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松本清張_投影

No_580

題名 投影
読み トウエイ
原題/改題/副題/備考  
本の題名 危険な斜面【蔵書No0203】
出版社 (株)光文社
本のサイズ 新書(KAPPANOVELS)
初版&購入版.年月日 1973/07/20●初版
価格 270/古本830=(490+送料340)
発表雑誌/発表場所 「講談倶楽部」
作品発表 年月日 1957年(昭和32年)7月号
コードNo 19570200-00000000
書き出し 太市は東京から都落ちした。今まで勤めていた新聞社を、部長と喧嘩して辞めてしまったのだ。ほかの新聞社
に行くのも気がさして、辞めてしまったら、新聞記者ぐらい潰しのきかないものはない、とはじめてわかった。
もう東京にいるのも嫌であった。
「おれ、田舎に行くよ。」
と言ったら、頼子は、そう、と言って反対もしなかった。社からもらった退職金のある間に、瀬戸内海のSという
都市に移ってきた。別に知人があるわけではない。地図を見たら、海の傍で、好きな釣りができるし、なんとなく住みよさそうだったからだ。しかし、退職金も少なくなると、頼子は心細がってきた。
「ねえ、どうするの?」
と頼子は言うが、こういう土地に来た一種の虚脱感があって、見えすいた生活の行き詰まりも切実にせまってこない。うん、うんと生返事しながら、釣道具をかついで出ていった。
あらすじ感想 都落ちした太市
東京の新聞社を部長と喧嘩をして辞める。
「おれ、田舎に行くよ」の一言で、身より頼りのない瀬戸内海のS市へやってくる。
妻の頼子も「そう」と言って着いていく。
しかし、持ち金が無くなると「ねえ、どうするの?」と心細くなる。
切羽詰まると女の方が逞しい。キャバレーの働き口を見つけてくる。頼子の前職でもある。
「ねえ、ごめんなさいね」と言う頼子に「いよいよ、おれもヒモで暮らせるか。」と苦笑で答える太市
太市も本気で仕事を探す。地方紙の求人案内で「有能記者招聘、望気骨有奮闘者。陽道新報社」
面接に向かう太市だが、想像以上の建物。
小ざっぱりした割烹着姿の中年女が出て来る。社長の細君らしい。
二階で床に臥せっている社長に会う。
「痩せて眼の大きい、顴骨の尖った五十年輩とげとげしい感じの男であった。」
陽道新報社長畑中嘉吉。畠中社長はタブロイド版の新聞を太市に渡す。
それは「報道と攻撃をごっちゃにした主観的な記事で埋まったいた。」自宅で寝転がって読みながら太市は不覚の涙を流す。
採用が決まって、「常に正義をもって市政悪と闘う」のスローガンに基づきながら力説する社長。
社長に湯浅新六を紹介される。(色がくろく、しなびたような顔)
新六は陽道新報社の先輩記者。太市と二人だけである。近づきの印に新六をおでん屋に誘う太市
新六は新六に対する社長の評価を知った上で「大将が大好きですよ」という。
さらに「...あの奥さんもええ。ねえ、田村さん大将をたのみますよ。」 新六は愛すべき人間である。
太市は、田村太市という。
社長も新六も太市の過去を聞こうとはしない。それが太市にとっては救いでもあり、太市も新六の過去を聞きもしない。
ここまで読み進んでも何も事件は起きない。
ふた月ばかり過ぎた頃に動き出す。
市役所廻りをする太市。
土木課には南課長と三人の係長がいる。南課長の前で怒鳴る男。男は石井円吉、市会議員であることを新六から聞かされる。
石井の後を追うように席を外した係長が山下と言う。これも新六の話し。
市長派と助役派に別れる役所で山下は助役派である。
頼子を勤めるキャバレー『銀座』に迎えに行く前に、おでん屋で安酒をなめている太市は土木課の課長、南を見つける。
南は帰り際に一言「僕はね、仕事は信念でしているのだよ。」
以後市政に絡む事件に繋がる。
行方不明になった、南課長が死体で発見される。
新六と太市に、畠中社長は眼を尖らせて「絶対に、他殺じゃ。」
事件は石井の手先である山下係長が港湾課の課長になり補助金目当ての計画が着々と進む。
南課長の死因を調べる太市に協力者も出る。陽道新報社の読者だ。
事件の謎解きは太市に任せてここでは省略します。
事件が片づいて、一ヵ月後、太市はもとの新聞社の先輩の世話で、民間の放送会社に就職が決まり東京に戻ることになった。
駅のホームで畠中社長の妻と新六に見送られる太市と頼子。
 「...僕はこの土地に来て、社長によってはじめて新聞記者の正道というものに眼をあけてもらった思い
 です。このご恩は一生忘れません。」
 「いや、田村君、それは本当だ。」
新六は言った。
 「社長のような人間がいたというだけでも、君はこの田舎町に来た意義があったというもんじゃ。
 東京に帰っても忘れんでくれ。」
 「忘れるもんか、一生。」
汽車が動き出した。


謎解きにはさほど興味は沸かなかったが、終わりが妙に爽やかで、清張作品としては趣の違ったものである。
時代物で「
左の腕」などに通じるものがあった。



●蛇足
「投影」に出て来る場面である。(208ページ/新六の言葉)
「こりゃあ、何かあるぜ。少しほじくって見ようか。...」

偶然ですが、「昭和史発掘」を再読し始めていた時でした。(昭和史発掘(1巻・全13巻)19ページ1行目)
「そうか、それは面白い。その辺をほじくってみようじゃないか」

なぜか眼に付いた。



2013年3月20日 記
作品分類 小説(短編) 69P×570=39330
検索キーワード 都落ち・地方紙・記者・瀬戸内海・社長・市政・市長派・助役派・土木課・港湾課・市議・課長・妻
登場人物
田村 太市 新聞記者。東京の大手新聞社を部長と喧嘩して退社。瀬戸内海のS市へ都落ち
田村 頼子 太市の妻。キャバレー「銀座」で働く。ダンサー。太市に黙って付いて行く。
畠中 嘉吉 陽道新報社社長。病に伏せっている。「常に正義をもって市政悪と闘う」50年輩の男。
畠中社長の妻 畠中嘉吉の妻。頼子同様、善くできた妻として描かれている。
湯浅 新六 陽道新報の記者。色がくろく、しなびたような顔。陽道新報社では太市の先輩になる
南土木課長 土木課長。正義感の強い人物(「僕は仕事は信念でしているのだよ」)。殺される。
山下係長 港湾課係長から港湾課長になる。市議会議員石井の腹心。
石井 円吉 市会議員。事件の主役。赤線地域をバックにしたボス。

投影




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