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●病院 その二十七で医者(医師)を取り上げていた。 「病院」では、やはり重複がかなりあった。「夜が怕い」・「延命の負債」・「わるいやつら」・「巻頭句の女」・「春の血」が重複でした。 ●書き出し(太字はキーワードと重複) 延命の負債※村の末吉は若い時から心臓が良くない。 わるいやつら※彼は医者としての情熱をとうに失っていた。院長といっても、熱心に患者を診察するわけではない。 巻頭句の女※「普通の病院ではね。しかし、ああいう所はそんな手術をすぐしてくれるかな」麦人は首を傾げた。 春の血※田恵子の夫は---これは五年ばかり前に死んだが、同じ土地で病院の院長をしていた。 夜が怕い(草の径)※二カ月前から入院している。胃潰瘍と医者はいうが、癌だと自分ではわかっている。 草(黒い画集)※私は肝臓を悪くして、都内のある町にある朝島病院に入院していた。 速力の告白(黒の図説)※A病院に駆けつけると、女房も子供も死んでいました。 走路(絢爛たる流離)※.....南方の激戦地を歩いているうちにマラリヤに罹り、送還されて京城の陸軍病院に入っていたのである。 疑惑※北陸日日新聞の社会部記者秋谷茂一は、私立総合病院に入院している親戚に者を見舞ったあと、五階の病棟からエレベーターで降りた。 喪失の儀礼※大学の付属病院に勤務する医局員ばかりでなく、開業医も「勉強」のために参加していたのである。 与えられた生※桑木は三ヵ月ほど前に、内臓外科専門のA病院で胃癌の切除手術を受けた。 ●キーワード(太字は書き出しと重複) 不法建築 延命の負債 草 春の血 「わるいやつら」では、「病院」が突出している。まだ紹介作品として取り上げていないが、映画で作品を見ているので、印象は強烈である。 悪党ばかりが出てくる、エンターメント作品と言える。 「病院」は、不正の舞台としても舞台設定が整っているのか作品にはよく登場する。 主人公や被害者が入院するなどして、よく登場している。元気なのに訳ありで入院して登場するなど、話を発展しやすいのだろう。 余命幾ばくも無い患者もテーマにしやすいと言える。 「草」(黒い画集/第九話)は、作品としては面白いのだが、TVドラマ化されたものは、少々ガッカリさせられた。 「わるいやつら」・「草」が、病院を舞台の作品としては双璧と言える。 2025年08月21日 |
題名 | 「病院」 | 上段は登録検索キーワード |
書き出し約300文字 | ||
「延命の負債」 | 印刷工場・下請け・心臓手術・特別室・オフセット印刷・病院長・設備投資・倒産 | |
村野末吉は若いときから心臓がよくない。ときどき胸がしめあげられるように痛む。どの医者も僧帽弁に狭窄があるといった。病名は自分でもわかりすぎているので、注射をしてもらったりして帰る。思い切って手術をしませんか、と医者はすすめた。手術は人工弁の入れかえだという。十年前まではそんなことはいわれなかった。医術の発達である。入院すればどのくらいで退院できますかときくと、一か月半もあれば充分でしょうといわれた。むろんそれだけの設備と、内臓外科に熟達した医者をもつ大きな病院でないといけないという。一か月半の入院とは末吉にとって現実ばなれした問題で、長いあいだのこれまでどおりのやりかたで薬を飲んで心臓をかばい、万一の発作時にそなえてニトログリセリンの薬を携帯して働く生活をつづけた。 | ||
「わるいやつら」 | ※まだ紹介作品ではない | |
二時を過ぎていた。窓から射す光線が昏れかけたように暗い。病院は閑散としている。多少、忙しいのは午前中の二時間であった。此処にいちばん近い内科の診療室に笑い声が起こっているが、医員たちが看護婦とふざけいるのであろう。近ごろ、また余計に疲れた、と戸谷信一は思った。三年前は、この病院も隆盛であった。父親の弟子だった優秀な内科の医長が辞めてから急に悪くなったのだ。一年前に、やはり腕のいい外科医長がやめてから、さらに患者が減った。そのままジリ貧出来ている。赤字が、月々ふえてゆく。病院が閑散でも、経営が赤字でも、院長の戸谷信一はあまり苦にならなかった。赤字の方は、彼には補填の才覚がある。病院は繁盛しなくてもいいと思っている。他の病院に対する競争意識は少しもない。この病院は、亡父の信寛が創った。信一は、それを受けついだだけだが、彼は医者としての情熱をとうに失っていた。院長といっても、熱心に患者を診察するわけではない。経営に専心するかといえば、そうでもない。 | ||
「巻頭句の女」 | ※まだ紹介作品ではない | |
俳句雑誌「蒲の穂」四月号の校了のあと、主宰者の石本麦人、同人の山尾梨郊、藤田青沙、西岡しず子の間に、茶をのみながらこんな話が出た。いつものように、会合は医者をしている麦人の家であった。「先生、今月も志村さち女の句がありませんでしたね」古本屋をしている山尾梨郊が云った。「うん、とうとう来なかったね」と、麦人はゲラ刷りをまだ見ながら云った。「これで三回つづきますね。病気がよっぽど悪いのでしょうか?」貿易会社に勤めている藤田青沙が、顔の麦人のほうに向けて云った。この編集委員の中では青沙が、一番若く、二十八の独身だった。「さあ、胃潰瘍ということだかね」「胃潰瘍というのはそんなに重いのですか。このごろは、手術すればすぐ癒るでしょう?」「普通の病院ではね。しかし、ああいう所はそんな手術をすぐしてくれるかな」麦人は首を傾げた。 | ||
「春の血」 | 駒牟礼温泉・芸者・駆け落ち・別府・マッサージ・猟奇・京料理・角屋・心臓病・二階・梯子・板前・怪女 | |
海瀬良子は、友人の中に新原田恵子をもっていた。良子は四十六歳、田恵子は四十八歳であった。良子と妙子の交際は二十年近くもつづいている。それは夫同士からの付き合いに始まった。良子の夫は、この地方の都市で、親から貰った資産を持ち、小さな会社の社長をしていた。田恵子の夫は---これは五年ばかり前に死んだが、同じ土地で病院の院長をしていた。知り合いになったのは、社長と院長の時代ではない。三十前だった良子の夫が盲腸炎を起こして入院したとき、剔出した係りの医員が妙子の夫だったのである。それ以来、両人の妻同士の交際は連綿として二十年継続している。もっとも、はじめの十五年間は、さほど親密な接触もなく、一年に三,四回、合うか合わないかぐらいであったが、夫の院長が亡くなってから田恵子がずっと良子に接近してきたのだった。 | ||
「夜が怕い」(草の径/第七話) | ※まだ紹介作品ではない | |
その総合病院では夜の宿直に医師若干名と看護婦数名を置いていた。医師の人数が書けないのは、夜なかにベットの呼鈴を押してゆっくりとやってきた看護婦に、先生に来てほしいと云っても、一度として顔を見せたことがないからである。医師は宿直室に一人なのか二人なのか、それとも三人なのかわからない。看護婦は当直の先生の数を言明しない。私は七十五になるが、胃潰瘍でこの病院の東病棟に二カ月前から入院している。胃潰瘍と医者はいうが、癌だと自分ではわかっている。十年前に胃の三分の二を除去したが、二年前からまた様子がおかしくなった。年寄りの癌は緩慢に進行する。それに近ごろは制癌に効くいい薬ができた。私は個室に入っている。入院を申し込んだとき、いいぐあいに個室が一つ空いていた。私は小企業を営々と経営してきて、今は長男に代を譲っているが、個室の費用ぐらいは出せる。 | ||
「草」(黒い画集/第八話) | 病院・院長・婦長・事務長・駆落ち・薬室・ヒロポン・入院患者・値下闘争・偽装・麻薬組織・刑事・自殺・逮捕状・ウイスキー・付添婦 | |
そのころ、私は肝臓を悪くして、都内のある町にある朝島病院に入院していた。この朝島病院というのは、かなり古い病院で、一般にも名前が知られていた。というのは、その先代の院長がかなり有名な臨床医で、当時、ある宮家の主治医をしたこともあったからである。今の院長はその息子だが、その病院はちょっと衰微していた時期がある。院長の医学博士朝島憲一郎は、四十七八歳ぐらいで、それほど悪い腕ではないが、先代が偉かったせいか、二代目になると、見劣りする印象を世間に与えたらしい。病院が一時衰微したのは、彼に力がなかったからでなく、そのためとも思われた。ところが二年ぐらい前から、この病院はまた繁盛しはじめ、私が入院したときは、新しい病棟を増築して、それが完成したところであった。私はその新館の個室にはいったのだが、新しいだけに設備も良く、明るくてなかなか快適であった。朝島院長は、毎日一回は病室にまわってきた。この人は色の白い好男子で、背がすらりと高く、いかにも名医の息子といった感じだった。五十近い年輩なので、息子というのも変だが、この人のおっとりした態度の中には、その感じが否めなかった。 | ||
「速力の告発」 (黒の図説/第一話) |
※まだ紹介作品ではない | |
「悪夢のような突然の不幸は去年の三月末の日曜日に起こりました」と、家庭電気販売店主の木谷修吉は書いている。「そのとき、私は神田の問屋に行って仕入れの商談をしていました。三時ごろでしたか、店の者から電話がかかってきて、すぐに××町のA病院に行ってくれ、奥さんと坊ちゃんが交通事故でケガをして担ぎこまれていると云うのです。たしかにそのときはケガだと云いました。妻は、静子といって三十二歳でした。子供は守一といい、三歳でした。その日は午前中からB町の親戚の家に集まりがあって出かけていたのです。交通事故と聞いて私はとっさに場所はR街道だと思いました。道幅がひろいのと、都内からはずれているために速いスピードで走る車の多いことで知られています。私はバスにトラックか乗用車が衝突し、帰りに乗っていた女房と子が負傷したとばかり思っていました。よくあることだからです。A病院に駆けつけると、女房も子供も死んでいました。 | ||
「走路」 (絢爛たる流離/第四話) |
社宅・金山寺・懐中電灯・超短波受信機・重慶放送・戦局・漁船・焼き玉エンジン・銭湯・命乞い | |
京城の部隊から新しく篠原憲作という主計大尉が、南朝鮮の沿岸防備師団司令部に赴任して来た。大尉はまだ三十三歳で、南方の激戦地を歩いているうちにマラリヤに罹り、送還されて京城の陸軍病院に入っていたのである。それが快癒してこの野戦病院に転属となった。篠原主計大尉は、鈴木物産の社宅に間借りしたが、それは死んだ柳原高級参謀が借りていた伊原寿子の家ではなく、山田勝平という採金所の技師長の家だった。山田技師長はもうここに六年間も居すわっていて、夫婦の間に男の子が二人いる。篠原主計大尉はこの社宅から徒歩でてくてくと師団司令部に通う。この司令部は、農学校の校舎を接収しているので、教室がそのまま師団長室や、参謀室や、軍医部などに分かれていた。 | ||
「疑惑」(原題:昇る足音) | 北陸・県庁所在地・保険金・国選弁護人・マスコミ報道・悪女・鬼クマ・自動車事故 | |
十月の初めであった。北陸の秋は早くくるが、紅葉まではまだ間がある。越中と信濃とを分ける立山連峰のいちばん高い山頂に新しい雪がひろがっているのをT市から見ることができた。T市は県庁の所在地である。北陸日日新聞の社会部記者秋谷茂一は、私立総合病院に入院している親戚に者を見舞ったあと、五階の病棟からエレベーターで降りた。一階は広いロビーで、受付や薬局の窓口があり、長椅子が夥しくならぶ待合室になっていた。そこには薬をうけとる外来患者がいつもいっぱいに腰をかけていた。名前を呼ばれるまでの無聊の時間を、横に据えつけたテレビを見たりしていた。ロビーから玄関の出口に歩きかけた秋谷の太い黒縁眼鏡の奥にある瞳が、その待合室の長椅子の中ほどにいる白髪の頭にとまった。頸が長く、痩せた肩が特徴で、後ろから見ても弁護士の原山正雄とわかった。原山はうなだれて本を読んでいた。 | ||
「喪失の儀礼」(原題:処女空間) | ※まだ紹介作品ではない | |
ある年の三月十三日から十五日までの三日間、名古屋で内科医ばかりの学会が開かれた。大学の付属病院に勤務する医局員ばかりでなく、開業医も「勉強」のために参加していたのである。その年は名古屋の私大医学部が幹事役に当たったので会が土地で開かれたのだが、東京、大阪、京都をはじめ北海道から九州にいたるまで約二百名あまりの参集があった。もっとも、この種の「学会」の数は少なくない。内科といっても専門的に細分化されているのでそれに応じていくつもの学会があり、その上、出身学校系統別にもつくられているから、少し大げさに云うと一年を通じて学会が終始どこかで開かれていることになる。名古屋のその学会は、最終日の十五日午後三時には切り上げられ、一同で犬山に向かい、渓観荘ホテルというのに入った。六時からは懇親会である。 | ||
「与えられた生」 | ※まだ紹介作品ではない | |
桑木は三ヵ月ほど前に、内臓外科専門のA病院で胃癌の切除手術を受けた。その以前、ほとんどの癌患者がそうであるように桑木も自覚症状がなかった。何となく痩せてきて、顔色も悪くなったのが半年前からである。日本画家である彼は、秋の展覧会に出す大きな作品を春から夏にかけて三つほど制作したので、その疲れのせいだと思っていた。ことに今年の夏は暑さがひどくて身体にこたえた。今まではこういうことはなかったが、四十をこすと無理ができなくなるのかなと思った。が、それよりもここ二,三年の間に画壇で認められるようになってから意識して大きな作品をつづけさまに描いてきたので、その疲労がつもったのだと考えていた。日本画といっても彼の描くのは洋画と同じように百号くらいの大きさに岩絵具を押しつけてゆく作業で、しかも、洋画と違い、日本画の繊細な線を生かして描くから、体力も精神力も消耗する。 | ||
「不法建築」 | 建築課監察係・希望建設・陳情・違反建築・バラバラ事件・売春婦・病院・変態性欲 | |
東京R区役所の建築課監察係は、係長以下五人しかいなかった。監察係というのは、違反建築物を取り締まるところである。最近、地価の暴騰と人口の稠密で都内は違反建築物が増加している。殊に、面積に対して四割に建蔽率しか認めない地域では、それがひどく目立つ。緑地帯の環境保持も何もあったものではなかった。人家の多い下町では、キャバレー、料理屋、工場、百貨店などの違反建築が見られるが、R地区は以前から閑静な住宅地が多く、その大半が四割の建蔽率区域になっている。建築基準法は、用地地域の設定による地域の環境保持と併せて、建築物の防災上、衛生上の基準を定めている。ところが、最近は建売住宅なるものが増加してきた。わずかな土地に建築規制などまるで無視した建坪の家を建てる。ほとんどが総二階だ。そして隣との距離は一メートルもなく人間がやっと通れる程度である。ひどいのになると、棺桶が運び出せないという悲劇が起こっている。 |