研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室:完成登録

2020年11月21日


清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!




研究作品 No_110
古本
(シリーズ作品:死の枝 第六話(原題=十二の紐))

東京からずっと西に離れた土地に隠棲のような生活を送っている長府敦治のもとに、週刊誌のR誌が連載小説を頼みに来たのは、半分は偶然のようなものだった。●蔵書松本清張全集 6 球形の荒野・死の枝:「小説新潮」1967年(昭和42年)7月号
〔小説新潮〕
1967年(昭和42年)7月号



東京からずっと西に離れた土地に隠棲のような生活を送っている長府敦治のもとに、週刊誌のR誌が連載小説を頼みに来たのは、半分は偶然のようなものだった。長府敦治は、五十の半ばを越している作家である。若かった全盛時代には、婦人雑誌に家庭小説や恋愛小説を書いて読者を泣かせたものであった。まだテレビの無いころだったから、彼の小説はすぐに映画化され、それが彼の小説の評判をさらに煽った。長府敦治の名前は、映画会社にとっても雑誌社以上に偶像的であった。しかし、時代は変わった。新しい作家が次々と出て、長府敦治はいつの間にか取り残されてしまった。もはや、彼の感覚では婦人雑誌の読者の興味をつなぐことは出来なくなった。長府敦治の時代は二十年前に終わったといってもいい。ときどき短い読み物や随筆を書くことで、その名前が読者の記憶をつないでいる程度になった。
東京からずっと西に離れた土地とはどこだろう? 方向だけで距離的な記述は何もない。
※【隠棲】(インセイ):世間から離れて、ひっそりと暮らすこと
隠棲生活とは、五十半ばの長府敦治は作家としての一時代は終わっているのだろう。
>若かった全盛時代には、婦人雑誌に家庭小説や恋愛小説を書いて読者を泣かせたものであった。
>まだテレビの無いころだったから、彼の小説はすぐに映画化され、それが彼の小説の評判をさらに煽った。
>長府敦治の名前は、映画会社にとっても雑誌社以上に偶像的であった。

今はともかく、長府敦治は、それなりの経歴を持った作家だ。

偶然とは言え、仕事の依頼が飛び込んできた。
もう一花咲かせたい長府敦治に取っては、千載一遇のチャンスだろう。

【作家】を描く清張の眼は厳しい。
キーワードを【作家】とすれば、かなりの数のタイトルが挙げられる。