清張作品ギャラリー

シリーズ作品

 

【隠花の飾り】
作品紹介完結に当たって:素不徒破人


【隠花の飾り】の作品紹介完結に当たって:素不徒破人

清張はあとがきで以下のように述べている。

この集に収めたのは、すべて三十枚の短篇である。
三十枚という枠を雑誌社から決められると、とにかく身辺随筆のような、
あるいは小話のような「軽い」ものが書かれる傾向がないでもない。

三十枚でも、百枚にも当たる内容のものをと志向した。
そのとおりになっているかどうか読者の判断に待つほかはない。(初出「小説新潮」)

三十枚の短篇だから、12000以下の文字数の作品だろう。
作品名の下に文字数(概算)を示してみた。キッチリ30枚が守られている。


何しろ短篇だから、アイディア勝負の一面がある。
その意味で「見送って」・「誤訳」・「百円硬貨」などが面白かった。
「再春」は、別立てで取り上げた事もあるので、そちらに譲る。


殺人事件は「お手玉」・「記念に」の二作品だけだ。
愛人も明確に登場するのは「足袋」だけである。
話は男女の愛憎物語であるが、心理的な描写を中心に残酷な結末を迎える作品が多い。

「隠花」とは?
「隠花植物」と言うものがあるようだ
 隠花植物(いんかしょくぶつ)とは、顕花植物の対語であり、かつて下等植物とみなされた生物に対して
使われていた分類用語で、現在は生物学用語として使われることはあまりない。
現在の系統分類の有胚植物の中に限ってもちいれば、有効に使用することも可能である。
かつて、生物の分類を動物と植物に分けていた(二界説)頃、
植物の中で花の咲かないものに対してこの語が使われた。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
作品のイメージとして、『植物の中で花の咲かないものに対してこの語が使われた。
が、当てはまりそうだ。
清張作品に『隠花平原』(上・下)(1967年(昭和42年)1月7日号〜1968年(昭和43年)3月16日号/週刊新潮)という作品がある。
直接の関係はなさそうだが、内容的には通じるものがありそうだ。【隠花平原/腰巻き(蔵書・上)

2023年3月21日
作品名  殺人
事件
 愛人 主なキーワード
作品紹介 
第一話『足袋』  無 謡曲・師匠・弟子・五つのコハゼ・和服・高弟・師範・密告・徘徊・草履・左足の足袋・手紙・溺死体・玉川上水・女の執念
師匠と弟子は男と女の関係になった。師匠の女は大師匠の女だった。抜き差しならない関係は、弟子の密告で露見する。男は妻子持ち、家庭崩壊に進むのか。仲介者は二人の仲を切れさせる。女は意外に純情だった。足袋は男を引きつけるが、恐怖の形見となる。 
第二話『愛犬』(原題=狗)  無 (有) 割烹料理店・お座敷女中・会計係・離婚歴・犬・足音・ラグビー・鹿児島・一流商社・水道工事・修理工・タクシーの運転手・人妻殺し・浅草橋
おみよさんは、犬が好きだった。少し度が過ぎたようだ。離婚歴があるが、それも犬のせいだとも言えた。「初音」で、働くおみよさんは、その容姿もあって男も出来たが、長続きしなかった。やはり犬が原因とも言えた。運勢暦も当てにはならない。彼女は愛犬の「サブ」と共に生きていくのだろう。 
第三話『北の火箭』  無 (有) ICC・招待・平和委員会・北ベトナム・ハノイ・ビエンチャン・オタワ・エスコート・女流詩人・大学教授・海運会社・浮世絵・アバンチュール
セール夫人とマートン教授は北ベトナムへの招待旅行を、アバンチュールの旅として過ごす。彼女の夫は、何もかも理解しているようだ。話は当時の社会情勢を反映しつつ重苦しい状況を説明しつつ、恋の行方を岡野七郎に語らせる。
事件は起こらない。火箭は浮世絵の「大川端夕涼図」に象徴される。エッセイ作品だろうが、清張作品としては異質の部類だろう。 
第四話『見送って』  無 (有) 結婚式・披露宴・祝辞・島村会・欠席者・短歌・結社・歌仲間・嫁と姑・死後離婚・新婚旅行・空港・決別宣言・新しい旅立ち
披露宴の祝辞は新婦を褒めそやす。島村家の場合、教育一家と言うこともあり家柄も俎上に上がった。式には欠席しているが祖母を誉める者もいる。新婦の悠紀子は祖母と母基子の本当の仲を知っている。美辞麗句の祝辞に悠紀子の友人は異彩を放つ。基子の決意は新婚旅行に旅経つ二人を送る空港で披露される。短歌に秘められた基子の新しい旅立ちである。 
第五話『誤訳』  無 スキーベ賞・ベチェルク国・ベチェルク語・詩人・翻訳・大学教授・記者会見・賞金・寄付・取消・経済状況・無頓着
プラク・ムルの詩は、ジャネット・ネイビア夫人にしか英訳できなかった。ベチェルク国のベチェルク語を理解出来る唯一の言語学者が、ジャネット・ネイビアだった。スキーベ賞を受賞したプラク・ムル氏の記者会見にも同席した彼女は通訳としての役割を果たす。
スキーベ賞の副賞の賞金を全額寄付すると言ったプラク・ムル氏の言葉を訳したネイビア夫人は「誤訳」をしたのだろうか?
麻生静一郎は自ら体験した出来事で閃いた。彼女は、真のプラク・ムルの理解者であった。  
第六話『百円硬貨』  無 (有) 容姿・婚期・不倫・別居・別れぬ妻・慰謝料・三千万円・銀行員・横領・山陰地方・美作・伯耆・両替・小銭
不倫は慰謝料として三千万円が必要になった。男も別れて女と暮らすつもりだったが金が無い。
女は金の算段をする。男は女に任せる以外無かった。
待ち合わせの場所へ金を持っていく女は予期しない場面に遭遇して冷静さを失う。
焦る気持ちから、考えられぬ、思わぬ行動にでる。「百円硬貨」がない! 
第七話『お手玉』 駒牟礼温泉・芸者・駆け落ち・別府・マッサージ・猟奇・京料理・角屋・心臓病・二階・梯子・板前・怪女
温泉地の猟奇話2題。嫉妬に狂う男達、手玉に取られる。女は強し「ふふん」と笑う怪女 
第八話『記念に』  有 (無) 年上・姉さん女房・内縁・兄・都合の良い女・狡い男・優柔不断・弁当箱・離婚歴の女・女の本音
優柔不断な男には、都合の良い女だった。「いつでも別れてあげる」と、言う女の言葉を都合よく解釈して信じていた。女は一途だった。
離婚歴のある女との関係は寺内良二を精神的にも、肉体的にも溺れさしていった。
その良二に結婚話が来る。福井滝子は、気丈夫に別れ話を受け入れる。

男は狡い本性のまま、滝子と最後の行為に耽る。そのあげくの眠りは永遠お眠りになっいく。女は傍で泣いていた。 
第九話『箱根初詣で』  無  無 箱根・小涌谷・ニューヨーク・交通事故・飛行機・英語・ホステス・繊維問屋・売春宿・黒人
箱根神社で絹江を目撃した慶子の回想。前夫の死は交通事故ではなかった。三人の未亡人の修羅場 
第十話『再春』  無  無 春の血・トーマスマン・文学賞・陽海文学・短歌・結社・郷土史会・同人誌・家庭裁判所・調停委員・広告代理店・文筆業・襲撃・盗作・作中作
「春の血」のアンサー小説か?川添菊子は「悪意」の助言者?鳥見可寿子は盗作の疑惑を掛けられる。
平凡な主婦を巻き込む騒動は、何事も無かったような日常を取り戻す。文化団体の微妙な立場は、名士の夫人の見栄と嫉妬が見え隠れする。 
第十一話『遺墨』  無  (有) 速記者・哲学者・古書目録・古本屋・家政婦・離婚・30女・専属・商家の娘・長唄・座談会・講演旅行・泥棒猫・修羅場・風頼帖 
離婚歴のある30女の速記者は請われて、哲学者の専属になる。二人の仲は男女の仲になっていく。病で倒れ連絡を受けた女は献身的に世話を焼く。最後に財産分けなのだろうか「風頼帖」を贈られる。そのまま終わらないのが清張作品、一命を取り留めた、恐妻家の哲学者は、妻に全てを白状した。30女は泥棒猫と罵られ、価値あるはずだった「風頼帖」は、「名家筆蹟」の中で最も低い値が付いていた。 
あとがき       この集に収めたのは、すべて三十枚の短篇である。三十枚という枠を雑誌社から決められると、とにかく身辺随筆のような、あるいは小話のような「軽い」ものが書かれる傾向がないでもない。三十枚でも、百枚にも当たる内容のものをと志向した。そのとおりになっているかどうか読者の判断に待つほかはない。(初出「小説新潮」)