〔(株)文藝春秋=全集9(1972/08/20)【ミステリーの系譜】で第二話として発表〕
題名 | ミステリーの系譜 第三話 肉鍋を食う女 | |
読み | ミステリーノケイフ ダイ03ワ ニクナベヲクウオンナ | |
原題/改題/副題/備考 | ●シリーズ名=ミステリーの系譜 ●全5話 1.闇に駆ける猟銃 2.脱獄 3.肉鍋を食う女 4.二人の真犯人 5.夏夜の連続殺人事件 |
●全集(3話) 1.闇に駆ける猟銃 2.肉鍋を食う女 3.二人の真犯人 |
本の題名 | 松本清張全集 7 別冊黒い画集・ミステリーの系譜■【蔵書No0079】 | |
出版社 | 文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1972/08/20●初版 | |
価格 | 880 | |
発表雑誌/発表場所 | 「週刊読売」 | |
作品発表 年月日 | 1967年(昭和42年)11月24日号〜12月15日号 | |
コードNo | 19671124-19671215 | |
書き出し | 数年前の秋の初め、私は信州佐久から群馬県の富岡に車で抜けたことがある。普通は中仙道を通って軽井沢を経て、松井田から高崎のほうに抜けるのだが、この道は何度も通っているので、そのときは道の悪いのを覚悟で初めてのコースを行ったのである。中仙道からずっと南にはなれ、いわゆる上毛奥地の山岳地帯の間を走る。一応、国道だが、もちろん整備されていない。車は羊腸とした路をたどり、いくつもの高い峠を上ったり下りたりする。だが、はじめての土地を見るという好奇心に、少々の難路はそれほど苦痛ではなかった。すでに薄の穂が出揃っていて、落葉樹は黄ばんでいた。この辺はよそよりも秋のくるのが早いのである。浅間山を北の基点とすれば、南に直線的に八風山、寄石山、物見山、熊倉山、兜岩山、などという千三百メートル台の山が置かれている。佐久からの路は、この熊倉山の東側を大きく迂回し、内山峠というのを経て、さらにジグザクの谷間を大きく曲って行くのである。 | |
あらすじ&感想 | 実録怪談話! 小説のジャンルとして「ホラー小説」にでも入れるのがよいのか? 時代背景を考えさせられる。 小説は私の話で始まる。 信州佐久から群馬県の富岡に車で抜ける道すがら運転手との話が続く。 話は牛肉とこんにゃくと近親婚。 その後、下仁田出身のハイヤーの運転手を知る。 ハイヤーの運転手は鈴木と言って40くらいのよく肥えた赭ら顔の男だった。 肉鍋の材料が揃った事になる。 牛肉、こんにゃく、下仁田ネギ。 戦争末期の食糧難時代、荒船山の奥地の話である。 ようやく話は本題に入る。 昭和20年8月5日下仁田署の管内にある尾沢村駐在所加部巡査の戸籍調べの話し。 場所は尾沢村星尾部落。天野朝吉、日雇人夫の男。低能で怠け者、子供が5人。女房が秋子33歳 秋子は連れ子をして朝吉のところへ来ている。トラという娘が居る。 >トラも精神薄弱な上に盗癖がある。年齢は十七だが、身体は大人のように大きかった。 加部巡査はトラのいないのに気が付く。 「トラさんの姿が見えんが、どこへ行ったかな?」 「トラは、七月に前橋の親戚の家に行ったが空襲で焼け死にました」秋子は答えた。 トラは朝吉の先妻が遺した子で、近所の話では継子に当たるトラを秋子が虐めていたという。 なんだか惨憺たる家族状況である。 追い打ちがある。 >朝吉は脳が弱い上に怠惰であった。妻の秋子も同じように精神薄弱で、仕事を怠ける >夫をはげますでもしかるでもなく、ぼんやりと継子のトラを入れて四人の子供の中に座っていた。 >彼女には内職をするだけの知能はもとより無かった。 救いようがない。 どうしてこのような家族が出来たのかである。説明がある。 >多分、無責任で節介好きな者の頭に「似た者夫婦」という考えがあって >両人をめあわせたのかもしれなかった。 事件のあとで精神鑑定をした医者が朝吉、秋子の系統にも精神薄弱の者が多く 血族結婚のためではないかと示唆している。 まだ事件は起きていない。 親切な加部巡査は死亡届も出されていないトラを心配して天野朝吉夫婦に事情を聞く事にする。 近所の話と、秋子の話した8月に前橋で空襲で焼死した話と食い違う 秋子を交番に呼んで問いつめると実は病気で死んだ、死体は庭先に埋めたという。 加部巡査は下仁田署の岡田警部に電話で知らせる。 岡田警部の指示で天野夫婦は下仁田署に連行される。 秋子を調べる岡田警部補。岡田警部補も、傍らにいた荒井刑事も秋子がトラを殺した疑いを持つ。 荒井刑事は >「おい、秋子」 >と、いきなり怒鳴った。 >「おまえ嘘をついているな。トラはどうして殺したんっだ!」 >脳の弱い秋子の顔色が変わった。彼女は俯向いていたので、さらに刑事は声を張り上げ、たたみかけて >訊問した。秋子は困り果てた顔をしていたが、 「食っちゃった」 と答えた。 調べは続く。 「食っちゃったって、何を食ったんだ?」 「トラを食っちゃった」 −−−−−−−−−−−− 夕方になって朝吉が仕事から帰ってくる。 彼は逸早く肉の匂いを嗅ぎ、鍋を見た。 「何の肉だべ?」「うむ、山羊だ」 肉鍋に満足する子供たち、秋子に勧められるが口にしなかった朝吉。 −−−−−−−−−−−− 以後、「野口男三郎」「習俗の魔女」(ムルクワウシ)と話はつづくが、夏の夜の怪談話はこのくらいの 説明にしておく。 人肉を飢餓の状態で食う話は時々聞かされる。戦場での極限状態などで起こり得るのだろう。 ノンフィクション作家「千田夏光」の『死肉兵の告白』(同時代業書)を読んだ。 人肉を食わなければならなかった時代とは? 8月15日終戦記念日を考えてしまう。再びあの時代を許してはならない! 2010年8月15日 記 |
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作品分類 | 小説(短編/シリーズ) | 22P×1000=22000 |
検索キーワード | 血族結婚・近親婚・精神薄弱・牛肉・こんにゃく・ネギ・似た者夫婦・荒船山・下仁田・人肉・トラ |