題名 | 混声の森 | |
読み | コンセイノモリ | |
原題/改題/副題/備考 | ||
本の題名 | 混声の森■【蔵書No0001】 | |
出版社 | (株)角川書店 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1975/4/10●3版1975/6/20 | |
価格 | 980 | |
発表雑誌/発表場所 | 三友社扱い:「河北新報」・「信濃毎日新聞」 | |
作品発表 年月日 | 1967年(昭和42年)8月13日〜1968年(昭和43年)7月18日 | |
コードNo | 19670813-19680718 | |
書き出し | 「事故でもあったかな?」石田謙一はタクシーの運転手に声をかけた。「さあ?」運転手も首をかしげている。夜の十時ごろだった。権田原から神宮外苑に入った所で、タクシーが前に詰まってのろのろと進んでいる。向こうのほうで懐中電燈の灯がちらちらしているのは警官でも立っているらしかった。「事故ではなく、事件が起こったのかもしれませんね。検問のようです」運転手は、窓から少し首を伸ばして様子を見たうえで答えた。「酔っ払い運転の検査じゃないのか?」客はいった。「そうではないようですな。酔っ払い運転だと、主に白ナンバーを停めます。タクシーまでいっしょに停めるのは、やはり事件が起こったんでしょうね」車が進むと、運転手の言葉どおり、私服と制服とが六、七人立っている。制服の巡査は少し手前で車を停め、懐中電燈の光を座席に射しこんで客の顔を眺め、問題でないと思われる車はさっさと通していた。 | |
あらすじ&感想 | 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 『混声の森』(こんせいのもり)は、松本清張の長編小説。『信濃毎日新聞』などに連載され(1967年8月25日 - 1968年9月2日付、夕刊、連載時の挿絵は宮永岳彦)、1975年4月に角川書店から単行本が刊行された。 −−−−−−−−−− 連載は「河北新報」・「信濃毎日新聞」など地方紙の夕刊に連載されたようだ。 売れっ子作家清張の作品を地方の新聞社が連載することは難しかったと思う。権利の関係などで数社が、共同で権利を購入した結果で連載が可能になったのだと想像する。(三友社扱い?) 夕刊の連載ようだ。連載期間が約一年。 小見出しは、以下の通り 気がかりな事件 女子学園 女 理事長の出張 息子の反抗 二つの面 情報 三顧の礼 若い女 工作 道標 事故のあと 浮動 投書 教授と職員の興味 噂の行方 闘争 妻と息子 理事会招集 討論 厄介ごと 発展 病院生活 入院日誌 攻防 渦 最後の工作 成功の間際 大きな成功 天の穴 小見出しは、一通り読んだ後の参考になる。あらすじを思い出すことが出来る。 内容は単行本の「混声の森」(角川書店)の表紙(カバー)の裏面に要約されている。 東京西郊に、2万坪の敷地とホテルと見まちがう近代校舎を持つ、私立女子大学「若葉学園」。−−−今日の隆盛は、学園専務理事石田謙一の辣腕によるものであったが、彼の胸中には、現大島理事長の椅子を奪い、学園経営を一手に収めようとする、どす黒い野心があった。大島理事長と学生課女事務員との秘密の関係を知った彼は、私立探偵社に依頼、スキャンダルをあばこうと図るが、彼自身もまた、バア・マダムと情事を重ね、一人息子の非行に悩む秘密を隠していた。・・・・・・学園経営の醜い内幕を描いて、現代教育界の腐敗をつく。巨匠松本清張の問題作! 長編作品で、40万文字近い作品です。「砂の器」に匹敵する長さです。 殺人事件も起きない、それでも最後まで読ませる工夫が感じられる。 ただ率直な感想として中だるみ的な部分が見受けられ。 推理小説と言う概念からは少し離れているように感じた。 登場人物もそれなりに多い。 今回の紹介は、あらすじの紹介と言うより、感想を中心に書いてみます。 書き出しは重々しくて、主人公の専務理事までに出世した経緯が大時代的に書かれている。 そっち方面に話が展開するのかと思わせる。 石田謙一は、若葉学園の専務理事。妻の名は保子。子供は高校三年生の恭太 恭太の素行が良くない。石田謙一と妻の保子の間は冷え切っている。保子は謙一に女がいることを疑っている。 謙一は、恭太の素行不良を保子の教育のせいにしている。 恭太の素行不良を諫める謙一だが、恭太に悪態をつかれ持て余す。最早体力的には謙一は恭太に太刀打ちできない。 家庭背景とは別に、石田謙一には野望があった。学園の理事長になることであった。 一介の事務職であった謙一は、特別な功績があり、専務理事までに出世していた。 若葉学園の学生が京都方面を旅行に行くことになる。 理事長の大島も同行して講演的に話をしたいと、事務長の鈴木道夫にそれを伝えてきた。 この旅行は、総員52名。学生の他に、村田、石塚そして秋山千鶴子も引率の先生として参加するのだ。 千鶴子は学生課の職員らしい。理事長と千鶴子は知る人は知る仲だった。 事務長の鈴木道夫は謙一の腰巾着のような男だった。早速、理事長の話を謙一にご注進。 謙一にある計略が浮かんだ。 謙一は、自分の女である加寿子に男の素行調査を依頼した。男の名は大島重太郎。重太郎は、若葉学園の理事長だった。 調査は私立探偵か興信所使ってくれと頼んだ。 学生の京都旅行にかこつけて出掛ける、大島と秋山千鶴子を焚きつけた。 書き出しの方向性とは違って、話は、どんどん下世話になっていく。 わたしはこの辺りで、誰が裏切るのだろうかと、考えて読むようになった。 謙一が理事長になるための陰謀は鈴木事務長の協力もあって成功裏に進む。 私は、石田謙一が決定的に愚かで、マヌケであると感じたのは、大島理事長のスキャンダルを理由に理事長のポストを追い落とそうとしているのだが、石田謙一は己の所業をどう感じているのだろうか? 謙一も大島理事長に負けないくらい好色でスキャンダラスな生活をしている。その上家庭も崩壊状態なのである。 彼こそ、身辺調査をされたら一発でアウトである。その警戒は微塵もない。 彼は理事長になるための策略を巡らすことに喜びを感じているのだ。 石田謙一と鈴木事務長の密談は謙一の専務室が使われる。秘書の岡本常子がいるが、そのたびに所払いになる。 この所払いが多少思わせぶりで、岡本常子も怪しい。 話は、息子の恭太の素行が母親の保子との関係でますます悪化していく。 謙一は、懸命に自制心を発揮して恭太との関係を保とうとする。それは一見成功するかに見えるが結果、恭太の裏切りに合う。 父親と息子の親子関係を挟みながら話は進むが、枝葉に過ぎず、時間稼ぎ的とも言える。 秋山千鶴子と大島理事長は石田謙一の企みにまだ気がついていない。 千鶴子は、大島理事長と関係が半ば石田謙一にも認められたように感じてか、理事長の権威を借りてふてぶてしくなっていく。 完全に尻尾を掴まれている二人に脅しを掛ける。 標的は秋山千鶴子である。 鈴木事務長の悪知恵で、二人が、京都旅行のついでに奈良まで脚を伸ばした旅行を投書の形で告発があったとした。 内容は、謙一が私立探偵社に調べさせた内容で事実だが、匿名の投書が学園に寄せられたとした。 秋山千鶴子は、問い詰められるが、したたかだった。千鶴子には大島理事長という後ろ盾があり、彼女のヒステリックナ性格からも 激しく抵抗した。 秋山千鶴子の入れ知恵か大島理事長は反撃に出る。 大島理事長から解任を告げられた石田謙一は多数派工作を始める。 大島理事長は、石田謙一の会計問題を理由に専務理事の解任を目論む。会計主任を抱き込んでの計画だった。 会計問題は取るに足らない内容で、謙一も覚えが無かった。 秋山千鶴子の手によるものだろうが、怪文書が出る。 理事会が召集された。 理事長 :大島圭蔵 専務理事 :石田謙一 理事 :小畑実造 理事 :室田蔵之介 理事 :久保田拓太郎 理事 :奥野正男 理事 :島田博 理事会で石田謙一の解任を決議しようとするが、謙一側は何とか協力者もあり、きり抜ける。 全面的な戦いとなっていく。 話の展開はあくまで石田謙一側の深慮遠謀、策略を中心に語られる。 石田謙一の野望は思わぬ所からほころびる。 一つは自滅とも言える「投書」である。鈴木事務長の考えた自作の投書ではない。 石田謙一が平野屋で食事中に眼があった女の投書だった。その投書は、次期学長の手に渡っていた。 理事の面々は、謙一の同調者であると信じていた、石田謙一の甘さが墓穴を掘る。 室田は理事長になる野望を持っていた。 もう一つは、予期せぬ人物の行動である。帽子のすげ替え程度に考えたいた学長の気骨ある行動だった。 大物学長は、謙一の理解の上を行く人物だったと言える。 正直、石田謙一が裏切られていく過程は興味が湧かなかった。当然の帰結に向かって話は進んでいく。 読後感として、登場人物の誰一人感情移入が出来なかった。 「わるいやつら」・「けものみち」と同類の作品と言えるのではないだろうか? 推理小説的な興味は、誰が裏切るのか?だった。 怪しくなさそうな奴が最後に裏切るという定説がある。 私は秘書の岡本常子を想像していた。見事に外れた。 最後に石田謙一のそばには誰もいなくなります。 妻の保子も、子供の恭太も、鈴木事務長も... 謙一は思う、結局大島理事長に殉じた秋山千鶴子だけが自身に真っ直ぐ生きた信頼できる人間だったのではないだろうか? 石田謙一の理事長への野望が、謀略を含めて主題となって書き進められている。 スキャンダルを掴んでの追い落としで、多数派工作が進行する。 その中で、前半には謙一が専務理事になることが出来た出来事が時代背景、登場人物を描くことによって 重厚さを持たせている。 途中に謙一の夫婦関係、親子関係を挟んでいく。 そして謙一自身の女関係が絡む。 理事長の追い落としに、理事長の女性関係をネタにするのだが、己の女関係には全く無防備である。 愛人との旅行中に、女が不慮の交通事故に遭って死亡する。男はその現場から立ち去る。 関係が発覚することを恐れてのことだ。 このパターンは幾つかある、「黒い樹海」時代物だが「突風」もその一つだろう 主題と逸れるのだが、石田謙一の妻保子との関係、息子恭太との関係がリアリティーもあり興味深く描かれている。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 二つの伏線があります。 一つは、「投書」 もう一つは、「交通事故」 ●はじめの投書 鈴木事務長が石田謙一から見せられた私立探偵社の調査内容を元にでっち上げる。 ●もうひとつの投書(平野屋での出来事・場面) ルミ子と石田謙一は平野屋で食事をしている。夫婦の客がそばを通り過ぎる。 >そのとき、若い妻のほうが、ふとこちらに顔を向けた。 >その視線が謙一の眼と合ったのである。 >もとより謙一の知らない顔である。 >色白の、顔の長い女だったが、彼女のほうがハッとなって、瞬間、歩いている脚を停めそうにした。 >ちょっと、ためらっていたが、すぐに思い返したように夫のあとを急いで追った。 >ほんの瞬間の出来事で、あとはそれきり人の居ない通路が残った。 ■もうひとつの投書の伏線(平野屋での出来事・場面) 石田謙一と眼のあった女は、若葉学園の卒業生だった。 もちろん、石田謙一は知らない。女は専務理事の石田謙一と気がついた。 それは、謙一の連れであったルミ子が交通事故に遇った現場で再び謙一を目撃したからだった。 投書が柳原是好のもとに届く。その投書は石田謙一の息の根を止めることになる。 ●交通事故@ルミ子が交通事故に遭う 謙一が平野屋で眼のあった女は、その時点では謙一の存在を確信していなかった。 ルミ子と石田謙一は京都旅行を終えて新幹線で東京に帰るところだった。 謙一が切符を買っている間にルミ子は京人形を買ってくると言いだした。 謙一は駅の構内でも売っていると言ったが、ルミ子は商店街で眼に付けていた人形があるらしく、 謙一が切符を買っている間に京人形を買ってくるといい商店街の方へ消えていった。 切符を買ってルミ子を待つがなかなか帰ってこない。新幹線の時間は迫ってくる。 駅の出入り口付近で待つ謙一は騒ぎを発見することになる。交通事故らしい、その正体が見える場所まで足を運んだ。 ルミ子が轢かれた。 ●交通事故A石田謙一が、タクシーに乗車中交通事故に遭う。 謙一とタクシーの運転手のやり取り、事故に至る経過は時代を感じさせる。 謙一が事故で入院している間も鈴木事務長は忠勤を励む。 鈴木には、息子の事や妻との仲も全てを話し、全幅の信頼をしているようだ。 裏切り者は、鈴木事務長か? その前に小者の裏切り者がいた。会計課の島村主任が大島理事長の軍門に降り小細工をしたようだ。 その島村も大島理事長が不利だとみると石田謙一に助命を乞う。 ●いもぼう(平野屋)についての蛇足 平野屋という料理屋が出てくる作品が過去にあった。「顔」・「球形の荒野」である。 まさか三度目が登場するとは思わなかった。 これについては、『作家と料理「いもぼう」』で少し詳しく書いてみる。 ●登場人物 長編だけに登場人物は多い。 しかし、石田謙一の息子の恭太に関連して登場する人物は蛇足的に思えた。若葉学園の教授達も蛇足? 2024年7月21日 記 |
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作品分類 | 小説(長編) | 450P×860=387000 |
検索キーワード | 若葉学園・陸軍用地・理事長・専務理事・事故死・新学長・多数派工作・私立探偵社・奈良旅行・投書・学長・いもぼう・野望・愛人・息子 | |
【カバー】東京西郊に、2万坪の敷地とホテルと見まちがう近代校舎を持つ、私立女子大学「若葉学園」。−−−今日の隆盛は、学園専務理事石田謙一の辣腕によるものであったが、彼の胸中には、現大島理事長の椅子を奪い、学園経営を一手に収めようとする、どす黒い野心があった。大島理事長と学生課女事務員との秘密の関係を知った彼は、私立探偵社に依頼、スキャンダルをあばこうと図るが、彼自身もまた、バア・マダムと情事を重ね、一人息子の非行に悩む秘密を隠していた。・・・・・・学園経営の醜い内幕を描いて、現代教育界の腐敗をつく。巨匠松本清張の問題作! |
登場人物 | |
石田 謙一 | 若葉学園の専務理事。保子との夫婦関係は絶望的、息子との関係にも手を焼く。加寿子は謙一の愛人。ルミ子とも関係が出来る。 ルミ子は、京都旅行中に交通事故に遭い死亡する。謙一もタクシー乗車中に、思わぬ交通事故で入院することになる。 理事長になる野望のため陰謀を張り巡らす。結局裏切りに合い、彼の周りには誰も居なくなる。 |
石田 保子 | 悪妻として描かれている。夫の謙一に女がいることを感じていて態度に出してしまう性格。入院中の夫と喧嘩になり別居状態になる。 息子の恭太とは理解し合うことが出来ず絶望的な関係になる。その事を謙一に責められ卑屈な態度に終始する。 |
石田 恭太 | 石田謙一の息子。高校三年生。母親との仲が特に険悪である。反抗期とも言えるが謙一に迷惑を掛ける。心根は優しい小心者である。 |
加寿子 | バー・ウインザーのマダム。石田謙一の愛人。謙一との仲は次第に醒めていき別れを迎えることになる。加寿子にも男が出来る。 |
ルミ子 | 加寿子に雇われているウンザーのホステス。23歳。自らも店を友人と共同経営している。その店に石田謙一の息子が出入りしている。 打算もあって石田謙一の女になるが、謙一と京都旅行の途中で交通事故に遭い死亡する。 |
大島 圭蔵(理事長) | 理事長の先代(兄)は大島重太郎だったが、後任として入ってきた。 石田謙一に言わせれば、能力は無いくせに血筋を傘に思うままに振る舞っていた。女好きで人望は無いが園主である事には間違いなかった。 |
秋山 千鶴子 | 若葉学園の学生課の職員。三十二歳。それほど美人ではない。男好きのする顔。大島理事長の女だった。 |
鈴木 道夫(事務局長) | 最後まで石田謙一の信頼を受け腰巾着の役割を果たすが、土壇場で寝返る? |
岡本 常子 | 石田専務理事の秘書。23歳、若葉学園の卒業生で、余り美しくはない。 謙一はわざとそういう女を採用した。専務室での密談では必ず席を外させられる。 |
島村(会計課主任) | 会計課。60歳近い。石田謙一の使途不明金を摘発する。 秋山千鶴子の意を受けての行動で、大島理事長の軍門に降った結果だった。一時は謙一に助命を乞う。 |
高橋 虎雄 | 六十を超した弁護士で法学博士。鈴木事務長の知人。石田謙一や鈴木事務長の目的は、高橋を通じて、柳原是好を次期学長に担ぎ出すことである。 |
柳原 是好 | 72歳、元T大総長。高橋虎雄を通じて、若葉学園の次期学長に担ぎ出そうとしている。京都在住で骨のある人物として描かれている。 |
室田 蔵之介 | 若葉学園の理事の一人。石田謙一には協力的な態度で接しながら、秘かに理事長の椅子を狙っていた。 |
吉田 満太郎 | 恭太の担任。石田謙一は恭太を持て余し、担任に相談を持ちかける。教師として常識的な対応で、謙一は満足できなかったが諦めるしか無かった。 ある意味、恭太の性格を見抜いていた。 |
石塚 恭司 | 助教授。学生の京都旅行に同行する。石田謙一の命を受け、大島理事長と秋山千鶴子の動向を監視する。 |