〔日本経済新聞社=渦(1977/11/25):【渦】〕
| 題名 | 黒の線刻画 第二話 渦 | |
| 読み | クロノセンコクガ ダイ2ワ ウズ | |
| 原題/改題/副題/備考 | ●シリーズ名=黒の線刻画 ●全3話 1.網/網(上)・網(下) 2.渦 3.馬を売る女 |
●日本経済新聞社=渦 |
| 本の題名 | 渦■【蔵書No0058】 | |
| 出版社 | 日本経済新聞社 | |
| 本のサイズ | A5(普通) | |
| 初版&購入版.年月日 | 1977/11/25●初版 | |
| 価格 | 980 | |
| 発表雑誌/発表場所 | 「日本経済新聞社」 | |
| 作品発表 年月日 | 1976年(昭和50年)3月18日~1977年(昭和51年)1月8日 | |
| コードNo | 19760318-19770108 | |
| 書き出し | 「はじめてお手紙をさしあげます。わたくしは、新劇の熱心なファンというほどでもありませんので舞台は見ていませんが、あなたさまのテレビに出演されるお顔はよく拝見し、その演技力のすばらしさにはいつも尊敬しております。見も知らぬわたくしからこうしたお手紙をさしあげると、さぞたくさん寄せられるファン・レターの一つかとお思いになるかもわかりませんが、これはそういうことではなく、一つおねがい申しあげたいことがあって、思いきってしたためたのでございます。じつをいいますと、わたくしの兄(三十二歳)は或るテレビ局のプロデュサーをしております。これまでは大過なく仕事をしてまいりましたが、約一ヵ月前にテレビ局から現場の仕事をはずされ、いまは乾されております。そのわけを兄にきいてみましたが、はじめのうちはなかなか口をひらきませんでした。そのうち、ようやくわかったことは、兄のプロデュースした或る連続ドラマの番組が視聴率の低下のためにスポンサーから苦情がでたりなどして途中でうち切られ、あとの制作の仕事もあたえられないということでした。 | |
| あらすじ&感想 | 劇団「城砦座」の主宰者吉沢啓助は、俳優で演出家の手元に一通の手紙が届く。差出人は、枝村マサ子。 手紙はこれから展開するであろう小説の内容を大筋で予見出来る内容だった。 劇団の事務所で、吉沢は山内耕司を来客として迎えた。山内がNHKに行く前だと言った。対談番の収録のようだ。 吉沢は、その番組の視聴率はどうなんだと聞いた。5%程度だろう。教育テレビなので低いようだが、それでも1%96万人程度の視聴者だという。 対談に出る役者によっても数字は違うだろうと言った。山内耕司は対談相手のゲストとしての出演、 山内は新劇俳優の第一人者。少し間を置いて、吉沢啓助は話を続けた。「その視聴率のことだがね、あれは正確なのかね?.....」 吉沢啓助に届いた枝村マサ子からの手紙は、要約すると 兄はテレビ局のプロデューサーで、プロデュースした連続ドラマが低視聴率の為、スポンサーから苦情が出て、番組は途中で打ち切られた。 それからは、後の仕事も与えられず、謂わば乾された状態になっている。 視聴率というもは正確なのだろうかと疑問を投げかけている。そもそも、視聴率はどのように調査されているのだろうか? テレビを視聴している家族、個人にモニター器具を置いて調べていると言うが、そのような家庭や個人など聞いたことが無い。 実体を調査する方法はないものだろうか? なぜ、吉沢啓助に手紙が出されたかは多少疑問が残るが、吉沢は差出人の枝村マサ子の疑問に同意出来る部分が多々あった。 吉沢啓助は、山内耕司に、枝村マサ子からの手紙を見せた。 山内の感想も吉沢の思いと同じで、聞いたことが無い。周りの人間もその様な者はいない。 劇団事務所で座員を含めた関係者に聞いてみることにし、実行したが、誰一人視聴率の調査に関連する話は聞いたことが無いという結果だった。 吉沢は、どうやら、枝村マサ子の手紙の内容が本当らしいと思った。 だが、山内は少し違った。彼は、疑いながらも「そんなことは絶対にない。理屈から考えてみたまえ」 調査会社の社会的責任からも、インチキな調査結果が視聴率として発表されているなら大変事になる。 調査を委託されている会社の信頼性を疑いながらも、手紙の内容を否定するのだった。 吉沢啓助は、山内に具体的に反論した。 「鷗プロのことだよ。あれだけ良心的な作品をつくっていても、視聴率が二ケタに乗らない。...」 山内耕司は、吉沢の話に同感して「なにしろ俗悪なな番組が高視聴率を占めすぎているからね。言い古された言葉だが、悪化が良貨を駆逐する」 山内が帰った後にも吉沢は、調査の基礎になるモニター器具の委託の実態を知りたいと思った。 >「E新聞の伍東に電話してくれ。....」吉沢は劇団の宣伝部員に依頼した。 伍東はE新聞の文化部に所属していた。 吉沢が、手紙の主、枝村マサ子に返事を書こうとしていた時だった。伍東から電話が入った。 吉沢の直接的な、手始めとも言える調査が伍東への電話で始まった。 思い立つと性急な正確な吉沢は、伍東に質問を浴びせ、後で返事をする言質を取った。 伍東の返事は、これまでの話しから一歩も出ていなかった。 「十年ぶりに東京駅で友人に偶然遇うことはあっても、テレビのモニター器械を預かった家の話は聞いたことがない」 関東地区の世帯が九百万世帯、サンプル数は五百個くらい。0.005パーセント。 吉沢は、とてつもなく小さな数字に驚愕しながら、伍東の話を聞いた。 小説の中見出しは「渦まき線香」へとなっていく。 鈴木幸三の名刺が稽古場の吉沢に届いた。伍東からの紹介でラジオ・テレビ関係の記者だった。 鈴木幸三から調査方法が語られ、この小説のタイトルが「渦」なのを理解させられる。 鈴木幸三との話は、視聴率の調査会社のガードが堅く、その内実を暴くことは難しいという結論で、その正確性を認めざるを得ない内容になった。 一週間ばかりして「枝村マサ子」から手紙が届いた。吉沢が返事を出していたのでその返信だった。部厚い封書だった。 手紙の内容は、枝村マサ子が兄から聞いたとする、業界の内情だった。 番組製作に当たっての制作側・プロデューサー・俳優・スポンサー・キャスティングなど様々な状況を説明していた。 勿論吉沢啓助も、常識的な範囲では知っていることではあった。 この小説の特徴的なところは、話が展開する場面では、吉沢啓助が稽古場で演出する場面が登場する。この展開が面白い。 吉沢啓助は、稽古場で髭面の男に目を付けた。小山修三、舞台装置の方を研究しているらしい。 油絵では「構図社」の同人。28歳くらい、神田の裏通りで喫茶店を経営している。かなり詳しい説明が続く。 小山修三は帰りがけに吉沢から声をかけられた。 吉沢啓助は、鈴木幸三との話の内容を概ね話、視聴率の疑問を問いかけた。 そして、率直に、「それでね、ぼくがひとつ、この実体をを調べてやろうと思い立ったんだ」 小山修三は驚いて吉沢を見つめた。吉沢は少したじろいながら続けた。 鷗プロの話を出した。小山も鷗プロが良心的な作品を作っていることには直ぐに同調した。 >「で、先生の手で調査されるんですか?」小山の疑問に吉沢は答えた。 >「する」 たが、不安は隠しきれない。「どん底」の舞台稽古の役者のセリフで自らを励ました。 吉沢啓助は、小山修三に調査の協力を依頼した。「わかりました。協力しましょう」 殿村隆一は鷗プロダクションの人間で、「城砦座」に出入りしていた。もとは局のカメラマンらしいが、独立して、プロダクションを立ち上げ代表。 細い眼で小太りで慎重な男、殿村は吉沢啓助の話を訊くと、東京に出てから30年以上なのに関西弁で答えた。 「そら、また、おもしろいことを考えたもんやなあ」 渋っていた感じの殿村隆一だったが、「...手助けさせてもらいまっさ」「やらせてもらいます。...」の返事が聞けた。 なんだか、「七人の侍」の島田勘兵衛(志村喬)が野武士と対峙する為に侍を集めている場面を想像した。 吉沢と殿村の話が次の段階に進もうとした時、無遠慮に山内耕司が部屋へ入ってきた。 (二人の話は中断したのだろうか?記述が中途半端に終わっている感じだ。場面は転換する) 七人の侍ならぬ、「張込み」の実行班(実行犯)が集まった。場所は新橋駅の一角のオフィス街。実行班は、三人の男女。 三人は、新橋駅前で落ち合って自己紹介をした。 目的もなさそうに駅前のビルに眼を遣りながらぶらぶら散歩のような歩き方だった。 小山修三:髭面の中年男。神田で喫茶店を経営 平島庄次:中年の小男、少し猫背、「鷗プロ」の照明係 羽根村妙子:二十五,六歳くらい、髪は頬から両肩に伸ばしていた。顔は小さい。大きな眼、鼻筋は徹っていた。「鷗プロ」の雑用係 羽根村妙子が、加わった理由は特に述べられていないが、平島の同僚 三人は自己紹介をした。小山修三は、「城砦」の吉沢啓助に頼まれたと話し、平島庄次と羽根村妙子は、「鷗プロ」の殿村隆一から言われたと述べた。 散歩の後の流れのようにホテルのロビーに入り、ビールとなったのだった。 「これから、どうぞよろしく」 散歩ながらに眼を遣ったビルこそ彼らの目的で、視聴率の調査会社が入っているビルなのだ。 羽根村妙子が、当該ビルに入居している会社名を低い声で話し始めた。 「すごい記憶力ですな」小山修三は言った。それを聞いた平島庄次が、「羽根村君は、スクリプターの仕事もしていますのでね...」 羽根村妙子は、続けた。 >「5階から上のは、硬派ばかりの会社が入居している。固すぎるくらいなのがね。TVスタディ株式会社の一階はなんですかね?」 一階は営業部、二階は経理とか、資材とか、庶務とか...そんな感じだろうとの結論になった。 見張り場所の喫茶店を決め、具体的な打ち合わせに入った。 調査は簡単にはいかなかった。当該ビルに入っているTVスタディ株式会社の社員を見つけ出すことが大変なのだ。 それを社員バッジで見当を付けたが、調査結果を集めてくる社員らしき人間を特定することは出来なかった。 一般社員とは違って10時過ぎ頃から調査結果を抱えて出社するだろうと考えていたが、そのような動きは見られなかった。 都合4回目の張込みも漏斗に終わった。小山修三から報告を受けた吉沢啓助も頭を抱えた。 午後1時過ぎにバッグを抱えた女の人がビルに入っていくことに気がついた。中年の婦人が入っていくのだ。 どうやら、ビルの5階にある「東洋化学加工株式会社」は、玩具の製造会社で中小企業らしい。 内職で部品作りを依頼しているものを仕上がったので届けているようだ。 吉沢啓助は叫んだ。「それだ!」 張込み班は思い違いをしていたのでは...吉沢の見解は、婦人達こそ、調査資料の回収人で、部品の完成品の納入は見かけの問題で確認されていない。 回収員が男性の正社員とは限らない。しかも、毎週水曜日のことだった。 吉沢啓助は、「どん底」の舞台でカルが吐くセリフが聞こえる。 《なに、そう失望したものでもないさ。》 吉沢の話に、小山修三は「それは、もやるつもりでいます」と答えた。彼らも同じように考えていたのだ。 新しい方針の下に調査が始まった。 調査内容の報告は、小山修三から吉沢啓助へ手紙ですることになった。 これは、伏線だろう。思い過ごしかもしれない。 ビルの前で、ワイシャツ姿の中年の男が体操をしている。(13時10分) 額は広くて、髪が少ない四十歳前で、メガネを掛けた丸顔。いかにもさらりーまんふうで、昼食を食べた腹ごなしの風情だ。 尾行を決行する相手を特定出来た。 ツーピースを着た三十五歳くらい、デパートのショッピングバッグを提げていた。痩せぎすでメガネを掛けている。 タクシーで来た、ワンピースの小太りの女。買い物の紙袋を下げている。颯爽とした足取り。 四十歳ぐらいの和服の女。四角い顔。風呂敷包みを持ってビルへと消えていった。 続いて、三十歳くらいの女が二人。白いブラウスに赤いズボン、背は高い。細面の美人。 黄色いブラウスの女は丸顔で派手な感じ。ショートカットで背の高い女と同じデパートの買い物バッグを持参。 五つくらいの女の児の手を引いた三十五,六歳の女。 平島庄次が、最初にビルから出てきた女(タクシーで乗り付けた女/ワンピースを着た小太りの女)を尾行した。A号と呼ぶことにした。 羽根村妙子は、女の児連れの額の広いキリッとした顔だちの女を尾行。B号と呼ぶことにした。 一人残った小山の所に、最初に尾行した平島庄次が頭をかきかき戻ってきた。巻かれてしまったのだ。 そこに、和服の婦人がビルから出てきた。小山修三が尾行をすることになった。C号と呼ぶことにした。 尾行の状況は、それぞれ、小山修三から吉沢啓助へ手紙で報告された。 報告から言えることは、視聴率調査の実態はあるということで、「幽霊」では無いらしいと言う結論だった。 調査の尾行はさらに続けられた。 D号婦人を尾行したのは、平島庄次と羽根村妙子だった。D号婦人とは、B号婦人と一緒にTVスタディビルへ入った黄色ブラウスの方である。 地下鉄新橋駅から乗り、赤坂見附で乗り換え新宿駅で降りた。小田急線の町田駅で下車。駐車場から車で走り去った。 ナンバーは、「相模 8963」。陸運局で調べると、町田市中森町2-5-6 私事ですが、この小説に登場する地名には馴染みがあります。新橋、町田市など特別な地域です。中森町とありますが、たぶん森野でしょう。 新橋駅前のビルなど、懐かしく思いだしています。 車の持ち主は、尾形良平39歳。妻は尾形恒子32歳。子供はいない。一部二階建ての一軒家に住んでいた。 最初に身元が分かった、視聴率の調査のデータ回収員D号婦人だった。 西船橋に住んでいるらしい、大柄で肥えた女、E号婦人と呼ぶ。小山修三と羽根村妙子が尾行した。 住所を突き止めることが出来た。佐倉市白原町16番地。川端忠男62歳。妻常子52歳。三女雪子22歳と同居。 データの回収員の素性が分かり、尾行することで回収先も把握することが出来た。 喫茶店の「若草」に集まった平島、羽根村、小山の三人は情報の整理を始めた。 三人は、吉沢啓助と会った。それには、鷗プロの殿村竜一郎が加わった。 場所は、さすがに「城砦座」の事務所では目立つので、近所の小さなレストランにした。 5人で検討会が始まった。 A号婦人からE号婦人までだが、ハッキリしたのは、D号とE号だけだった。少ないサンプルだが、千葉・神奈川・東京と一応調査実体はある。 ただし疑問が残る。把握出来ている調査員の人数が13人。大雑把に30人としても一人7件回収しても210世帯。 勘定が合わないのだ。特に当事者で被害者でもある殿村竜一郎は懐疑的になった。 しかし、この話の言い出しっぺでもある吉沢啓助が、これ以上続ければ、機器が設置してる家庭まで調べなくてはならない、 素人調査でここまで分かったのでプライバシーの問題もあるしこの調査の一件は打ち切りにしようと提案があり、打ち切りとなった。 小山修三が経営する喫茶店「シャモニー」は他の喫茶店もそうであるように忙しい時間と暇な時間の波がある。 その日は一日中暇で、肘をつきながら配られたばかりの夕刊に眼を遣っていた。 視聴率に関連する記事が目に止まった。妹の久美子は、レジを手伝っているが、来客を迎えた。 小山も新聞をたたんで、客を迎える準備を始めた。一区切りついて、修三は、久美子との話になった。 久美子がファンである歌手の出た番組が地視聴率で不満のようだった。 小山修三は、彼が引用し、吉沢啓助話した森鴎外の「かのように」思い出していた。 小山修三には、気おくれがあった。 >「尾ける人間」は、対手からも尾けられる。(「対手」タイシュ/「尾けて」(ツケテ)) 「城砦座」の舞台稽古のセリフが蘇る。 《ワシリーサ お前は何しに来たの? わたしの跡を尾けて来たね?》 ここで、伏線が生きる。TVスタディビル前で体操をする男の不気味さである。 小山修三は平島庄次に電話をした。気おくれからの妄想かも知れないが、自身の不安を平島に確認してみたのだった。 平島からは一笑に付され、羽根村さんにもなにも変わりはありませんよ。錯覚と諭された。修三はノイローゼ気味なのかなと思った。 小山修三に平島から電話があった。R新聞社の投書についてだった。視聴率についての疑問が投書欄に掲載されていた。 電話の後、修三は新聞を読んだ。ショッキングな内容だった。 調査機器を設置している家庭からの投書のようで、特定の番組を見てくれるような働きかけがあったと言うのだ。それも具体的で面白い。 具体例の記述が続く。番組である歌手が、「歌の途中でマイクを左から右へ持ちかえる。」と言うのだ。これには驚いた。 今でも使えるのではないだろうか? 私の体験でも、選挙前など支持率調査なのだろ電話が掛かってくる。 自動音声でガイダンスに従ってボタンを操作するのですが、電話自体はランダムに抽出しているのでしょう。 現代だから容易に実行出来ると思います。前記の話では、マイクを持ち替えた時間を答えさせるのです。 その為の応募資格を付与する。返信先の電話に回答を寄せれば商品を付与する。 これは合法的に出来るのではないでしょうか?特定の調査機器を設置している家庭を狙い撃ちする必要は無いのです。商品の宣伝でも良いではないですか? 私は、留守番電話の設定をしているの応答はしませんが、下手な鉄砲数打てば機器設置家庭に当たる! この投書は「調査班」の関心を呼んだ。 私は、直感的にこの投書の主は「枝村マサ子」ではないかと想像したが... 「調査班」の人物だけが注目したのでは無いはずだ、枝村マサ子も読んでいたと考えられるが、そのような記述はない。 投書は、神奈川県大磯町・服部梅子とされていた。小山修三は投書の主を探そうとした。 吉沢啓助の依頼では無く、小山修三の探究心からだと平島庄次に告げて調べる事は出来ないか相談した。 新聞社関係のコネで何とかならないかと考えた末に平島へ電話をしたのだった。 大磯町杉谷5の12の3 電話番号は不明だった。 小山修三は平島を誘って大磯に行こうと提案したが、平島の都合で、羽根村妙子とではと逆に提案された。 女に会うのなら女性と同伴の方が便利だろう、彼女も乗り気だった。 小山修三と羽根村妙子は大磯の服部梅子に会うべき出掛けた。ところが 住所の杉谷は、4丁目までで、5-12-3の住所は無かった。しかも、小山達とは別に二組の人間が服部梅子を訪ねて大磯にやって来ていた。 どうやら架空の住所らしい。 二人の結論は、投書は内部告発ではないかと言うことになった。内容がリアルで、すぐに放送局の関係者らしい人物が服部梅子を探しているではないか。 大磯からの帰り道、二人は、町田の尾形恒子の家に向かうことにした。事態はスピードを上げて動き出した。 尾形恒子の家の前でひそひそ話をする近所の主婦からの聞き込みで、尾形恒子が行方不明らしいことを聞きつけた。 警察に捜査願いも出されているようだ。 羽根村妙子から報告を受けた平島庄次が小山修三の喫茶店にやって来た。突然の来訪だが修三は予期していた。 来訪の目的は羽根村妙子から聞いた内容ももちろんだが、重大な情報を持ってきた。 「旬刊TR通信」なるテレビ・ラジオ関係の業界紙だった。 平島が見せた記事は、TVスタディ株式会社の人事異動の記事だった。 4名の人事異動が発令されていて、その一つに、○依願退職 管理課次長 長野博太 伏線は表舞台に登場した。 長野博太こそTVスタディ社のビル前で体操をしていた男だった。さすがに小山修三は驚いた。 長野博太は、34歳、見かけより若かった。大卒で出世も早かったと言える。 長野博太の住所が、杉並区高円寺クヌギ団地3号8の23 B号婦人、羽根村妙子が尾行して最終的にどの部屋だか分からなかった団地ではないか、B号婦人は、長野博太と同じ団地に住んでいた。 平島庄次は長野の自宅を訪ねていた。妻に会い三日前から大阪方面に行ったままだという。職探しらしい。 一週間前には依願退職なのだが、成り行きから依願退職は怪しい。 長野の退職が処分であるなら、使い込みとか、女の問題も考えられるが、もう一つ考えられるのが仕事上のトラブル。 再び三人は、TVスタディのビル前に結集していた。 三人の張込みは、羽根村妙子の車の中からと、喫茶店「若草」を利用して続けられた。 張込みの最中の話しで、三人の尾行は相手に気がつかれていたのではないかと言うことになった。 相手とは勿論A号からE号と名づけられた回収員の婦人達である。 成果のない張込みだったが、切り上げて食事でもとなった時、平島が売店で手に入れた夕刊の記事に驚愕することになった。 長野博太が交通事故で死亡していた記事を見つけた。タクシーとトラックの衝突事故で、タクシーの運転手(杉原二郎)と乗客の長野博太が死亡。 町田街道での事故だった。 小山修三は、平島庄次からの電話で、また三人で会うことになった。珍しく急いでいる風で、誰にも聞かれないような場所で会うことにした。 羽根村妙子の車の中に決まった。 平島が急いで招集を掛けた理由が明らかになった。平島は死亡した長野博太の家を訪問して妻に会っていた。 会社を辞めさせた上に、死者の弔問にも来ないTVスタディ社の仕打ちに憤慨していることもあり、平島にかなり詳しいく話してくれた。 そして、長野博太の遺品とも言える「テープ」を渡してくれた。このテープこそ回収員が集めTVスタディ社に届けている物だった。 長野博太が退職時に持ち帰った物で、しきりに調べていたらしい。 「穴あきテープ」はTVスタディ社で専用機に掛けて読み取るのだろうが、穴の位置などである程度見当が付く。 平島庄次は見当を付けて読み取ることが出来ると言った。 平島庄次は読み取った内容を二人に話した。 読み取った内容は小山修三に大きな示唆を与えた。 小山修三は、平島が読み解いたテープの内容と「幼児誘拐事件」の関連が彼の頭の中でまとまり、平島へ連絡した。 鷗プロでは平島が休みだと言われ、羽根村妙子を呼んでもらい会って話すことになった。 小山修三の思いつきに羽根村妙子は全面的には同意しなかった。修三に思い違いがあると言った。 とにかく伏線が多い。うっかり見落とすと次に何処かで関係が出てくる。気をつけて読まねば! 見逃していました。 小見出しが「無関係な記事」とあります。わざわざ断っている無関係な記事とは。幼児誘拐事件の記事でした。 公園で遊んでいた惠子ちゃんという6歳の子供が誘拐され、二週間後無事返された事件でした。 小山修三が、足立区立図書館で新聞綴じ込みの閲覧で発見したのでした。 修三の目的は、失踪した尾形恒子(D号婦人の)記事でも出ていないか確かめる為でした。 私は単純なエピソードとして無視していました。この小説には沢山の伏線が仕掛けてあります。 ビルの前で体操をする男(長野博太) デパートで和服を着た回収員(C号婦人)が男から誘われる。所謂ナンパ(評論家) 小山修三が羽根村妙子と銀座で待ち合わせする時、遅れた修三を待つ妙子に言い寄る男?(こと問い) 小山修三の元を友人の越智が訪ねてきた。43,3の顔も身体も丸い男だ。大阪出身で何処かの大学の講師をしている。 古本屋の帰りだという。本屋で見つけたマイリック・ランドが書いた小説で、コンピューター式の操作による情報社会の恐怖をがテーマになっている。 「え、なんですって」小山修三は食いついた。 ※「マイリック・ランド」は、実在の小説家で「砂の墓標」なる作品を物にしていた。その内容は小山修三が食いつくに十分だった。 平島庄次からの誘いの電話で小山修三は二人で会うことになった。一杯飲もうという口実だった。 場所は銀座、平島の紹介する店に向かった。ステージがあり、傍のバンドがピアノを叩きトランペットにドラムが鳴っていた。ホステスが歌っている。 歌手やテレビタレントを目指す彼女らが客としてやってくるプロデューサーやディレクター、芸能プロの目に止まろうとしているのだ。 店の名は「クラブ・カンヌ」 平島の目的がハッキリする。岡林浩、三十二、三に見えたが四十一、二だった。。番組批評家で、彼は高視聴率の予言者でもあった。 彼に誉められれば、高視聴率間違いなしと言われるのだ。その説明の為の資料を平島は小山に手渡した。 小山修三に会わせるのが目的だったのだ。しかし、小山は別の意味でも驚いた。岡林浩を見かけていたのだ。 小山は、翌朝平島から電話をもらった。新聞の切り抜きの資料を見た小山は、「神さまだけに、霊力がはたらいているのですかね?」 冗談のつもりで感想を答えた。 平島庄次が小山の店「シャモニー」にあらわれた。電話からの時間の経過がハッキリ記述されていない。 小山は店の二階の自室に平島を招き入れる。 平島の訪問目的は、さらなる岡林浩の正体を説明する為だった。 推測をまじえての説明に小山修三は圧倒させられる。「批評の神様」は、視聴率調査のデータ回収員の婦人達を買収しているというのだ。 平島の調べは具体性も伴っていた。 金の掛かる買収を岡林が出来るのは、岡林が平塚の土地成金だという。尚も平林を裏付けがあるのですかと問い詰める。 平塚は大磯の隣町だ。小田原厚木道路では同じ出口だ。 長野博太・尾形恒子・岡林浩が一本の線で繋がるのだった。 小山修三は、平島に回収員で住所の知れている佐倉市の川端常子を調べてみてはどうかと提案した。 川端常子とコンタクトを取ろうというのだ。誰が適任なのか? 男では? 羽根村妙子? 平島は少し躊躇した。 妙子では心許ないと言うのだが、小山修三は、町田の尾形恒子を訪ねた際の妙子を見ていて彼女の能力を評価していた。 ※私は此処で少し違和感を持った。平島と羽根村妙子の関係が鷗プロの同僚であることで信頼関係はあるのだろか? 清張作品に時々登場する有能な若いアシスタントの女性にある種の嫉妬のような感情は無いのか? もう一つ読み過ぎだろうが、小山修三の尾形恒子関係の情報は、羽根村妙子から得た間接的な情報でしか無かった。 三人の調査が一つのまとまった結論から次に向かっているようでそうでは無いのだ。 小山・平島・羽根村の個人的な行動の寄せ集めで統一性が見られない。 小山は、平島に改めて「幼児誘拐事件」との関連性を問いかけたが、「冷えた眼での答えだった」 「遊ぶ男」が次なる小見出しだ。 エピソード的に幾人かの「遊ぶ男」が話題になる。 「和服姿の回収員の婦人(C号婦人)に声を掛ける男/岡林浩」・「修三を待つ羽根村妙子にこと問いをする男」・ 「小山修三のデッサン仲間で電気照明器具店の三男坊」・「日榮社の営業部の外交係/小高満夫」 話は小山修三の興味からか、日榮社の小高満夫に調べが及ぶ。小高満夫の住所が平塚市であることがわかる。 平塚と言えば、岡林浩も平塚だった。実際二人の住所は目と鼻の先と言える距離だった。 平島庄次はこのことを知っているのだろうか? この辺りに来て、小山と平島そして、 羽根村妙子の微妙な関係が気になる。いろいろな情報を共有しているのだろうか? 羽根村妙子から小山修三に電話。妙子は、尾形恒子に会ってきたと言うのだ。何時ものホテルのロビーで会うことになった。 妙子の話しは、岡林浩や尾形恒子の夫(尾形良平)の話など修三にとっても興味深い話しなのだ。岡林は子供番組の批評も行っていた。 しかしその話の内容は平島と共有されているのか分からないところが多い。 妙子は、テレビ批評の神様の岡林浩と日榮社の小高満夫が同じ平塚に住んでいる事は知らなかった。 そう言えば、尾形良平(恒子)夫婦は、以前平塚に住んでいたが、町田市に越してきていた。 尾形良平は、恒子に恋人がいると疑っている。相手は、岡林か小高? 次の小見出しは「海の車」 話しの内容がすこしづつ変わってきてように感じられる。 岸壁から飛び込んだ車に男女の死体。女が運転していたらしい、心中のようだ。 新聞記事を見つけた小山修三。車のナンバーから修三は自分のメモからD号婦人の自家用車であることを知る。 話しがズレているような感覚は、私の興味を失わせていった。 興味を失ったのは、視聴率のカラクリがどのようにして明らかにされるかにあったのに、 張り巡らされている伏線が絡み合い男女の関係のもつれも重なり....とにかく全てが渦の中に巻き込まれていくような展開になったからです。 原点であろう、枝村マサ子の手紙は何処かに行った感じで急速に興味を失いました。 その理由を私なりに考えて見ました。勿論最後まで読んでの感想です。 TVスタディ社の社内抗争、登場人物の恋愛感情(浮気・愛人)、不倫の脅迫、殺人のトリック(心中・死亡時間も含む)、 素人探偵の推理・尾行・張込み(小山修三)事件解の現場(崖の上での解決)などなど、清張作品の総合デパート的になっていると感じました。 50年近く前の作品で、単行本購入時期に読んでいるのですが、テーマの「視聴率」については覚えていますが内容は、特に終盤については 殆ど覚えていませんでした。テーマが十分消化されていない印象が否めません。 他の読者の反応が気になり探してみましたが、イロイロでした。【読書メーター:『渦』|感想・レビュー・試し読み - 読書メーター】 勿論、人それぞれで、全く個人的な感想です。 これ以上順を追って読み進むとネタバレにもなりそうなので、思い切って割愛します。 小見出しを示して終わりにします。(「海の車」に続く) 「死体の疑問」 「西伊豆」 「断崖上にて」 「海辺の誘い」 「錯覚の糸」 「思わざること」 -------------------------------------------- ■視聴率調査 「視聴率の調査地区と測定方法」 ビデオリサーチが解説 視聴率基本の『キ』|...メディアとビジネスのミライを見つめる。 |:ビデオリサーチ 「視聴率」の疑問が始まりでしたが、調査対象の少なさが、正確な視聴率を反映しているのだろうか? 誰しもが思う疑問です。確率論的には、小説の中にも示されているが、900万世帯に500個のモニターで十分らしい。 これは、逆の意味では、少ない数のモニターに不正を仕掛けて、例えば、10個のモニターが不正なら.... その影響力はモニターが少ないが故に甚大です。 現在では、通信環境の劇的な変化で巨大なデータを集めることが出来ると思います。デジタル放送でdボタンで回答を... などと呼びかけがあります。駅伝中継などで区間順位を予想するなど、実際にやられています。当たれば景品を出す。 視聴率も上がるでしょう。 視聴率に限って言えば、巨大なデータを収集すれば、不正の入り込む余地があっても、無視出来る範囲で収めることが出来るのではないでしょうか? とても興味のあるテーマなのでもう少し掘り下げて欲しかったです。 -------------------------------------------- ●TVスタディ株式会社の社章 ![]() ●テレックス テレックス(英語: Telex、Teletype exchange service)は、テレタイプ端末を使用した通信方式であり、電話のように通信相手の端末を指定できる。 1930年代に確立し、2000年代前半頃まで商業通信手段として用いられた。 年齢がバレそうですが(苦笑) ファックスが一般的になる前に、テレックスというものがありました。 この小説「渦」で話題になる視聴率の調査データが数センチの紙幅の紙テープに穴が開けられ、読み取り機に掛けることで復元出来るものです。 文字データを送信する為に使っていました。当時大阪の営業所に勤めていたので、注文内容を本社に送信する為に利用していました。 ![]() ●こと‐どい 【言問ひ】 (コトトイとも) 言葉を交わすこと。物をたずねかけること。特に、異性に思いを打ちあけること。万葉集20「今日だにも―せむと」 2026年3月21日 記 |
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| 作品分類 | 小説(長編/シリーズ) | 315P×910=286650 |
| 検索キーワード | 視聴率・劇団「城砦」・鷗プロ・調査会社・TVスタディ株式会社・資料回収員・モニター家庭・張込み・尾行・ホテル・喫茶店・自動車事故・心中・こと問い |
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| 登場人物 | |
| 枝村 マサ子 | プロデューサーの兄が視聴率の低迷を理由に番組を降ろされる。その視聴率に疑問を感じ吉沢啓助に手紙で訴える。 |
| 吉沢 啓助 | 劇団「城砦」の主宰者。枝村マサ子から、視聴率の疑問を手紙で訴えられる。吉沢自身も疑問に感じ、枝村マサ子の手紙に答えようと調査を始める。 |
| 山内 耕司 | 吉沢啓助の友人。新劇俳優の第一人者。小説の中心的な存在かと思ったが、チョイ役程度だった。 |
| 伍東 | E新聞社の文化部の記者。吉沢啓助の知人 |
| 鈴木 幸三 | 伍東の紹介で、吉沢啓助に会いに行く。 ラジオ・テレビ関係の記者 |
| 羽根村 妙子 | 「鷗プロ」の事務員。二十五,六歳くらい、髪は頬から両肩に伸ばしていた。顔は小さい。大きな眼、鼻筋は徹っていた。 小山修三・川島庄次らとTVスタディ社の回収員を調査する。 |
| 平島 庄次 | 中年の小男、少し猫背、「鷗プロ」の照明係。小山修三・羽根村妙子らとTVスタディ社の回収員を調査する。最後には中心的な謎解きをする。 |
| 小山 修三 | 髭面の中年男。油絵では「構図社」の同人。28歳くらい、神田の裏通りで喫茶店「シャモニー」を経営している。 妹(久美子)はレジ係として手伝っている。謎解きの中心的な役割をするが、その推理は外れてしまう。 |
| 岡林 浩 | 通称「批評の神様」。テレビ番組の評論家で平塚市の土地成金。岡林が誉めると視聴率が高くなる。 視聴率の調査世帯を買収しているらしい。遊び人でもある。 |
| 小高 満夫 | 日榮社という広告会社の営業。平塚在住。岡林同様遊び人。尾形恒子と関係があるようだ。 |
| 長野 博太 | TVスタディ株式会社の管理課次長。調査部門の責任者。社のビルの前で体操をする男。34歳、見かけより若かった。大卒で出世も早かったと言える。資料回収員の尾形恒子は愛人。恒子の夫から脅迫されていたようだ。社内の派閥抗争に敗れて、最後には辞めさせられる。 |
| 殿村 隆一 | 吉沢啓助に協力する。鷗プロダクションの人間で、「城砦座」に出入りしていた。もとは局のカメラマンらしいが、独立して、プロダクションを立ち上げ代表。直接調査はしないが、平島庄次・羽根村妙子を調査に参加させる便宜を図る。 |
| 尾形 良平 | 尾形恒子の夫。夫婦仲は悪かった。妻(恒子)の浮気を疑っていた。浮気相手の長野博太を脅迫して金銭を要求していた。 |
| 資料回収員 | A号夫人、ワンピースを着た小太りの女。B号夫人、女の児連れの額の広いキリッとした顔だちの女。C号婦人、四十歳ぐらいの和服の女。四角い顔。 |
| 尾形 恒子 | D号夫人。尾形良平の妻。夫婦仲は悪い。浮気相手は長野博太。こと問い(ナンパ)で声をかけられ小高満夫とも関係があった。32歳。 子供はいない。町田市の一部二階建ての一軒家に住んでいた。町田に住む前には平塚に住んでいた。 |
| 川端 常子 | E号夫人。大柄で肥えた女、E号婦人と呼ぶ。小山修三と羽根村妙子が尾行した。佐倉市白原町16番地。川端忠男62歳。妻常子52歳。三女雪子22歳と同居。 |