日本清張学会(NSG)設立記念・特別テーマ/「春の血」と「再春」
@「春の血」と「再春」問題提起 | |
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「春の血」は、紹介作品No5 (蛇足的研究No5) で紹介した通りです。
「再春」は、シリーズ作品『隠花の飾り』の第十話です。
登録作品の長編・短編を整理するため、作品の文字数を調べていました。
もちろん、文字数は大雑把な把握で、ページ数を確認するするためパラパラめくっていました。
「再春」のタイトルが気になり、再読しました。
「ん!!」 どこかで読んだ・・・・
「再春」のあらすじは
主人公の主婦「鳥見可寿子」が、中央の文学雑誌に出した小説が新人賞になり、注目される。
彼女の広告代理店に勤める夫は、「女房の玩具」としてひやかしていたが、文学賞の評判を人から聞かされる。
本店(東京)での女房の評判を聞き、「作家の夫」として、自身の東京転勤を夢見る。
彼女は現状にたいした不満もなく「このままでいい」と思っていた。
けれども、状況が変わってきた。
彼女にも原稿の依頼が来はじめる。
締め切り日に追われる彼女は、知人の家庭裁判所の調停委員をしている「川添菊子」に小説のヒントを得る。
「鳥見可寿子」は、R誌に「再春」という小説を発表した。
この小説こそ
「春の血」である。
さらに、あらすじを続ける。
「再春」発表後、思いがけない非難が「鳥見可寿子」を襲撃する。
「再春」は有名な「トーマス・マン」の短篇「欺かれた女」のテーマをそのまま使っているというのだ。
彼女は、「トーマス・マン」の「欺かれた女」を知らなかった。
彼女は確認した。
テーマは同じだった。「主題の盗用」と言われてもしかたなかった。
彼女に疑惑が起こった。
「川添菊子」である。
川添菊子は、「欺かれた女」を読んでいなかったのか?
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問題は、「春の血」である、「再春」である。
作中小説である「再春」は「春の血」なのである。
登場人物、「新原田恵子」「海瀬良子」も同じ
会話も
「ねえ、あなた、まだあれあるの?」
「あるわよ。どうして?」
と、同じ
そして、なぜか
文藝評論家が、「もちろんトーマス・マンの文章が格段に上質であることはいうまでもない」
と、酷評している。(もちろん作中であるが)
この酷評は、清張が、清張に向けたものなのか?
「春の血」は「文藝春秋」1958年(昭和33年)1月号の作品、「再春」は「小説新潮」1979年(昭和54年)2月号
時は、およそ20年を経過している。
「春の血」発表時に
「再春」発表後、思いがけない非難が「鳥見可寿子」を襲撃する。
と、同様
非難が、松本清張を襲撃したのだろうか・・・?
無知な私は
いままで、聞いたことがない。
そして
「トーマス・マン」の「欺かれた女」も知らない!
清張の結論は
世の中には「再春」の話も「欺かれた女」の話も実際には多いはずである。
そうだ、世の中に子宮癌という病気が存在するかぎり、これと同じ話はいっぱいあるはずである。
とすればこれは事実である。人生の事実である。自分はそれを書いた。・・・・・
しかし、・・・・・・
先に書いた作品のほうが勝ちなのである。
この集に収めたのは、すべて三十枚の短篇である。三十枚という枠を雑誌社から決められると、
とにかく身辺随筆のような、あるいは小話のような「軽い」ものが書かれる傾向がないでもない。
三十枚でも、百枚にも当たる内容のものをと志向した。
そのとおりになっているかどうか読者の判断に待つほかはない。(初出「小説新潮」)
この経緯をご存じの方は教えて下さい。
2006年8月4日 素不徒破人