研究室_蛇足的研究

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2023年6月21日


清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!




研究作品 No_145
歯止め
(シリーズ作品/黒の様式:第一話)

能楽堂は八分の入りであった。津留江利子の座っている位置は腋正面のうしろ寄り、ちょうど二ノ松に平行するあたりだった。●蔵書【松本清張全集9】(黒の様式)文藝春秋社●「週刊朝日」1967年(昭和42年)1月6日号〜2月24日号
〔週刊朝日〕
1967年(昭和42年)1月6日号〜2月24日号


能楽堂は八分の入りであった。津留江利子の座っている位置は腋正面のうしろ寄り、ちょうど二ノ松に平行するあたりだった。それで、彼女の視角からいって正面席の観客の顔は斜め向きに自然と眼にはいっていた。江利子は、先ほど、その正面観覧席の中央あたりに旗島信雄の顔があるのに気づいてから落ちつかなくなっていた。以来、なるべく客席の方は見ないようにした。舞台では今日彼女が目当てで来ている人間国宝の老能楽師の「班女」が進行していた。この一番を観たら、次の休憩で旗島には知られないように出て行くつもりだった。後二番残っているが、家のことがきにかかるより、旗島に見つけられるのがいやだった。旗島は前から顔の幅の広い男だったが、今はすっかり肥えて、その顔が余計にふくれていた。髪も前のほうからうすくなってほとんど禿げている。いつぞやテレビで見たときの顔よりもまだ老けていた。両脇に外人夫婦をおいて、しきりと首を左右に回しては能のことを説明していた。五十歳ちょうどのはずだった。死んだ姉の年齢をおぼえているから間違いようはなかった。


能が解らない。その方面の知識が全くない。
清張の作品には時々登場しているように思う。書き出しで拾ってみると、以下の作品があった。

絢爛たる流離 第二話 小町鼓(能の師匠)
黒の様式 第一話 歯止め(能楽堂)
砂の審廷 小説東京裁判(観世能楽堂)
破談異変(能役者)

以上が「能」でヒットした作品であるが、「能」が名前だったり、地名だったり又、「機能」「能力」等では相当の数があった。

さて、『歯止め』では、
津留江利子旗島信雄・人間国宝の老能楽師・死んだ姉・両脇に外人夫婦・死んだ姉
書き出しだけでこれだけの人物が登場する。

■人間国宝の能楽師とは、
人間国宝とはどんな制度?
文化庁の制定する制度で重要無形文化財保持者を「人間国宝」と呼んでいます。
「人間国宝」のことばから、人物そのものが「国宝」であるかのような印象を受けますが
実は人物そのものではなく、「芸」や「技」対する認定です。
すぐれた「芸」や「技」をのちの世代に伝えていく価値が認められ、その芸や技を保持している人を「重要無形文化財保持者」として認定する制度です。
「人間国宝」はあくまで芸や技を保持することに対する認定で
人に対する認定ではないといっても身につけた芸と体、心は一心同体みたいなもんで切り離すことはできひんと思います。
人間関係の能楽師で有名なのは?野村萬斎さん父、野村万作氏!

班女(はんじょ):能の演目
あらすじ
 美濃国野上の宿の遊女花子は、吉田少将となれそめて以来、互いに取り交わした扇を眺めるばかりなので、宿の長から追放を言い渡されてしまいます。
一方、再び宿を訪れた少将は、花子の不在を知ると都へ戻り、加茂社で班女と呼ばれる狂女と出会います。
班女は恋慕の舞を舞い、扇を胸に身の上を嘆くのでした。扇を目にした少将は班女を花子と気付き、二人は再会を喜び合います。

津留江利子旗島信雄の関係で話は進んでいくのであろう。そして、死んだ姉とは、津留江利子の姉なのだろう。