題名 | 奇妙な被告 | |
読み | キミョウナヒコク | |
原題/改題/副題/備考 | ||
本の題名 | 火神被殺■【蔵書No0005】 | |
出版社 | (株)文藝春秋 | |
本のサイズ | A5(普通) | |
初版&購入版.年月日 | 1973/08/15●4版1975/04/05 | |
価格 | 750 | |
発表雑誌/発表場所 | 「オール讀物」 | |
作品発表 年月日 | 1970年(昭和45年)10月号 | |
コードNo | 19701000-00000000 | |
書き出し | 事件は単純に見えた。秋の夜、六十二歳になる金貸しの老人が、二十八歳の男に自宅で撲殺された。犯人は老人の手提金庫を奪って逃げ、途中で金庫を破壊して中の借用証書二十二通の中から五通を抜き、その手提金庫は灌漑用の溜池に捨てて逃走した、というものである。住宅の造成がすすんでいる東京の西郊だが、そのへんはまだ半分は田畑が残っているという地帯だった。若い弁護士の原島直己が、所属する弁護士会からこの事件被告の国選弁護を依頼されたとき、あまり気がすすまないのでよほど断ろうかと思った。ほかに三つの事件(これは私選の弁護)を持っているので相当に忙しい。それを理由に辞退してもよかったが、弁護士会の事務長が、実は所属の他の弁護士がいったん引き受けたのだが、急病で断ってきた、公判も間もなくはじまる予定で裁判所も当惑しているから、できるなら引きうけていただきたい、事件は単純だから適当にやってもらって結構、と、あとの言葉は低くいった。 | |
あらすじ&感想 | 凶器の「薪の割木」、座布団、金庫から紛失した借用書が小道具である。 逮捕された植木は警察でしゃべる。自白である。 被告である植木は公判で自白を強制されたと言う。 もちろん警察は否定する。 むしろ植木がぺらぺらしゃべったという。 のちに植木を調べた警察官は、彼が最初から協力的で「愛想がよかった」と言っている。 国選弁護士として弁護を依頼された原島は、被告から重大な示唆を受ける。 それは、被告が無罪となるための情報である。凶器の薪である。 自白の凶器では考えられない傷跡が鑑定書に書かれている。 座布団が小道具となる。 金を借りたり返したりする客に座布団を出すものなのか? 被害者の性格を知り得た犯人の小さな仕掛けである。 そして紛失した借用書。紛失した借用書は「猪木重夫」名義。 「植木寅夫」と「猪木重夫」、やはり犯人の仕掛けである。 無罪判決を勝ち取った弁護士の原島は、ほぼ一年後法律関係の本を読む。 「無罪判決の事例研究」。 逮捕後に完全無罪を勝ち取るため、目的を持った犯人は自白段階 から巧妙な罠を張る。 密室の取調室での自白を公判で否認し、自白がいかに理不尽で強制されたものか反論する。 その勇気ある態度は裁判官をもだます。 「無罪判決の事例研究」は、被告人植木の犯罪を見事に描いている。 ある意味完全犯罪をもくろむ。 そのため、一度捕まる、そして公に無罪を勝ち取る。 法治社会の盲点をついた犯罪であるが、被告人植木の人間性、特異な性格、卑屈で虚構に 満ちた人格が浮き出ている。犯罪の影にある人間を描く清張作品らしいと言えば、 またおもしろい作品である。 疑問が少々。 法律関係の本である、「無罪判決の事例研究」を裁判官が読む機会はなかったのか。 また、その戒めである、 「名古屋高裁金沢支部 昭29.3.18 高裁刑事特報」を読む機会がなかったのか。 『最後の植木寅夫が交通事故にでも遭って死ねば、「天の摂理」とか「勧善懲悪」の結末になるの だが実際はそうはゆかないようである。』は、蛇足気味である。 2002年09月20日 記 |
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作品分類 | 小説(短編) | 42P×700=29400 |
検索キーワード | 国選弁護人・薪の割木・自白・座布団・借用書・無罪判決 |
登場人物 | |
植木 寅夫 | 28歳。被告 |
原島 直己 | 弁護士、植木の国選弁護士 |
山岸 甚兵衛 | 62歳。被害者、植木に殺される。金貸し。 |