題名 | 日光中宮祠事件 | |
読み | ニッコウチュウグウシジケン | |
原題/改題/副題/備考 | 【重複】〔(株)光文社=黒地の絵 カッパ・ノベルス(1962/05/15)〕 | |
本の題名 | 松本清張全集 37 装飾評伝・短編3■【蔵書No0136】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1973/2/20●初版 | |
価格 | 1200 | |
発表雑誌/発表場所 | 「別冊週刊朝日」 | |
作品発表 年月日 | 1958年(昭和33年)4月 | |
コードNo | 19580400-00000000 | |
書き出し | この事件の小さい紹介は、警察図書の出版社から発行している雑誌「捜査研究」に掲載されている。私はこれを読んだとき興味をもった。いったい、この雑誌は月々一項はかならずこうした捜査ケースを載せているが、なかにはつまらないものがあるけれど、この事件だけはおもしろかった。筆者は東京近県の県警察本部刑事部長のK氏である。去年の晩秋、私はたまたま紹介する人があって当のK氏に会った。東京から電車で一時間とかからないでその県にはいるが、土地の古い料亭で、川魚料理をいっしょに食べながら話は聞いた。料亭の裏は釣堀になっていて、すでに寒そうな池の水にはいわし雲が映っている。掘をのぞきこんだ柿の枝には赤い実がついている。向こうの枯れた平野には家がまばらで、時おり、電車の音が聞こえてくるといった環境であった。 | |
あらすじ&感想 | ※画像は、2017年8月号 小説「日光中宮祠事件」は、『捜査研究』71号(1957年 10月号)に掲載されている記事が元になっている。 【記事】 欧洲を旅行して思い出した日本のこと / 中川董治/p2~4 ・ オトリ捜査の方法とその合法性の限界(完) / 南波杢三郎/p5~16 ・ 「北海道」の刑事官制度について / 黒川幸雄/p17~24 ・ 不可抗力について(その三) / 安西温/p25~31 ・ 事件の解剖 一家心中として処理した強殺放火事件の捜査 / 神山武則/p32~50 ・ 現場は誰に! / 岡田鎮/p51~53 ・ 弾丸発射後の銃身に見られる化学的変化の一考察 / 岩井三郎/p54~58 ・ 氏名の黙秘権の有無と氏名黙秘の弁護人選人届の効力(49)判例と捜査 / 高橋正八/p59~64 ・ 実力養成S・A式テスト/p65~71 >私はこれを読んだとき興味をもった。 場所は、日光中宮司 題名は、【日光中宮司事件】。 【小説三億円事件】や【小説帝銀事件】とは違って、「小説」と、銘打っていない。 実際の事件をモデルに、小説に仕立てている。いわば【或る「小倉日記」伝」】のような筋立てなのだろうか? 書き出しで >この事件の小さい紹介は、警察図書の出版社から発行している雑誌「捜査研究」に掲載されている。 >私はこれを読んだとき興味をもった。 と、具体的に実在の題材を書いている。これに似た小説は他にもあるような気がする。 「捜査研究」の記事は、東京近県の県警本部刑事部長K氏だった。 作者(清張氏としてよいだろう)は、人を介してK氏に会った。 K氏とは... 【捜査研究】71号(1957年 10月号)に ●事件の解剖 一家心中として処理した強殺放火事件の捜査 / 神山武則 と、ある。 K氏はもう一人同道していた男がいた。捜査を直接担当した吉田(警部)という男だった。 >「この男が実際にあたったのです。おい、吉田君、君から話せよ」 大筋は 一家心中として処理した強盗殺人殺放火事件が再捜査で真犯人にたどり着く。 なぜ再捜査をしたのかは、一家心中の首謀者とされた芦尾源市という男の義弟である隆円寺の住職、 加島竜玄の訴えからである。義兄である芦尾源市は旅館を営んでいたが、加島竜玄は、芦尾源市がどうしても家族を 殺して放火をするような男ではないと考えていた。それは身びいきからの訴えとも思えなかった。 「一家心中として処理した」日光警察署の調べ方ははじめから一家心中と決定したかのような捜査だった。 その経緯は、別件で捜査していた「新井志郎事件(殺人放火事件)」で久喜警察に県警察本部が置かれ、捜査一課長のK氏を 加島竜玄が訪ねた。日光中宮司事件から十年が経過していた。 新聞記事から「新井志郎事件(殺人放火事件)」の犯行内容が日光に事件の手口に似ているというのだ。 小説は、吉田警部の話が真犯人にたどり着くまでの詳しい語りとなっているが、主要な問題ではないと考える。 問題は ①警察のずさんな捜査。日光署の思い込みとも言える結論ありきの捜査。 ②ほぼ死刑が確定と思える「新井志郎」のでたらめの自白。長い拘留から来る刺激を求める心理。 (吉田警部=「それに、ほかの強盗殺人が三件もあるのですから、死刑を覚悟しているので、そんな悪戯を言ったのです。極刑犯人にはそんな心理があって、よくわれわれはだまされるのです。」) ①については、 「...うっかりといえば、事件発生時の所轄署の署長は、つまらない面子にこだわったものですね。田舎の警察では今でもこんなことが往々にあるのですか?」との、私の問いに 「残念ながら、今ではまったく他に例がなかったわけではありません。しかし、科学捜査の進歩した現在、これからは、もうそんなことはないでしょう。」と答えた。事件は昭和二十一年五月四日午前三時半ごろのこと。 事件の真犯人は、泊まり客で、金城こと朴烈根(ボクレツコン)と高山こと崔基菜(サイキサイ)という二人の朝鮮人だった。 最後の数行を書き出してみる。 「捜査開始後一年目に解決したのですからね。これも死んだ被害者の仏が手引きしたのだと、われわれは苦労を忘れて 喜びあったものです。」 吉田警部は言うと、綴りを閉じた。長い話を聞いているうちに、裏の池の表は薄暮の雲を映し、この料亭にも灯がはいった。 風も出てきたようである。私はあわてて立ち上がった。 「がんばった者はもう一人いる。」 と、私は帰りみちに、風に吹かれながら思った。 「あの坊さんだ!」 作者がはじめに、岡本綺堂の『半七捕物帳』の愛読者であり、その絶妙の語りを褒めちぎっているが、 その終わり方は、岡本綺堂を彷彿とさせるのか岡本綺堂を読んでいない私には分からない。 余談になるが 犯人にたどり着く手がかりに「写真」が小道具として登場する。 偶然だが最近「罪の声」(塩田武士著)を読んでいて、同じような場面に遭遇した。 「罪の声」は「グリコ・森永事件」がベースの作品である。作者の塩田武士氏は、松本清張氏を尊敬されているようだ。 2017年8月21日 記 |
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作品分類 | 小説(短編) | 29P×1000=29000 |
検索キーワード | 思い込み捜査・自白・朝鮮人・無理心中・住職・岡本綺堂・芦尾屋・旅館・放火・日光・中禅寺湖・写真 |
登場人物 | |
K氏 | 四十五六歳くらい。頰の肥えたあから顔。「捜査研究」の記事の筆者。刑事部長。 |
私 | 筆者。清張本人か? |
吉田警部 | K氏の部下。日光中宮司事件の捜査担当。事件の詳細を私(筆者)に話す。三十五六の背が高くやせた男。 |
芦尾 源市 | 芦尾屋の主人。無理心中放火事件の犯人とされる。 |
加島 竜玄 | 芦尾源市は義兄。隆円寺の住職。義兄の無実を信じて再捜査を請願する。自らも事件を調べる |
新井 志郎 | 強盗殺人事件三件。日光中宮司事の殺人放火事件を自白する。が、でたらめの自白。 |
金城(朴烈根) | ボクレツコン。日光中宮司事件の真犯人。崔基菜と共犯 |
高山(崔基菜) | サイキサイ 。日光中宮司事件の真犯人。朴烈根と共犯 |