研究室_蛇足的研究

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2020年9月21日


清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!




研究作品 No_106
偽狂人の犯罪
(シリーズ作品:死の枝 第二話(原題=十二の紐))

猿渡卯平がその殺人計画を立てたのはほぼ一年前からであった。だが、彼の場合、それは殺人そのものの計画ではなく、それを遂行した後の法廷戦術に置かれていた。●蔵書松本清張全集 6 球形の荒野・死の枝:「小説新潮」1967年(昭和42年)3月号


〔小説新潮〕
1967年(昭和42年)3月号



猿渡卯平がその殺人計画を立てたのはほぼ一年前からであった。だが、彼の場合、それは殺人そのものの計画ではなく、それを遂行した後の法廷戦術に置かれていた。猿渡卯平は、本郷に住む経師屋であった。今年三十五になる。五つ違いの妻と、六つになる女の子とがいた。彼はその商売にありがちな、根からの職人上がりではなかった。亡父は東京でも聞こえた経師屋だったが、彼は私大の経済学科に通い、将来は会社か銀行づとめをするつもりでいた。だが、十五年前に父親がが死ぬと、店は次第に寂れた。彼の父親は名人肌の経師だったので、自然と腕のいい職人が集まっていたのだが、ろくに修行もしていない卯平が店をつぐと、職人たちは彼を見限って離散した。卯平は経師屋をつぐ意志はなかったのだが、親戚や、父親をひいきにしていた骨董屋などのすすめもあって、大学を中退した。彼は器用なほうで、小さいときから父親の真似てその仕事をやっていたが、むろん、本格的なものではなかった。彼は、職人たちがそのまま店に残ってくれるものと期待していたのだが、結局、彼と従弟一人となった。そんなことで広い店も維持できなくなり、裏通りの小さな家に引っ込んでしまった。
清張作品の推理小説では、オーソドックスな犯人捜しではなく、犯行後逮捕を想定して、後の裁判で、刑期を短く、有利に展開するための方策が主題になることもある。「一年半待て」などその典型だと思う。

この作品も、冒頭から法廷戦術と断言して、殺人計画が語られ始めている。
主人公の「猿渡卯平」の現状が事細かに書かれている。ただ、殺人を計画するほどの動機らしいものはまだ書かれていない。
殺人の対象者も現れてはいない。
ただ、「猿渡卯平」の現状は、破綻に向かっていることは確かだ。
タイトルが『偽狂人の犯罪』だから、法廷戦術とは、『偽狂人』を装うつもりなのだろう。
殺人の方法など問題にならないし、『狂人』なので無罪を狙っているのだろうか?
一生『狂人』で過ごすことは大変だろう。

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刑法39条は
1項 心神喪失者の行為は、罰しない。
2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。