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松本清張_余生の幅

No_218

題名 余生の幅
読み ヨセイノハバ
原題/改題/副題/備考  
本の題名 延命の負債■【蔵書No0017】
出版社 (株)角川書店
本のサイズ 文庫(角川文庫)
初版&購入版.年月日 1987/06/25●初版
価格 380
発表雑誌/発表場所 「文藝春秋」
作品発表 年月日 1966年(昭和41年)1月号
コードNo 19660100-00000000
書き出し 文吉が急に弱りはじめたのは、留守に本妻の梅子が戻ってからだった。それもわずか四十分くらいの間であった。だから、老人はそれを隣に住んでいる息子夫婦の手引きに間違いないと死ぬまで疑った。寝たきりの菅沼文吉は、この地方都市では名が知られていた。酒醸造の商売が成功して財産が出来たのが四十代だった。十数人の雇い人を使って派手にやっていたが、六十一で脳軟化症で卒倒した。酒醸造業はその三年前に廃めていた。息子がこの商売をきらって大阪の会社につとめていたので、後をつづけるものがいなかったのである。
あらすじ感想 壮絶な結末である。救いのない結末。清張はこの小説で何が言いたかったのか?
本妻と妾。「妾」というほど気楽な存在でもない。

私には、普通の小説なら登場人物の本妻と妾は逆の立場で登場してくるのではと思う。
妾である広瀬兼子はおとなしい、受動的な女として描かれている。
反対に本妻の梅子はいかにも嫌みな女で憎たらしい存在である。
今風に言えば不倫に対する警告か?
法律的に言えば「最強」の存在である本妻の強さをこれまでかと描き出している。
見方を変えれば、男の身勝手。それに気づかない女の愚かさ。

最後は、誰にもやってくる老後の不安が、現実のものとなり、残酷な現実としてやってくる。
妾である「兼子」は、本妻の「梅子」が出たあと「文吉」が六十一歳で脳軟化症で倒れ、
七十歳近くになって死ぬまでみとる。

本妻との離婚も「兼子」が思いとどまらせる。
このあたりの「兼子」の考え方は、時代背景もあってか、少しお人好しである。
病床の「文吉」の問「なあ、兼子。おまえ、おれが死んだらどうする?」に、
>「あなたが死んだらわたしもすぐ追いかけて死にますわ。」
>あなたが居なくなってからはわたしも生きてゆく自信がないもの。
>いまさら後妻にいく気持ちもないわ」と、答えた。


彼女の余生は「文吉」の死後どれだけの幅かが決まったのである。

病床に伏せる「文吉」から財産を取り上げた「梅子」は、「兼子」の前に君臨する。
「兼子」の壮絶な余生が始まる。

>それからも厠のなかに這いつくばってごそごそと紙で便器のまわりを拭いている
>兼子のよろよろした同じ姿を梅子は何度も見るようになった。

この2行が結末である。

余談だがこの小説の中に「忖度」という言葉が出てくる。少し前に話題になった言葉である。


2002年03月29日 記
作品分類 小説(短編) 20P×600=12000
検索キーワード 本妻・妾・脳軟化症・忖度・老後・便器・酒醸造
登場人物
菅沼 文吉 地方都市の資産家
菅沼 梅子 菅沼文吉の本妻
広瀬 兼子 菅沼文吉の妾。21歳の時36歳の文吉と知り合う

余生の幅




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