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松本清張_ 黒い画集(第九話)

〔(株)文藝春秋=全集4(1971/08/20):【黒い画集】第九話〕/発表時(週刊朝日)でも第九話〕

No_129

題名 黒い画集 第九話 草
読み クロイガシュウ ダイ09ワ クサ
原題/改題/副題/備考 【重複】〔(株)双葉社=失踪〈双葉文庫)〕
● シリーズ名=黒い画集
●全9話
1.
遭難
2.
証言
3.
坂道の家
4.
失踪
5.

6.
寒流
7.
凶器
8.
濁った陽
9.
●全集(9話)
1.
遭難
2.
坂道の家
3.

4.
天城越え
5.
証言
6.
寒流
7.
凶器
8.
濁った陽
9.
『黒い画集』を終わって
本の題名 松本清張全集 4 黒い画集【蔵書No0055】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/08/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「週刊朝日」
作品発表 年月日 1960年(昭和35年)4月10日〜6月19日
コードNo 19600410-19600619
書き出し そのころ、私は肝臓を悪くして、都内のある町にある朝島病院に入院していた。この朝島病院というのは、かなり古い病院で、一般にも名前が知られていた。というのは、その先代の院長がかなり有名な臨床医で、当時、ある宮家の主治医をしたこともあったからである。今の院長はその息子だが、その病院はちょっと衰微していた時期がある。院長の医学博士朝島憲一郎は、四十七八歳ぐらいで、それほど悪い腕ではないが、先代が偉かったせいか、二代目になると、見劣りする印象を世間に与えたらしい。病院が一時衰微したのは、彼に力がなかったからでなく、そのためとも思われた。ところが二年ぐらい前から、この病院はまた繁盛しはじめ、私が入院したときは、新しい病棟を増築して、それが完成したところであった。私はその新館の個室にはいったのだが、新しいだけに設備も良く、明るくてなかなか快適であった。朝島院長は、毎日一回は病室にまわってきた。この人は色の白い好男子で、背がすらりと高く、いかにも名医の息子といった感じだった。五十近い年輩なので、息子というのも変だが、この人のおっとりした態度の中には、その感じが否めなかった。
あらすじ感想  大病院では無いが、入院設備もある町の中堅どころの病院が舞台。

「病院と診療所はどのような点に違いがあるの?」
医療機関は、「病院」と「診療所・クリニック」に大別されることが
一般的です。

両者は法的には入院設備の数によって区別されていますが、
その他にもさまざまな点で違いがあります。

医療機関で働くことを考えている方は、病院と診療所の違いを
把握しておかなければなりません。

仕事内容や勤務形態、給与形態にも差があるため、
自分の希望に合わせて勤務先を決定する必要があります。

本記事では、病院とクリニックの違いとそれぞれの
特徴を解説するので、勤務先を選択する際の参考にしてみてください。




狂言廻しである、入院患者の出版業の経営者、沼田一郎が話を進める。
最後まで、沼田の正体は分からない。
二代目だが、仕事が出来る院長としっかり者で仕事の出来る婦長が
失踪する。

二人は駆け落ちと噂され病院はてんやわんや。
二人の仲は妻も含めて、病院の関係者も誰も気がつかなかった。

入院中の沼田一郎の付添婦の河原タミは情報屋で、様々な情報を沼田に持ち込む。
その河原タミですら、院長と婦長の関係は知らなかった。

院長が失踪して困り果てた事務長の笠井光男は蒼白い顔をして対策に当たっていた。沼田が見ても可哀相な状態だった。
事件は続く。薬室主任。の堀村が首つり自殺をする。
堀村は、婦長の雨宮に惚れていたらしい。妻帯者であり、子供もいる四十二三歳だ。堀村の片思いらしい。
>「遺書はなかったんだね?」私の問いに、河原タミは答えた。「そうなんです。...」

そんな中、社員の黒井章吉が見舞いにやってきた。
黒井の見舞いは、付添婦の河原タミも歓迎した。河原タミは新しい話し相手が出来たので歓迎するし、黒井も相手上手だった。

失踪した院長の消息が分かったと河原タミが駆け込んできた。
大阪駅を歩いていたという情報だった。情報の信憑性は疑問だった。

病院の経営は事務長の笠井に掛かっていた。彼は、傍目にも気の毒なくらいで、憔悴していた。
同情される立場だが、その描き方は執拗だった。

夜中に、隣の金子京太の部屋から争うような声が聞こえてきた。
翌日私は、娯楽室で金子京太に会った。金子京太の方から話しかけてきた。どうyら、事務長の笠井とトラブルがあったようだ。
院長が駆落ちでいなくなったのだから、入院費を負けろと交渉したのだという。
事務長は規則だからそれは出来ないと要求をはねつけたらしい。
金子京太は、入院患者が結束して入院費の値引運動を起こすつもりだと告げた。
優柔不断ながら私は金子に同意した。話は急展開を始めた。

翌日、金子京太は、値引闘争の趣意書を持ってきた。趣意書に同意の署名を求めてきたのだ。
私は、一番先に署名捺印する羽目になった。
この時点では、河原タミは、金子京太に手懐けられてはいない。金子の行動を人情の無い話として非難している。
私(沼田一郎)は、河原タミの非難が耳に痛かった。

金子京太が入院患者を回って値下げ運動の署名を取って回っていた。ここで、入院患者が五十名程度である事が記述されている。
結構な規模の病院であることがわかる。
気が弱くて、金子京太に言われるまま加担していく沼田一郎に疑問が湧く。

金子の要求に笠井事務長は応じなかった。
ところが、その事務長が飛び降り自殺をしたのだった。
さすがに河原タミも驚いていた。私(沼田)は、笠井事務長の自殺に理解が出来るような気がした。
金子京太の様子を河原タミに聞くと、「平気でテレビなんか見ていますよ」
河原タミは、よほど金子京太が嫌いらしく事務長を自殺に追い込んだのは金子だとばかりに非難した。

病院内では新たな事件が起きる。泥棒が入ったのだ。それも薬室だった。
これは少々見え透いた伏線だった。
見舞いに来た黒井章吉が情報をもたらした。先に自殺した笠井事務長の左肘の関節の内側に、注射の痕があったわけです」
>「注射の痕?」
習慣的な注射の痕だと言うんである。ヒロポンか麻薬?
二人の話を聞いていた河原タミが、それは「ヒロポンですよ」と言った。
河原タミが、笠井事務長がヒロポン中毒である事を知った経緯を話した。自殺した堀村薬室主任に聞いたというのだ。

婦長の雨宮順子の死体が発見された。山梨県の山中で発見されたが、院長の朝島憲一郎の死体は見つかっていなかった。




八王子と甲府の真ん中ぐらいらしい。







雨宮順子の死体は自殺では無かった。絞め殺されていたのだ。
朝島院長が絞め殺して後を追うつもりだったことも考えられる。情死の目的だったが、死体を見て怖くなり逃げ出したも考えられる。
大阪駅で見かけたという朝島院長の話も怪しいのだが、朝島院長の行方が心配される。
そんな騒動のあった晩、私(沼田)は、金子京太に廊下で偶然会った。
退院するというのだが、値下げ運動は「...あれはもうやめましたよ」とけろりとして言った。
私(沼田)は、個人的な感情からも金子京太を嫌っていた。その事が随所に記述されている。
それは、河原タミの金子京太に対する感情も同じ事だった。
見舞いの黒井が、河原タミに金子の住所が分からないかと問いかけたが、けんもほろろにあんな奴の従者なんか知りません。
黒井が遊びに行ってみたいから...黒井さんも物好きですね、入院申込書でも見ればと言った。

退院の前の晩金子京太がウイスキーの小瓶を持ってやってきた。しかも、退院は中止したというのだ。
お互いの商売の話など、たあいの無い話をするが、自然と院長と婦長の話になっていく。
私(沼田)は、院長と婦長の心中事件に疑問を持っていることを話し始めた。
金子は単純な心中事件として話すが、私(沼田)は疑問を投げかけた。
金子京太はなぜ退院を止めたのか、沼田は考えた。
話を聞いた河原タミは、驚いて、「あんな患者は追い出せばいいんです」と、相変わらずだった。
だが何処か、河原タミの金子を毛嫌いする描写が諄い気がする。
私(沼田)の金子が病院の弱点でも握っているのではと推測を言うと、河原タミは、「ぎょっとした目つきになった」
河原タミの金子京太嫌いが極まった。
>「わたしは、あの隣の患者さんがずっとこれからも居すわっているかと思うと、
>ここで働くのが辛抱できないくらい、嫌で、嫌で、我慢がなりませんですよ」

夕方に、黒井章吉がやってきた。河原タミも歓迎して、三人でとりとめの無い話をしていたが、自然と病院の事件の話になっていった。
そこで突然、黒井が、自殺した薬室主任には、遺書があったそうですよと言いだした。
河原タミも驚いた。黒井の話は、警視庁にいる友人から聞いた話として語られた。
>「その遺書は、やはり婦長との失恋が綿々と書きつづられてあったのかね」
>「そうらしいですな。しかし、その遺書というのは相当混みいった事情がが書いてあったそうですよ」

黒井章吉の行動に不審を抱いた河原タミは、沼田に告げ口をするように話した。
黒井が病院の屋上で捜し物でもしているようにウロウロしているというのだ。
私(沼田)は、河原タミを安心させるように、黒井は少し変わった男で、心配することは無いと説明した。
そんなことがあった次の日。河原タミは突然病院を辞めるのお暇を頂きたいと言い出したのだ。
理由が、隣室の金子京太であると言うのだ。後の働き口も決まっているようだった。
少し奇妙な理由だが、河原タミが金子を嫌っていたのは前からで、理解出来ないことでも無かった。
河原タミはその日のうちに片付けを終わり出て行った。

沼田の部屋にやってきた金子は、河原タミを探す風だった。
暇を取って出て行ったことを話すと、金子は、自分もあのおばさんが苦手だったと話した。
今日もまた、金子はウイスキーを持ち込み、沼田に勧めた。沼田は、舌先で少しなめただけだった。
その時一人の若い背の高い男が入ってきた。沼田は、会社の社員だと金子に紹介した。
この社員は、沼田の付添婦が止めることを黒井に電話をした際打ち合わせが出来ていたのだ。
>「社長、ちょっと話があるんですが」 金子は席を外さざるを得なかった。
二人は少し話をした。

私(沼田)が、ベットに横になっていると、ドアを開けて入ってくる者が居た。金子京太だった。
沼田は、寝たふりをして、一部始終を見ていたのだった。
部屋を出て行く金子京太を確認すると、病衣を洋服に着替えた。
私(沼田)のポケットには逮捕状が用意されていた。

結論に向かって、私(沼田)の謎解きで終わるのだが、院長は茨城の海岸で水死体でみつかた。
私(沼田)は刑事であり、病室に出入りする黒井をはじめとする人物も沼田の部下だった。
怪しくない奴ほど怪しい。
仲の悪い奴ほど実は仲が良い。
道行きをした二人が愛人同士とは限らない。
大ドンデン返しを狙うなら、私(沼田)が、犯人でも良いし、河原タミが「おばさん探偵」でも面白いのでは...(家政婦は見た?)
女性の名探偵と言えば、「高校殺人事件」の『羽島さち子』をあげる事ができる。

【参考】「清張作品に於ける題名に関する一考察」(一文字は多い)
【参考】「清張作品に於ける題名に関する一考察」(草)

タイトルの「草」の意味が理解出来なかった。麻薬という意味なのか?読み落としがあったかもしれない。

全体を通じて、「偽装」がキーワードと感じた。
院長と婦長の関係・金子京太と河原タミの関係・沼田や金子の入院とそれぞれの職業
気になった設定
@沼田一郎は、病院には身分を明かしていたのだろうか?
A河原タミは、沼田の正体を見破ったのか? 金子に洩らしたであろう情報とは?
B病院の規模が明示されていない。読む限りでは、小さな個人病院のように思える。 
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
※1月12日付の朝日新聞【天声人語】に森永グリコ事件の「キツネ目の男」の話が出ていた。
犯人が生きていれば八十歳前後だろう、「悪党の人生おもろいで」と書き残していたらしい。
天声人語は、素性がばれるのを恐れ続けた、うらさびしい人生に違いないと、結んでいた。
この小説「草」では、逮捕された金子は小者で麻薬組織を一網打尽にはいかなかったようだ。河原タミに至ってはあぶくのような存在と言うことだろう。
【天声人語】が言うような結末を希望するが、『悪い奴ほどよく眠る』が頭をよぎった。

※テレビドラマ化されたものが再放送された。
『松本清張 黒い画集-草-』のタイトルで、2015年3月25日テレビ東京系にて、テレビ東京開局50周年特別企画として放送されたものが
再放送された。(1月13日) 内容は陳腐な刑事ドラマで少々ガッカリ。ただ、タイトルの「草」の意味が描かれていた。
キャスト
沼田一郎:村上弘明 (スコッチ出版社編集長)
沼田亜衣:剛力彩芽 (沼田の娘)
金子 京太:岡田義徳 (入院患者)
朝島 陽子:横山めぐみ (朝島総合病院理事長、憲一郎の妻)
雨宮 順子:遠山景織子 (看護師長)
杉崎 保:金子昇 (内科医師)
田原 芳樹:浅利陽介 (入院患者)
朝島 憲一郎:羽場裕一 (朝島総合病院院長、陽子の夫)
堀村 泰晴:大門裕明 (薬剤管理室長)
河原 民子:かたせ梨乃 (ヘルパー)



2025年1月21日 
作品分類 小説(中編/シリーズ) 60P×1000=60000
検索キーワード 病院・院長・婦長・事務長・駆落ち・薬室・ヒロポン・入院患者・値下闘争・偽装・麻薬組織・刑事・自殺・逮捕状・ウイスキー・付添婦 
登場人物
朝島 憲一郎 朝島病院、院長。先代の後を継ぎ院長として腕を振るっていた。好男子だがお坊ちゃん育ち。子供はいない。
婦長と失踪するが二人は関係なかった。先代で傾いた病院を再建し繁昌させるが、裏があった。
沼田 一郎 入院患者、四十二歳出版業を名乗っているが、実は、隣室の金子京太を見張っている刑事だった。私として話を進めていく。
雨宮 順子 朝島病院の婦長、朝島院長と失踪する。三十二歳。仕事も出来るしっかり者の女。朝島憲一郎と失踪するが、仕組まれた失踪だった。死体で発見される。
笠井 光男 朝島病院の事務長。色は浅黒く頑丈な身体。背が高い。ヒロポン中毒。病院の屋上から飛び降り自殺をする。
河原 タミ 病院の付添婦。沼田一郎の世話をしている。小太りで血色のいい顔をしている。五十歳位。詮索好きでおしゃべり。
途中から金目当てで、金子京太に手懐けられる。
金子 京太  朝島病院の入院患者。沼田一郎の隣室。自動車部品の販売の仕事をしている。痩せているが、血色のいい愛嬌のある男。
なぜか、沼田一郎は嫌っていた。麻薬組織の一員。河原タミも手懐けていた。
黒井 章吉  沼田一郎の部下。病院には度々見舞いにやってくる。沼田一郎が経営する出版業の社員が名目だが刑事。連絡の為、度々病院へ現れる 
掘村薬室主任   朝島病院の薬室主任。首つり自殺をする。雨宮順子に惚れていた。四十二三歳子供もある。小心な男 






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