題名 | 黒い福音 | |
読み | クロイフクイン | |
原題/改題/副題/備考 | ||
本の題名 | 松本清張全集 13 黒い福音 アムステルダム運河殺人事件・セントアンドリュースの事件■【蔵書No0091】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1972/02/20●初版 | |
価格 | 880 | |
発表雑誌/発表場所 | 「週刊コウロン」 | |
作品発表 年月日 | 1959年(昭和34年)11月3日号〜1960年(昭和35年)6月7日号 | |
コードNo | 19591103-19600607 | |
書き出し | 東京の北郊を西に走る或る私鉄は二つの起点をもっている。この二つの線は、或る距離をおいて、ほぼ並行して、武蔵野を走っている。東京都の膨れ上がった人口は年々、郊外へ住宅を押し拡げてゆくから朝夕は乗客で混み合う。しかし、二つの線の中間地帯は、賑やかな街にもなりきれず、田園のままでもなく、中途半端な形態をとっている所が多い。この辺りになるとナラ、カエデ、クヌギ、カシなどの雑木林が到るところに残っている。旧い径は、その林の中に入っている。林の奥には農家の部落がひそんでいる。が、それについて行くと、部落の隣は、忽ち新しい住宅地に変わる。この辺は、古い武蔵野の田野と、新しい東京の部分とが、ちぐはぐに錯綜している地帯であった。夕方の景色は、田園調で美しい。広い畠と、その向こうに立っている林とが蒼褪めて黝み、端には白い夕靄がたつ。夕焼けの広大な雲を背景にして、教会の尖塔が黒い影絵になって見えるところなどは、その気持ちのないものでも、宗教的な詩心を起こす。 | |
あらすじ&感想 | 複雑な話しではない。 登場人物も善人悪人がはっきりしている。一人を除いて、救いようのない神父達 私腹を肥やしていないことが神に背く悪と考えなかった。懺悔の値打ちもないと言うことだ。 洗脳されているかのような信者達。 人物描写も丁寧でくどいほど書かれている。 実際の事件を小説として書くことにより真相に迫っているのであろうか? 問題は時代背景なのである。 善意によって集まってくる物資を横流しして儲ける奴ら。 それも「神」の名の下に悪事に手を染める教会、神父達。 それらを操る貿易商、大悪人、小悪人が「たかが女一人」の命を奪うことで逃げ延びる 後味の悪い結末は清張の真骨頂である。 二部構成である。 一部は生田世津子が殺されるまで。教会、神父の堕落が徹底的に描き出されている。 二部は捜査が教会へ、神父へせまる。 腐敗しきった教会内部の事情が江原ヤス子とルネ・ビリエ神父を通じて描かれる。 シャルル・トルベックの登場で堕落した神父達の行動が際だつ。 トルベックの女漁りは坂口、斉藤、生田と続く。 トルベックと生田世津子の関係は聖職者として神を裏切る行為としての恋愛関係だけには留まらない。 日本語が苦手なトルベックの「よろしい?」は神を裏切り魂を売る言葉なのか? 黒幕であるS・ランキャスター(貿易商)の『われわれは鳩がほしい!』の一言で トルベックと生田世津子の関係は殺人者と被害者の関係に発展する。 殺人者トルベックにせまる捜査陣や新聞社 教会の存亡を掛けて対抗するグリエルモ教会と神父達、そして、ランキャスター。 あらすじは省略する。登場人物を見てみよう。 ●江原ヤス子(ビリエ神父の愛人) 【ヤス子はグリエルモ教会の恩人とも言える、彼女は協会内でその地位を上げていく】 三十七、八歳くらいにみえた。 小肥りの体格で、薄い眉と、切れ長な一重瞼の眼と、肥えた鼻と、厚い唇とを 持っている。決して美人ではないが、醜い顔でもない。小肥りだから、 肉感的な方である。笑うと、けたたましい声を出す。 ヤス子の母は言った。 「この児は容貌(きりょう)が悪いよって、学問か、芸ごとなとさせて、身を立てるようにさせなぁあかん」 ●生田世津子(トルベック神父の恋人/恋人と呼ぶに相応しいのか?) 若い日本の女性。細い身体...美しい横顔...匂い立つ身体... ●シャルル・トルベック(神父:グリエルモ教会/生田世津子の恋人)〈ゴルジ神父の?〉 【詳しい記述はないが、ゴルジ神父との関係がほのめかされている】 【母国に貧しい家族が居る。父は大工:密入国の過去を持つ】 二十二、三歳の青年。 彼は亜麻色の髪と、碧色の眼をしていた。 彫りの深い男性的な顔をしている。 蒼い眼は穏やかに澄んでいた。髪は、外国映画俳優のように格好よく縮れていた。 ●ルネ・ビリエ(神父:グリエルモ教会/江原ヤス子と愛人関係) 彼は痩せていて、長身で、赭ら顔していた。 頭が禿げていて、耳のうしろから後頭部にかけて朽ち葉色の髪が長く残っている。 西洋人の年齢は、日本人には見当が付かないが、五十二、三歳くらいではないかと 思われる。 ビリエ神父はかなりの学識を持っていた。 聖書や詩を翻訳するくらい教養があったし、日本のむずかしい 哲学書を読みこなすと云い触らして信じさせるほど学問がありそうであった。 ●フェルディナン・マルタン(神父:パジリオ会の管区長) 肥えた五十六歳の赭ら顔の権威者であった。 ●アルフォンソ・ゴルジ(神父/渋谷の教会:赤い顎髭) ●パオロ・マルコーニ(神父/会計係:小肥り、血色がいい) ●ミシェル・アミエ(神父/経営する学園...) ●アルベルト・ピサーノ(神父/印刷工場) ●エンリコ・ブラマンテ(神父) ●ジョセフ(神父) 【教会内の良心的存在/朝鮮に左遷される】 顔色の悪い。病み上がりのように疲れた顔をした... ●S・ランキャスター(貿易商) 【トルベックのイトコとして登場、生田世津子にも牙をむく】 【トルベックに、生田世津子の殺害を命令する。最悪の登場人物?】 三十五、六とも見えた。 貿易商らしく機敏な動作だったが、瞳(め)が絶えず動いていた。 例えば、話しをしていても、何かの音を聴くと、電光のようにそれへ走った。 トルベックより老けていて、もっとがっしりした大きな体格だった。 ●岡村正一 【砂糖の横流しを警察に密告、なぜか最後には教会に深く関わる】 ずんぐりした男は、三十五、六歳くらいの赭ら顔だったが 、眉の間に深い皺を作り、むずかしい顔をしている。 サツに密告 後に 旭産業の社長、工場は江東区 主として軽金属をやっていた。? 「岡村という男はね、バジリオ会の信者なんだ。以前にM署で、あの教会の闇砂糖が 引っ掛かったことがある。その時の問屋が岡村だ」 「...表向きは小さな工場を経営していることになっているが、実は、教会と 結託して麻薬を主に扱っているよ。現在では、もう、ちょっとしたボスだよ」 ●田島喜太郎 痩せて背の高い日本人 田島という若い男は不満そうに口を閉じた。 ●住吉 教会の雇われ人。薄給のはずが、贅沢な生活。 三十四、五歳くらいの、額の広い、痩せた男。 ●江藤一郎 ●山口房夫 ●大学生 江原ヤス子の隣に住む ●坂口良子(二十二、三歳) ●齊藤幸子 ずんぐりとして背が低い。細い眼をし、低い鼻と厚い唇を持っていた。 ●中村夫人(高官夫人) 【夫婦で、グリエルモ教会の信者、教会の裏工作に手を貸す】 色が白く、鶴のように痩せて典雅である。 夫人は、日本における司法行政の最高地位に近い官吏を夫に持っていた。 ●タカヤマ夫人 ●藤沢六郎(部長刑事) すでに頭の薄い四十過ぎの男。四十二歳である。捜査一課(殺人)の刑事 この仕事に携わってすでに二十年だった。 かれはこれまで、数々の事件に殊勲を立てていた。 頭髪の前が少し薄い、頬骨の尖った。目つきの鋭い刑事... 赭ら顔で、鼻梁が高い。落ち窪んだ眼窩に眼が鋭かった。 頬がこけているが、この精悍な顔つきが被疑者にどれだけ畏怖を与えるか分からなかった。 ●市村(刑事) まだ若かった。独身で三十歳だった。地元の久良署に所属 ●久恒忠次朗(刑事) ●住吉刑事 ●井出刑事課長 ●小林巡査部長 ●斉藤秀夫警部 追記 |
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作品分類 | 小説(長編) | 318P×1000=318000 |
検索キーワード | 砂糖・麻薬・教会・貿易商・神父・高官・スチュワーデス・松茸の缶詰・速達・電報・出国・ロクサン・鳩 |
登場人物 | |
トルベック | シャルル・トルベック。二十二、三歳の青年。亜麻色の髪と、碧色の眼をしていた。神父 |
生田 世津子 | 若い日本の女性。細い身体。トルベックの恋人?。スチュワーデス |
ランキャスター | S・ランキャスター。貿易商。教会と結託する闇の世界のフイックサー。三十五、六歳 |
江原 ヤス子 | 三十七、八歳。小肥りの体格、薄い眉、切れ長な一重瞼の眼、肥えた鼻と、厚い唇。 |
ルネ・ビリエ | 痩せていて、長身で、赭ら顔。頭が禿げていてる。五十二、三歳。日本語が堪能。神父 |
マルタン | フェルディナン・マルタン。管区長。肥えた五十六歳の赭ら顔の権威者。 |
ゴルジ | アルフォンソ・ゴルジ。渋谷教会の神父。 |
ジョセフ | 神父。顔色の悪い。病み上がりのように...グリエルモ教会の良心。左遷される。 |
中村夫人 | 高官夫人。色が白く、鶴のように痩せて典雅である。官吏を夫に持っていた。信者 |
岡村 正一 | ずんぐりした男、三十五、六歳くらいの赭ら顔。密告、逃亡後、社長として復活。 |
藤沢 六郎 | 部長刑事。頭の薄い四十過ぎの男(四十二歳)捜査一課(殺人)の刑事。ロクサン |
佐野 | S新聞社の記者。 |