題名 |
かげろう絵図 |
読み |
カゲロウエズ |
原題/改題/副題/備考 |
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本の題名 |
松本清張全集 25 かげろう絵図■【蔵書No0107】 |
出版社 |
(株)文藝春秋 |
本のサイズ |
A5(普通) |
初版&購入版.年月日 |
1972/12/20●初版 |
価格 |
880 |
発表雑誌/発表場所 |
「東京新聞」 |
作品発表 年月日 |
1958年(昭和33年)5月17日号〜1959年(昭和34年)10月20日号 |
コードNo |
19580517-19591020 |
書き出し |
家斉は眼をさました。部屋に薄い陽が射している。六つ(午前六時)を少々過ぎたころだなと思った。このごろは決まってそうなのだ。年齢をとると、だんだん早くさめて困る。彼は肩を起こして、腹ばった。五枚の掛布団が少し揺れたが、下二枚は紅の幸菱に鴛鴦の模様。これは見えない。唐織白地に色系で鶴亀松竹を散らした上の二枚の端がずれて老人の背のかたちをもりあげた。一番下の御肌附は紅裏の白幸菱が敷いてある。家斉は錦のくくり枕にあごをのせて、片手を伸ばし蓮台の上の蒔絵の函をひき寄せた。ふたを開けると鼻紙がたたんで入っている。柔らかい紙を、さらに女中どもが揉んでひろげたものだ。彼はそれを七,八枚つかむと、両手で顔に当て、ちん、と鼻をかんだ。間髪を入れず、隣の脇部屋から、「もーう」と大きな声がした。すでに「入り込み」の済んだ宿直の小姓の声で、家斉の起きる気配を今か今かと隣で耳をすませていたのである。大きな声は、無論、家斉に聞かすのではなく、大奥の者に大御所の起きたことを合図したのだ。果たして遠くの方がにわかに騒々しくなってきた。 |
作品分類 |
小説(長編・時代) |
527P×1000=527000 |
検索キーワード |
【帯】天下泰平の江戸城大奥にいんぼうが火花を散らすサスペンス長篇。 |