの丘
変化に富んだ地形に両極端な風景が同居する地方。海に落ち込む断崖絶壁と内陸に向かって広がる緑の牧草地、
古代の建造物が残る川沿いの街を見て回りましょう。

アイルランドの中央部に位置するシャノン地方は、魅力的な風景が広がるエリア。雄大なシャノン川を境に、リムリック州とクレア州から成る地方です。
崖の上の自然保護区や歴史的な建造物を見て回れば、アイルランドの大西洋のごつごつした海岸線の美しさを堪能できます。
この地方は豊かな水路でも知られています。シャノン川河口の港から、川岸に緑が続き、島が点在するダーグ湖に至ります。






2025年09月21日 記 
作品分類 小説(短編/シリーズ) 33P×630=20790
検索キーワード アイルランド・ダブリン・空港ロビー・旅行社・画家・爬虫類・渦巻き文様・直弧文・兄妹・銀行・証券会社・精神病院・狂人・独身
登場人物
田代 大学院に残り西洋史の助手をしていたが、今は評論家・作家を名乗る。小村憲吉とは、大学時代の友人。小村と再会する為にダブリンへ向かう。
小村 憲吉 A銀行、ダブリンの支店長。四十二歳独身。父の婚外子らしい、妹の杉子と共に認知されていた。かなりの財産を得ていた。妹の世話をしながらの独身
小村 杉子 小村憲吉の妹。三十四歳。兄の世話をしているが、絵の勉強の為にパリへ行っていた。兄の世話になりながら生涯独身。
旅行社を開いている女 30歳半ば、旅行社を開いている女。田代がヒースロー空港で出会う。直接は語られないが、小村憲吉と関係ありそうだ。。

呪術の渦巻き文様




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