題名 | 装飾評伝 | |
読み | ソウショクヒョウデン | |
原題/改題/副題/備考 | ||
本の題名 | 松本清張全集 37 装飾評伝・短編3■【蔵書No0136】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1973/2/20●初版 | |
価格 | 1200 | |
発表雑誌/発表場所 | 「文藝春秋」 | |
作品発表 年月日 | 1958年(昭和33年)6月 | |
コードNo | 19580600-00000000 | |
書き出し | 私が、昭和六年に死んだ名和薛治のことを書きたいと思い立ってから、もう三年越になる。或る人からその生涯のことを聞いて、それは小説になるかもしれないとふと興味を起したのが最初だった。私の小説の発想は、そんな頼りなげい思いつきからはじまることが多い。名和薛治は、今の言葉でいえば、「異端の画家」と呼ばれている一人であった。日本の美術の変遷はヨーロッパの様式を次々と追ってきたような具合で、それがいつも主要な傾向になっているが、その流れから少し外れて、個性的な格式を生み出そうとして、自分の場所の一点にじっと立ち止まっている作家を指して異端といっているようだし、それにこの意味には生活的にも多少変わっていたということも含んでいるようである。 | |
あらすじ&感想 | 名和薛治(ナワセツジ)と芦野信弘の関係はどこかで読んだようなと思った。 「葦の浮船」 の折戸二郎と小関久雄の関係である。でも少し違う。 日記や手記を残していない天才画家「名和薛治」は、友人であり「兄事」していた「芦野信弘」の書いた 評伝めいた本「名和薛治」以外に手がかりはない。 だから「名和薛治」像は、芦野信弘を通して造り上げられている。 「私」は、評伝めいた本「名和薛治」に書かれなかった「名和薛治」に興味を持ち小説に書こうとする。 「名和薛治」を知る関係者がいなくなった今、「私」は、芦野信弘の娘「陽子」を訪ねる。 「陽子」に拒絶された芦野は、「葉山光介」に意外な事実を知らされる。 登場人物は、「名和薛治」「芦野信弘」「芦野の妻」「陽子」そして「私」である。 「葉山光介」が脇役として登場 時間的経過はそれほど問題ではないのだろうが 芦野信弘の結婚(妻は芸妓かそれに近い感じの女) ↓ 名和薛治の帰国 ↓ 名和薛治と芦野信弘の妻との関係 ↓ 陽子の誕生 ↓ 芦野信弘と妻との別れ(陽子が三つの時) ↓ 「芦野の妻の自殺」 ↓ 名和薛治の死(薛治は42歳・陽子が七つの時) ↓ 陽子の結婚 ↓ 芦野信弘の死(信弘72歳) 芦野の憎悪は、羨望が嫉妬に変わり、画家としての将来を絶望へひきずり込んだ時からはじまる。 いつからか芦野信弘には明確な復讐の意志が芽生える。(芦野の狂気への前兆) おそらく、名和薛治と芦野の妻の関係以後であろう。 画家としての立場とは別に名和と芦野の立場は逆転する。襲撃する芦野、逃げる名和 芦野信弘から逃れるため、青梅に引きこもる名和薛治。 麻布に家のある芦野信弘の襲撃は週に二度くらいは、青梅まで続く。それは執拗に、陰険に続く。 酒席で、画家として芦野の未熟さを罵倒する名和。 表面的な関係とは別に >酒の飲めない芦野は、多分、薄ら笑いを泛かべながら名和の錯乱を静かに観察していたことであろう。 名和の放浪生活への前兆は始まっていた。 殺人事件も無い小説で、「加害者」「被害者」を分けるのは躊躇もあるが、あえて分ければ 加害者は「名和薛治」で「芦野信弘」であり「芦野の妻」もそうであろう。 芦野の襲撃を、正面から受け止めることの出来ない名和。 芦野を裏切り、なぜか名和と関係を持つ芦野の妻、なぜか具体的な記述はない。 云ってしまえば、みんな自業自得だ。 わたしが気になるのは、「私」の「陽子」の扱いだ。唯一「陽子」は被害者なのである。 話は少しずれるが 彼女は過酷な運命を背負って生まれてきている。そのことを彼女は知っているのだろうか? 知らないはずはない。「葉山光介」さえ知っている。 「わたしが母と別れたのは三つの時でしたから分かる筈がありません」とする陽子の 三つまでの生活、その後芦野信弘との、おそらく二人だけの生活 母と別れた後は、父信弘の、そして実父である「名和薛治」への復讐(襲撃)のため利用された 生活であったわけである。 >芦野信弘には陽子という一人娘があり、それが結婚して夫と一緒に父の家に住んでいるということを >私は知っている画家から聞いた。 結婚後すぐ同居したのだろうか? 「私」の行動(陽子を訪ねる)は、芦野信弘の死後一年以内であろう 第一印象として彼女は、無愛想なかわいげのない女である。 >三十四、五の小肥りした固い顔の感じの女が出てきた >幅の広い膝を上がり框の前に揃えてがっしり坐り、訪問者がそれ以上踏み込むことを拒絶.... >と陽子は、一重皮の、眦が少し切れ上がった瞼の間から私を見上げて... >彼女は微笑の変わりに、きつい感じの切れ長な眼を鋭く光らせているだけだった。 容赦のない記述である。 小説は二人の男(薛治と信弘)の話であるが、わたしは、二人の女(信弘の妻と陽子)の話でもあると思う。 「私」と「葉山光介」の会話である。 >「あの細君も自殺したね」 >私は愕いて彼の顔を視た。 >「ほう、君は陽子に会ったのか?」 >と私をまじまじと視た。それは再びきらりとした眼だった。 >「似てるだろう?」 伏線が生きる。 >三十四、五の小肥りした固い顔の感じの女が出てきた >私は小暗い玄関で一目見たとき、それが芦野信弘の娘であると直感した。 芦野信弘の娘ではなかったのである。 15000字程度の短篇であるがおもしろい。が、「くら〜い」、救いがない。 この暗さは、「余生の幅」と双璧である。まだ他にもありそうだが... そして、この暗さが清張の魅力でもある。 「芦野信弘」は復讐のためだけに生きたのだろうか 「名和薛治」の死後、芦野信弘はどう生きたのか、「陽子」に語らせてみたい。 「私」は「情死傍観」の「私」でもある。どちらも小説家 。1950年代の作品 −−−−−−−−蛇足だが、漢字が難しい。少し拾い出してみた。−−−−−−−−−−−−−−− 黝(あおぐろい) 屡々(しばしば) 憚る(はばかる) 窖(あなぐら) 諧謔(かいぎゃく) 歪形(わいけい) 風?(ふうぼう/?=手の上が突き抜けている。風貌ではない、意味は同じ) 窺える(うかがえる) 流蓮(いつづけ) 睥睨(へいげい) 敗衄(はいじく) 2008年08月10日 記 |
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作品分類 | 小説(短編) | 15P×1000=15000 |
検索キーワード | 画家・作家・自殺・襲撃・放浪・不倫の妻・岸田劉生・ヨーロッパ帰り・芸妓 |