紹介作品 No_044  【左の腕】


紹介No 044

【左の腕】 〔オール讀物〕 1958年6月号

深川西念寺横の料理屋松葉屋に、この一月ほど前から新しい女中が入った。...◎蔵書◎松本清張全集24 無宿人別帳・彩色江戸切絵図/紅刷り江戸噂(株)文藝春秋●1972/10/20/初版より

清張作品初期の時代物である。
短編物で面白い作品が多い。前進座で舞台化され評判を呼んでいる。(松本清張傑作世話狂言)

銀次の紹介で深川西念寺横の料理屋松葉屋に奉公することになる卯助親娘
働き者の娘、おあき。無口だがこれまた働き者の卯助。

卯助の左の腕に白い布が巻かれている。火傷の後を隠していると言うが、誰にも見せない。

稲荷の麻吉という岡っ引きが松葉屋で働く卯助に目を留める。

この麻吉は、銀次に言わせると狐野郎なのである。
陰では威勢の良い銀次も、麻吉の前ではからきし意気地無しである。
銀次同様、麻吉もおあきに目を付けている。

麻吉は卯助の過去を知っているようだ。卯助の左腕の秘密である。
それは卯助も麻吉の過去を知っていることでもある。

松葉屋に押し込みが入る。銀次の知らせで松葉屋に駆けつける卯助。
卯助と押し入りの盗賊との大立ち回り。盗賊の一人が声を上げる。
「おれだ、おれだ。上州の熊五郎だ」

卯助はじっと見ていたが、
「うむ。違えねえ。おめえは熊だ、珍しいところで会ったの?」
「面目ねえ」と熊五郎は頭を掻いた。

芝居の為に書かれた小説のようだ。
押し入りの熊五郎、その場の隅に縮こまっている麻吉。
麻吉に目をやりながら話を続ける卯助。
麻吉と卯助の立場は逆転している。大向こうから卯助に声を掛けたくなる。



人生訓か?
人間、古傷でも大威張りで見せて歩くことだね。そうしなけりゃ、己が己に負けるのだ。

「−−−−子供はいい。子供は飴の細工だけを一心に見ているからな」
このせりふは最初に銀次が、飴売りから松葉屋に奉公させるため卯助を説得する部分に重なる。

●辞書
蜈蚣の卯助(ムカデノウスケ)

2010年1月5日 記

登場人物

卯助 左の腕に四角い桝形の入墨がある。入墨から長門者だと言われる。蜈蚣の卯助
おあき 卯助の娘。おっかさんは十ぐらいに死んだ。働き者で器量よし。
銀次 卯助親娘を松葉屋に世話をする。おあきに惚れている。お人好しの意気地無し
麻吉 稲荷の麻吉。銀次からは狐野郎と言われる。十手持ちの小悪党。
熊五郎 上州の熊五郎。押し入り。卯助の昔仲間で卯助を「大そうなお人だ」という。

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