清張作品ギャラリー

シリーズ作品

 

【黒の様式】
作品紹介完結に当たって:素不徒破人


【黒の様式】の作品紹介完結に当たって:素不徒破人


シリーズ作品だけに、なにか作品に共通するものはないのか考えてみたが
共通点はないようだ。

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●独りよがりの感想●
面白かった順位を付けてみた。
@第一話:『犯罪広告』
A第五話:『弱気の蟲』
B第一話:『歯止め』
C第三話:『微笑の儀式』
D第七話:『死んだ馬』
E第四話:『二つの声』
F第六話:『内海の輪』

無理矢理付けた順位なので、大した理由はない。
『黒の様式』の意味するところは、見いだすことは出来ないが
バライティーに富んだ作品群ではある。

作品名   作品のキーワード&作品紹介&感想
第一話『歯止め』 能楽・養子・京城・朝鮮総監府・T大・義兄・自殺・悪戯・悪習・病的性欲・青酸カリ・殺虫剤・薬問屋・応用化学・資材課長・担任・赤い紙 
病的性欲を収めるのは母親の力しか頼りにならないのか?禁断の世界に巻き込まれた姉は不幸な最後を迎えた。息子の悪戯に悩む母は、姉の死にも疑問を持ち始める。悩める夫婦の導き出した結論は悲しい推理で終わる。しかし、肝心の悩める原因は何一つ解決していないのだ。
近親相姦なのか?禁断の世界は障子の穴から覗くがごとく別世界の闇を映し出す。
第二話『犯罪広告』 告発状・精神異常・狂人・殺人事件・時効・床下・大島紬・活版印刷所・住民・果実出荷組合・金ちゃん・蜜柑畑・郵便貯金・失踪・海ホタル
告発状という名のチラシは町民を一気に事件に巻き込む。狂人の仕業か、殺人者として告発される男は、平静を装いながら暮らす。無責任な住民意識は野次馬的に盛り上がる。告発者の言う通り実施見聞が行われる。何も出ない。告発者の虚言か? 告発者の執念は時効を過ぎたにもかかわらず海ホタルが見つける。
清張得意の印刷の世界を描きながらも話の展開は全く別の方向に向かう。愚かな大衆は無責任い騒ぎ立てる。
設定の面白さは、最後まで読者を引きつける。
第三話『微笑の儀式』 法学博士・法隆寺・仏像・止利様式・古抽の笑い・彫刻家・保険金・調査員・警部補・ドライアイス・プロパンガス・デスマスク・笑気ガス・アパート・オンリー
法隆寺で出逢った男は、彫刻家で「微笑」と言う作品をものにする。法医学の権威である博士は、偶然の出会いから「微笑」に引き込まれていく。彫刻家として評価された作品は二度と同じ程度の作品を再生産することの出来ない方法で作られていた。「微笑」に憑かれた男の悲劇的な運命と、法学博士の出会いは悲しい結末を迎える。
仏教美術の世界を蘊蓄をまじえて話は展開する。死体は何を語るのだろうか?法医学の権威は微笑から謎解きを始める。
第四話『二つの声』 句会・俳号・野鳥の会・連句・軽井沢・別荘・録音機・睦言・放送局・淺草・剥製・よたか・青い河
録音機を持ち込み別荘での、野鳥の声を聞きながらの句会は、思わぬ声を録音することになる。録音された声は、誰のものか。身近に失踪者が現れる。急展開する話しは、俳句仲間の四人が如何なる関わりを持つか探偵役は四人のうちの一人。録音された声の秘密が事件を解く。
声のアリバイは創作することが出来る。確かに聞いたあの声は、本当にその場所に居たことを証明することが出来るのだろうか。
アイデアの面白さが作品に結実していない感じがする。
第五話『弱気の蟲』 山陰・山林・有名私大・エリートコース・省庁・土建屋・麻雀・取り立て・借金・市中金融・転落・外郭団体・レート
典型的な小官僚。チョットした切っ掛けで麻雀にのめり込む。転落は早く加速していく。よりレートの高い賭け麻雀に引きずり込まれる。麻雀店を開業した知人の妻に淡い期待を抱く仕組まれたことが疑われるが、それさえ気づかない。金策が行き詰まる中、思わぬ展開は精神的に共犯者に落ちていく。
麻弱気な男は、最後まで弱気に生きていくほか無かった。悲しいまでの男は哀れに人生を終わらせるのか。彼の全身に巣食う虫は彼に寄生しながら運命を伴にする。
第六話『内海の輪』 兄嫁・再会・池袋・タクシー・道順・発掘調査・大学教授・明月荘・内海荘・岡山・尾道・松山・洋品店・新聞記者・伊丹空港・蓬莱峡・釧・考古学
兄嫁と結ばれた男は、15年ぶりに銀座で再会した。再会した兄嫁は再婚しており「焼け木杭に火が付いた。」どちらかと言えば男にしてみれば誘われたと思っている。家庭持ちの二人は不倫関係にのめり込む。都合の良い女とと思っていたが、不倫がバレそうになると取り乱し、男にとっては危険な女になっていく。
愉しい不倫旅行は、一転して殺人行になってしまう。蓬莱峡での殺人は男の職業と関係して破綻に向かう。考古学の知識、ストーリーにちりばめられる伏線は、推理小説の醍醐味を見せる。タクシーの運転手が鍵を握る。 
身勝手な男。男にとって都合の良い女だったはずが、持て余すことになる。女の生き方に何一つ共感がない。馬鹿な女と切り捨てて良いのだろうか?男は持て余した揚げ句に殺すことを選択した。味付けは考古学?
第七話『死んだ馬』 設計事務所・銀座のバー・建築士・会計係・殺人の教唆・利用される男達・初めての女・共犯者・著名人・増長・エコブラー・生殺与奪
犯罪の成立後共犯者は、お互いに最も危険な相手になる。立場の違いから、支配者になった女は、自己の虚栄心を満たし成功者になっていく。そのためには手段を選ばなかった。水商売上がりの女は手練手管を用いるのだった。唆されたとは言え、共犯者で、実行者の男もも自らの地位を守ろうとし、欲望も膨らむ。
二人の男の前に君臨する女は全ての望みが完了したと思ったとき、共犯者によって抹殺される。正確な事実を知っているのは共犯者なのだ。 
強かな女は、男を手玉にとって生きていく。思い通りに成功したかに見えたが、増長した生き方は追い詰められた男の存在を見逃していた。女はいつまでも女として存在できない運命と共に生きているのだ。死に馬に蹴られたのか...