紹介作品No 109
【年下の男】 〔【小説新潮】1967年(昭和42年)6月号〕
大石加津子は、ある新聞社の電話交換手。独身。
>べつにそれほど器量が悪いというのでもなかった。難を言えば髪と眉毛が薄いことと背が少し低い程度で、十人並みの容貌だった。
小金を貯めて結婚を諦めかけたとき彼女は三十五歳になっていた。老後のためかアパートを経営していた。
「電話」が、キーワードとして登場する作品は数点ある。中でも『声』はそのものズバリ、『交換手』が主人公で、『詩と電話』も、該当すると思う。
その意味でも今作品(年下の男)と『声』と『詩と電話』は、三大作品と言ってよいだろう。
大石加津子に突然恋愛話が降って湧いた。
それは、星村健治 23歳によってもたらされた。
男は、白い丸顔の男、剽軽者の男。彼は、交換台の保全係で男禁制の交換台に出入りしていた。
アパート経営をしていた加津子の空いていた物置部屋が、星村健治の住まいとなる。
加津子は女独りの所帯が物騒だからと理由を付けて、健治を住まわせる。
いつからか物置部屋の三畳の間に住む健治を加津子は、結婚相手と意識する。
歳が違いすぎる。三十五歳の加津子は、年齢より老けてみえた。
>髪はますます薄くなり、眉毛はその描き眉を除ると、まるで江戸時代の女房みたいに剃ったようであった。
>それに近ごろは、中年肥りで身体も大きくなり、それだけ交換台の女ボスとして貫禄をつけていた。
それでも結婚には、加津子なりの理由があった
加津子が二人の中を後輩の同僚に相談した。それは、結婚を決意した後の形式にすぎなかっつた。
相談とはとかくそういうものだ
加津子と健治の結婚
二人の結婚に忠告をする者がいた。
「その時は仕方ないわ。彼には好きなことをさせるつもりよ。わたし、それほど分からない女じゃないわ」
その懸念は意外にも早くきた。
健治に女ができる
交換台の加津子は、電話を簡単に盗聴できた。
その事は健治にも話さなかった。
健治は、交換台が盗聴することまで知らなかった。
加津子は、自分の手で女の電話を健治につないだ。
健治と女の中は、加津子に筒抜けだった
加津子のプライドは、女の存在が明らかになっても決して変わることはなかった。
加津子は女々しくなかった。それ故、破滅へと進んでいくことになる。
加津子は何とかして自分の誇りと体面を傷つけらずに、健治の死亡時期を早めることを考える。
殺人が計画される。
高尾山にピクニックへ誘う。場所を選んでの墜死計画。
小さなトリックがある殺人計画だが、結果として簡単に見破られる。
ここで、ネタバレを戒めて。箇条書きにする。
高尾山へのピクニック
小型カメラで記念写真
加津子は、最後のピクニックで撮影したカメラの処分に困る。
そこには、墜落死した星村健治が写っているからだ。
東京駅の待合室に、見知らぬ顔で置く
常習の置き引き犯が取得する。が、別件で逮捕される
カメラは捜査対象になり、製造元、販売小売店が追及される。
カメラ店に立ち寄る、器用な女
ヨウザワメクラチビゴミムシは、高尾山にしかいない昆虫
>偶然にもその刑事は、高尾山のアベックの男が墜死したことを新聞で読んでいた。
2020年12月21日 記
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登場人物
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大石 加津子 |
ある新聞社の電話交換手。三十五歳。十人並みの器量だが、髪と眉が薄かった。背が低い。職場の女ボス。年下の男が出来る(星村)。 |
星村 健治 |
白い丸顔の男、剽軽者の男。交換台の保全係で男禁制の交換台に出入りしていた。背が高い(当時として、175センチ) |
刑事 |
常習の置き引き犯が取得したカメラの行方を追及する。偶然にもその刑事は、高尾山のアベックの男が墜死したことを新聞で読んでいた。 |
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