(別題=詐者の舟板)
題名 | カルネアデスの舟板 | |
読み | カルネアデスノフナイタ | |
原題/改題/副題/備考 | (別題=詐者の舟板) | |
本の題名 | 松本清張全集 36 地方紙を買う女・短編2■【蔵書No0086】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1973/2/20●初版 | |
価格 | 880 | |
発表雑誌/発表場所 | 「文學界」 | |
作品発表 年月日 | 1957年(昭和32年)8月号 | |
コードNo | 19570800-00000000 | |
書き出し | 昭和二十三年の早春のことである。××大学教授玖村武次は、中国地方の或る都市に講演旅行に行った。玖村は歴史科の教授である。彼をよんだのは、土地に教職員組合であったが、ひどく盛会で、会場に当てられたその大学の講堂は満員になった。聴衆の大部分はその地方の学校の若い教師たちで、遠いところから汽車で駆けつけてきた者も多かった。型の如く講演のあとには座談会がある。それも甚だ賑やかで、活溌な質問がいつまでもつづいた。玖村が解放されて宿に帰って寝たのは遅い夜更けであった。彼は宿の者に、朝七時に起こすことを命じた。朝ゆっくり寝る慣習の彼には珍しいことであったが、それは目的があったからである。玖村は、この講演を依頼された時から、大鶴恵之輔を訪ねることを思いついていた。大鶴恵之輔は玖村の恩師で、同じ××大学の前の教授であった。 | |
あらすじ&感想 | 大学教授の玖村は、講演旅行のついでに玖村の恩師である大鶴恵之輔を訪ねる。 恩師の大鶴は、戦時中、国家的な歴史論を講じたり、著述して、追放の身であった。 その大鶴を訪ねた動機は、 >「先生、僕の最近云っていることは、どうも先生の学問から離れたようで、 >大へん心苦しく思っているのですが」 >玖村は、仕方なく、先に廻って遠くから謝った。 >彼は今まで手紙の上でも謝罪する折りを失っていたので、それがかねて心の負担になっていた。 >大鶴恵之輔を訪ねてきたのも、彼の前にその言葉を吐いて、滓を掻き出したい目的もあった。 としている。ただ、>滓を掻き出したい目的もあった。 の、「も」が問題である。結局、玖村の今の存在を見せつける、自己顕示欲か? 再会は、大鶴から大学復帰を頼まれ、玖村の自負が満たされる。 >「ねえ、君、僕だっていつまでも自分の学説に縛られて居やしないさ。やはり時代に合わさなきゃね。 >これから新しい方向に勉強するよ」と玖村に媚びるように云った。 大鶴の復活を予想させる。 玖村の努力もあって大鶴が大学に復帰する。 現在の玖村を支えているのが、教科書の執筆者に名を連ねていることであり、参考書の出版である。 教科書出版社からの収入で田園調布に家を持ち、隠し女を持つことが出来るのである。 玖村が自分の隠れた遊び場、料理屋「柳月」へ大鶴を案内する。これも玖村の「愉しみな陰謀」であった。 料理屋「柳月」の女中須美子に、大鶴は好意を抱く。実は須美子は玖村の隠し女だった。 大鶴の努力もあって、玖村が圧倒的優位にあった二人の関係は次第に変わる。 >昭和二十×年ごろまでは....三十×年の最近は大鶴恵之輔は少し玖村に追いついていた。 大鶴の玖村を追いつけ追い越せは、「進歩的、唯物思想」で武装することであった。 玖村の支えが外れる。教科書批判の政治的動きに関連して、教科書の執筆を外される。 玖村の「偏向的、進歩的理論」が災いしたのである。 大鶴の変わり身は早い。「僕はもとの研究態度にかえるよ」 この変わり身は、玖村の予定していたことであった。 そもそも大鶴と同じ根を持つ玖村は、大鶴に先を越されたのである。 一人なら旨く行くかも知れないが、二人では... 人間、窮地に陥ると、そこから抜け出すための方策を考える。 その方策は、自分にとって合法的でなくてはいけない。あくまで「自分にとって」である。 その為に、あらゆる知識を動員する。自分に都合に合わせ、合理化するために。 玖村に取っては、「カルネアデスの舟板」が絶好の知識であった。 玖村は須美子を扼殺して自首する。 「カルネアデスの舟板」には、目撃者はいない。 登場人物の少ない作品である。この小説は、大学教授玖村と大鶴の心理劇のような気がする。 ただ、大鶴の玖村に対する心理描写は、ほとんどない。 教科書問題での批判的精神が「知識者」を俎上に載せている。 むしろ、こちらが主要テーマなのかもしれない タイトルの命題「カルネアデスの舟板」からくる内容の予測と小説の展開は少し違った。 個人的には消化不良気味の感じがする。 清張はあとがきで >「カルネアデスの舟板」ではわからないというので、単行本で「詐者(サシャ)の舟板」としたことがある。 >しかし、やはり最初に発表した題のほうが好ましい。 としている。 最後の数行は、 >人は、おれの計算の頭脳と考え合わせて、嗤うかもしれない。 >それも承知だ。どうせ現代は、不条理の絡み合いである。 タイトルは「不条理」で、どうだろ。 発見、大鶴恵之輔の年齢は、 松本清張全集(全38巻)36巻492ぺージ上段9行目 「五十近い彼としては、無理もない欲望である」 松本清張全集(全38巻)36巻494ぺージ上段16行目 「さあ。五十六、七かな」 五十近いの間違いだろう。なんて考えたが、この間10年の経過があった。これでいいのだ!。 2005年12月4日 記 |
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作品分類 | 小説(短編) | 28P×1000=28000 |
検索キーワード | 大学教授・教科書・唯物史観・料理屋・出版社・田園調布・講演旅行・不条理・緊急避難 |
登場人物 | |
玖村 武二 | 大学教授。教科書、参考書の執筆で現在の生活を得る。大鶴と師弟関係 |
大鶴 恵之輔 | 玖村の恩師。古代史が専門の元大学教授。戦後追放される。大学へ復帰。56,7歳 |
須美子 | 料理屋「柳月」の女中。玖村の女。大鶴も好意を抱く。 |