研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2005年12月31日

「清張」作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_028

 【(原題=きず)


研究発表=No 028

【疵(原題=きず)1955年 〔「面白倶楽部」新春増刊号〕

黒田甲斐守長政が豊前中津から筑前福岡に国替えになって、まもないころである。家中に木谷太兵衛という者がいた。......◎蔵書◎松本清張短編全集4 殺意●(株)光文社(KAPPANOVELS)●3版2002/10/25 没後10年記念企画復古新版より

黒田甲斐守長政が豊前中津から筑前福岡に国替えになって、まもないころである。家中に木谷太兵衛という者がいた。木谷は元からの家臣ではなく、領内に土着の豪族であったが、長政が筑前に入部したさいに、新しく付いたのである。いったい、そのころは、各地の土着の豪族は新領主になじまず、反逆することも珍しくなかった。現に長政も豊前にいた時、宇都宮鎮房という土豪に手を焼いている。それで、おとなしく黒田家の手に付いた木谷に対して長政は宥和の意味もあって厚遇していたが、それに狎れたのか、木谷は先祖代々の土地に引っこんで、だんだん出仕をおこたるようになった。木谷は長政から催促があっても、病気を言いたてて五ヵ月以上も福岡に出てこなかった。木谷が籠もっている土地は福岡から五里ばかり離れた山の中だった。

研究

初期の清張作品は、けっこう時代物が多い。
そして、この作品も当然当時(1955年)でも時代物であるから、読む方としては特別の感情が入り
込むことはない。(「時代が違う」事を考慮しなくて良い。当然時代が違うのである。)
話の展開までもなく、時代物らしく状況説明がすべてである。
時代物で、以前の研究発表
怖妻の棺 は、いきなり本題に入っていたので、
時代物らしく状況説明」という定義は出来ないようだ。
書き出しからの推測では
長政と木谷の関係が話の中心になっていくのでは?

原題が「きず」で、改題が「疵」となっているが、困ったときの「広辞苑」で
きず【傷・・瑕】

@切ったり打ったりして皮膚や肉の損ずること。また、その箇所。けが。
A物のこわれ損じた所。われめ。さけめ
B不完全な所。非難すべき所。欠点

「きず」を「傷」や「瑕」でなく「疵」に改題した意味も何かありそうだ。


「国替え」とは

江戸幕府の大名統制策の一つ。
江戸時代を通じて、大名同士による国替(領地替)は幕府の命によりしばしば行われた。
 国替は大名家のみならず、家臣とその家族の全てが移動する大変な作業であった。
個々の引越しはもちろんのこと、城内や城下の備品目録の作成、実際の請け渡し、幕府から
派遣された上使の接待など、周到な準備と多くの労力を必要とした。