〔(株)文藝春秋=全集4(1971/08/20):【黒い画集】第八話〕/発表時(週刊朝日)でも第八話〕
題名 | 黒い画集 第八話 濁った陽 | |
読み | クロイガシュウ ダイ08ワ ニゴッタヒ | |
原題/改題/副題/備考 | 【重複】〔(株)双葉社=断崖〕 | |
● シリーズ名=黒い画集 ●全9話 1.遭難 2.証言 3.坂道の家 4.失踪 5.紐 6.寒流 7.凶器 8.濁った陽 9.草 |
●全集(9話) 1.遭難 2.坂道の家 3.紐 4.天城越え 5.証言 6.寒流 7.凶器 8.濁った陽 9.草 ※『黒い画集』を終わって |
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本の題名 | 松本清張全集 4 黒い画集■【蔵書No0055】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1971/08/20●初版 | |
価格 | 880 | |
発表雑誌/発表場所 | 「週刊朝日」 | |
作品発表 年月日 | 1960年(昭和35年)1月3日〜4月3日 | |
コードNo | 19600103-19600403 | |
書き出し | 劇作家の関京太郎は、今度、ある放送局から頼まれて、一本のテレビ脚本を書くことを約束した。その作品は、近ごろ年中行事になっている重要なコンクールの参加番組だったので、彼は、慎重に筆を執ることにした。この番組は、各局とも特に力を入れているので、彼としても、受賞はしないまでも、あまりみっともない成績はとりたくなかった。テレビのシナリオを書くのは初めてである。関がもっとも頭を悩ましたのは、そのテーマだが、彼は、やはり、社会性のあるものを選ぶことにした。プロデューサーの杉山も同じ意見であった。関は、かねてから「汚職」に興味を持っている。しかし、近ごろ、汚職のことはかなり、小説やドラマにとりあげられている。それで関の考えとしては、正面から汚職をとりあげることをせず、側面からそれを衝きたい野心があった。 | |
あらすじ&感想 | 劇作家の関京太郎は、ある放送局からコンクール参加作品の脚本を依頼される。プロデューサーの杉山とも相談して社会性の有る作品を考えることになった。 汚職事件で課長補佐クラスの自殺で事件の真相が曖昧のまま終わるケースが多々あることに着目した。 関京太郎は着目を作品に生かす為に幾つかの事件を調査することにした。 二つの事件は自殺者の家族など、人に頼んで簡単に分かった。 3番目の事件については、遺族など居場所が分からなかった。 犠牲者は、草刈雄造といって××公団の職員で、輸入原料品の割り当てに関する汚職事件に関係していた。三十二歳の妻と女の子が一人あった。 妻は美代子と言って今は三十四歳になっていた。 新聞記者に調べさせても、現在の住所も分からないという、関京太郎は何故か引っかかり疑問に思った。 仕事も有り自分で調べに行くことも出来ないので、関の所に出入りしている森沢真佐子に頼むことにした。 真佐子は十人並みよりも美辞の方だった。シナリオの勉強と言うことで週に2〜3日関の所にやってきていた。 真佐子は経済的にも裕福な家庭で苦労はしていないようだった。 性格も明るく、一人前になるにはほど遠い実力だが、お嬢さんが洋裁でも習いに来ているような感覚で出入りを許していた。 おぼろげだが、劇作家(小説家)が助手を使って調査をするパターンは何処かで読んだような気がした。 関京太郎が森沢真佐子に頼んだのは、草刈雄造の未亡人美代子の探索だった。 真佐子は大いに興味を示し、その役割を引き受けた。 それから二日目、真佐子は関を訪ねてきた。 >「分かったかい?」 >「ええ、どうにか」 真佐子は公団に行って草刈美代子の住所を尋ねた。出てきた役人は二人で、一人は痩せていて、もう一人は肥っていた。 教えてくれそうに無いと感じた真佐子は自分はバーの女給で、草刈美代子へ直接返したい物があると言った。 なかなかの機転である。返したい物とは何かと問うので、お金だと答えた。それも >「バー時代に、草刈さんから特別に拝借したお金です、と言いました」 ことのてんまつを真佐子から聞きながら、関は驚くと同時に首をかしげた。 なぜ、草刈美代子の住所を隠すのだろう...それに、事件から二年も経過するのに、草刈美代子と連絡を持っている様子を不思議に思った。 関はその不審からも真佐子に話の続きを促した。 真佐子に対応した二人は相談して、それなら美代子を呼ぶので、ここで話しなさいとと言った。それも二十分くらいで来るというのだ。 丁度二十分くらいで来た美代子は二人の男と話し、真佐子の前に現れた。 真佐子は、銀座のバーで働いていた女給の小川蘭子と名乗った。 そして、弟が病気で、入院費として草刈雄造に金を借りたのだとの筋立てを話し、弟は無事退院し漸くお金の都合がついたので返しに来たと話した。 真佐子の話は、脚本家を志すだけあって、関も舌を巻くようなあっぱれな筋立てである。 奇妙なことに、真佐子と美代子が話している間も二人の男は、監視するようにその場を離れなかったというのだ。 真佐子が、「普通なら、そこで引き合わせがすんだら、すぐに出て行くのがほんとうでしょう?」 >「それは、そうだね」 関は同意した。 真佐子は、プライベートな話もあるので、席を外してくれと頼むが、後で誤解があるといけないので傍聴させて貰っていると言って席を外そうとしなかった。 奇妙な理由であるが、私的な話なので三分だけ席を外して下さいと頼むと、三分だけならと不承不承席を外した。 真佐子は、美代子に、どうしてあの人が、わたしたちの前にがんばっているのか聞いたが、それには答えず 真佐子と草刈雄造の仲を疑っている様子だった。勘ぐられるような仲では無いと話すと、美代子は納得したのか、差し出した5千円を受け取った。 草刈雄造のご焼香もしたいし住所を教えてほしいと頼むと、手帖に走り書きした電話番号のメモをよこした。 後は電話番号の住所を訪ねれば目的は達成できると考え、用事が終えたような振りをしてその場で別れ。 小太りの男に監視されるように見送られて事務所を出た。 >「それで、君は、約束の時間に、電話をかけたのかね?」 関の質問から、真佐子は話を続ける。 電話をすると管理人らしい男が出た。勤め先は分からなかったが、場所を教えてくれたので早速直接行ってみることにした。 その場所は、池袋の松風荘というアパートだった。 管理人を訪ねると60ぐらいのおじいさんだった。電話の声の主らしかった。 管理人は、まだ、美代子はまだ帰っていないといった。 二時間以上待ったが真佐子は美代子に会うことが出来なかった。 真佐子の関に対する報告は一応終わったが、煮え切らない態度の関に「今夜、もう一度アパートに行ってみましょうか?」 真佐子は目を輝かせていった。 その晩、森沢真佐子は松風荘に草刈美代子を訪ねた。昨晩も帰った様子が無い美代子を11時過ぎまで待ってみた。 美代子に会えない真佐子は、松風荘を後にしながら考え、美代子の勤め先を考えた方が早いと思った。 明日の朝早くから出勤する美代子の後を付けた方が早いと思った。 真佐子は考えを関に電話して報告したが、関は及び腰の感じだった。しかし真佐子はますます乗り気だった。 >「そうかね、ま、君が乗り気なら、それでもいいがね」 真佐子の尾行は成功しなかった。その晩、真佐子は松風荘に電話をしたが美代子は帰っていなかった。9時頃だった。 真佐子が松風荘に電話をするようになる前には早く帰宅しているようだった。 真佐子は少し意地になっていた、草刈雄造の仏前に焼香したいという理由で会おうとしているのだ、5千円お金も渡している。 理不尽な扱いを受けている感情が彼女を支配していた。関に相談してもぐずぐずしていて相談相手になりそうにないとも考えた。 明くる朝も真佐子の尾行は続いたが、その尾行は感づかれてしまった。 素人探偵の真佐子は、ガラス戸から灯が漏れる部屋の前に立った。中に居ることを確信しての行動だった。 ドアをノックしてみるが反応は無い。しつこく声もかけてみた。 通りかかった男が声をかけてきた、「留守のようですよ」隣室の者と名乗った男が言った。 「お帰りになるまで待たせてもらいます」と返した真佐子に、隣室の男は勝手にどうぞの態度だった。 粘り強く待つ真佐子に声をかけてきた者があった。威厳めいた背の高い女だった。 >「あなたですか、草刈さんをお訪ねになった方は?」 >「草刈さんの奥さんはどなたにもお目にかかりたくない、と言っておられます...」 真佐子から、名前を問われて森山と名乗った。しかも、婦人警官だという。草刈さんから保護を頼まれていると言った。 関は、真佐子から逐一話を聞いた。 さすがに真佐子も、「先生、とてもわたくしには歯が立ちませんわ」 自信を失って、意気消沈していた。 >「とにかく、君はよくやったよ」 関は、森沢真佐子をなぐさめた。 ここまでくると、今度は関京太郎の方が俄然草刈り夫人に興味を抱いてきた。 それは草刈美代子が単純に汚職事件に関連して自殺した男の妻と言うだけではないと思えてきたのだった。 関京太郎は新聞記者や警察関係の友人に頼んで、二年前に発生した汚職事件を調べ始めた。 ここまで読み進むと、事件の全貌や、自殺に関わる設定は、「ある小官僚の抹殺」そのものである事に気がついた。 素材は同じだが、料理が違う。! 事件の顛末、犯罪のトリック、アリバイ崩し、それらは、、「ある小官僚の抹殺」を読んだ者としてはほとんど興味が無かった。 文庫本化された本、『断崖』の解説者「細谷正充」が詳しく記述されている。 ちなみに、全集の解説者「多田道太郎」氏は、触れていない。 関京太郎は、草刈雄造の汚職事件に関連しての自殺事件を他殺と推測するに至った。 その理由の第一は、自殺をする直前まで、そのそぶりを見せていない。 遺体の第一発見者が、西原圭太郎というのも不自然である。死体の工作は一人では出来ないとの判断もあった。 死体の検死にも疑問を持った。 関京太郎が調べさせた、興信所の調査報告は、草刈美代子の生活は、今でも西原圭太郎の管理下にあるように思えた。 関京太郎は完全に自ら調べる決意をした。劇作家としての放送局からの依頼を無視して事件に没入し始めた。 真佐子も思わず賛成し興味を示した。 作品は、劇作家と若い助手の女性との凸凹コンビの探偵劇となっていく。 草刈雄造は、自殺する前夜、花札に興じていた。(「ある小官僚の抹殺」では、麻雀?) そのメンバーは、西原とその愛人、そして正体不明の男、それに、草刈雄造。 関京太郎の本格的調査が始まる。 真佐子が最初に会った、公団職員の二人の男の写真を撮らせた。その写真を元に事件の起きた伊東の川田屋に向かった。 旅館での聞き込みで、自殺した草刈雄造以外に一組の夫婦がいた。西原圭太郎と愛人だろう。 問題はもう一人の男である。その男は宿泊客では無いという。女中の目は肥った男の写真に注がれていた。 男の名は、多賀謙三郎。女中から思わぬ情報がもたらされた、西原の愛人は、地元(伊東)の人間だという。 それも、二号だと証言した。旦那(西原)は、東京の弁護士だと言った。 >「その二号さんというのは、とてもきれいな人ですよ。なんでも、東京ではレストランを経営していらしゃるということです」 東現座にある「タクト」と言う店らしい。関は、「ハギ」と言うバーではないかと聞き直した。 >「そうなんです」女中の話は明快だった、バーもレストラン両方やっていると答えた。 芋づる式に事実が判明してくる。このあたりから、登場人物の名前も次々に明らかになっていく。 伊東から帰った関に真佐子から電話があった。 草刈美代子の勤め先が分かったというのだ。レストラン「タクト」でレジをやっているんだそうです...。 関京太郎は妻帯者だった。朝、顔を洗う前に新聞を読むのが癖だった。新聞を読んだ関京太郎は息を呑んだ。 見出しは、「公団課長補佐の自殺 地方転任を苦にしてか」 多賀謙三郎が自殺したのだった。真鶴の南方海岸で溺死体として見つかる。 多賀謙三郎の妻は雪子、三十歳、一男一女がある。 多賀が、福岡に転任する為の行動の中に、特急「あさかぜ」が出てくる。ご愛敬とも言える。 関京太郎と森沢真佐子のコンビは事の真相に迫りつつあった。 以後、様々なトリックや仕掛けが随所に施してある。結論までにはもう少しあるが、読んでのお楽しみとして終わりにする。 最後の二行 >関は顔をしかめて窓の方に目を向けた。 >紅い靄の中に濁った太陽が白い輪で鈍く光っていた。 キーワードを上げてまとめとする。 メバル 五人で麻雀 溺死 死亡時間 ********************************** あさかぜ (列車) ●あさかぜ(点と線)) 2020/4/14 -説明板には、「博多と東京を結ぶ寝台特急『あさかぜ』号に使用され、松本清張の『点と線』(昭和32年発表)の中でも重要なシーンに 場した」と書かれている .. ※出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 種類 寝台特別急行列車 現況 廃止 地域 東京都・神奈川県・静岡県・愛知県・岐阜県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・岡山県・広島県・山口県 前身 急行「安芸」「筑紫」 運行開始 1956年11月19日 運行終了 2005年3月1日 運営者 日本国有鉄道(国鉄) 起点 東京駅 終点 下関駅(2000年以降、廃止時点まで) あさかぜは、1956年(昭和31年)から2005年(平成17年)まで東京駅 - 下関駅・博多駅間を東海道本線・山陽本線・鹿児島本線経由で運行していた 日本国有鉄道(国鉄)・JRの寝台特別急行列車である。また。 −−−−−−−−−−−−−−−−−【似たプロット】キーワード(官僚・汚職・自殺)−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ある小官僚の抹殺」 「中央流沙」 2025年01月021日 記 |
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作品分類 | 小説(中編/シリーズ) | 76P×1000=76000 |
検索キーワード | 劇作家・放送局・汚職事件・自殺・××公団・花札・課長補佐・弁護士・愛人・伊東・溺死・バー、レスロランの経営・メバル・麻雀 |
登場人物 | |
関 京太郎 | 劇作家。森沢真佐子に草刈美代子の調査を頼むがそれほど積極的では無い。真佐子が探索に行き詰まると、俄然興味を持って調べ始める。 森沢真佐子を使い、協力を得ながら真相に迫る。 |
森沢 真佐子(小川蘭子) | 関京太郎の助手。関京太郎の依頼で草刈美代子を調べる。頼んだ関以上に、積極的に探索に当たるが、壁に阻まれる。 探索の中で偽名を使う、小川蘭子。最後は関京太郎の片腕となり真相にたどり着く。 |
杉山・森村 | 放送局のプロデューサーだが、最初は杉山として登場するが後に森村になる、同一人物かどうか分からない? |
草刈 雄造 | ××公団の職員。課長補佐。汚職事件の実態を知る人物。自殺したことになっているが、他殺の可能性がある。 |
草刈 美代子 | 草刈雄造の妻。新谷すみ子が経営レストランのレジ係をしている。夫の死後も西原と連絡を取っている。真佐子の探索に怯える。 |
西原 圭太郎 | 弁護士。新谷すみ子は愛人。政界や官庁に顔のきく人物。自殺した草刈雄造の第一発見者。 |
多賀 謙三郎 | 公団の職員。肥った男。草刈雄造が自殺した旅館で、西原の愛人と共に花札をしていた。西原の共犯者と思われる。 |
新谷 すみ子 | 西原圭太郎の愛人、伊東の出身。東銀座で、バーやレストランを経営している。西原と共謀している可能性がある。 |