題名 | 張込み | |
読み | ハリコミ | |
原題/改題/副題/備考 | ||
本の題名 | 松本清張全集 35 或る「小倉日記」伝・短編1■【蔵書No0106】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1972/2/20●初版 | |
価格 | 880 | |
発表雑誌/発表場所 | 「小説新潮」 | |
作品発表 年月日 | 1955年(昭和30年)12月号 | |
コードNo | 19551200-00000000 | |
書き出し | 柚木刑事と下岡刑事とは、横浜から下りに乗った。東京駅から乗車しなかったのは、万一、顔見知りの新聞社の者の眼につくと拙いからであった。列車は横浜を二十一時三十分に出る。二人は一旦自宅に帰り、それぞれ身支度をして、国電京浜線で横浜駅に出て落ち合った。汽車に乗り込んでみると、諦めていた通り、三等車には座席が無く、しかもかなりの混みようである。二人は通路に新聞紙を敷いて尻を下ろして一夜を明かしたが眠れるものではなかった。京都で下岡がやっと座席にありつき、大阪で柚木が腰をかけることが出来た。夜が明け放れて太陽が上り、秋の陽ざしが窓硝子ごしに座席をあたためた。柚木と下岡は、欲もトクもなく眠りこけた。柚木は、岡山や尾道の駅名を夢うつつのうちに聞いたように思ったが、はっきり眼がさめたのは、広島あたりからだった。海の上には日光が弱まり赫くなっていた。 | |
あらすじ&感想 | 清張代表作の一つである。 半世紀以上前の作品である。 東京の目黒で強盗殺人事件。共犯の山田が職務質問で捕まり、共犯の石井久一が追われる。 自殺願望の犯人が昔の女に会いに行くのではないかと考える。 二人の刑事「柚木・下岡」が犯人を追って、山口、九州へ向かう。 山口の小郡、で下岡が降りる。小郡は犯人の石井の故郷である。 柚木は、九州S市へ、石井の昔の女の嫁ぎ先である。 二人の「旅」は、時代を感じさせる。 女の家の斜め向かいの旅館「肥前屋」で張込む柚木。 石井は、女のところに現れる。 集金人か物売りらしい、洋服の男。30前後の男。それが、石井久一だった。 いそいそ出かける、横川さだ子。二人の逢瀬は、石井逮捕で終わる。 さて この作品は語り尽くされている感がある。ど素人の私が特別な感想を持っているわけではないが 重箱の隅をつつくような疑問をひとつ二つ.... その壱、強盗殺人犯の男が昔の女を訪ねて行くが、女は男の現在の状況を知っているのか? その弐、女は男に会い駅前まで行き、バスで温泉地に二人づれで赴く、女の行動は覚悟の上か? 三年前に分かれた男と行動を共にするにしては、「軽率」な感じである。 平凡な生活、「吝嗇」な夫との生活に飽き飽きしていたのか... この小説は、張込みの刑事「柚木」の眼を通して語られている。女の言葉は一言も書かれていない。 柚木は、張込みの中で、日常のさだ子を見つめる。 人間柚木の思いは、石井を逮捕後、人知れず女を家庭に戻してやる。 >「石井君は、いま警察まできてもらうことになりました。奥さんはすぐにバスでお宅にお帰りなさい。 >今からだとご主人の帰宅に間に合いますよ」 柚木の結論は >この女は数時間の生命を燃やしたに過ぎなかった。今晩から、また、猫背の吝嗇な夫と三人の継子と >の生活の中に戻らなければならない。そして明日からは、そんな情熱がひそんでいようとは思 >われない平凡な顔で、編物器械をいじっているに違いない。 であるが、 その後のさだ子は、柚木の予想通りの生活に戻るのだろうか? 蛇足、S市は佐賀市であろう。 2006年8月04日 記 |
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作品分類 | 小説(短編) | 13P×1000=13000 |
検索キーワード | 目黒・強盗殺人・刑事・小郡・S市・吝嗇・肥前屋・編物器械・温泉地・後妻・昔の女 |
登場人物 | |
柚木刑事 | 刑事。石井が立ち廻ると見られる、昔の女の嫁ぎ先「九州」へ向かう |
下岡刑事 | 刑事。石井の故郷山口「小郡」へ向かう |
石井 久一 | 強盗殺人犯。重役宅に押し入り、主人を殺す。山田と共犯。30前後。 |
山田 | 土建業者の飯場にいる土工。石井久一と共謀。殺したのは石井と供述 |
横川 さだ子 | 27,8歳。横川仙太郎の後妻。石井久一の昔の女 |
横川 仙太郎 | 48歳、吝嗇。さだ子の夫。 |