今月の紹介作品  【春の血


紹介No 005

【春の血】1958年 「文藝春秋」

海瀬良子は、友人の中に新原田恵子をもっていた。良子は四十六歳、田恵子は四十八歳であった。......◎蔵書◎「延命の負債」角川文庫1987年6月25日(初版)より

清張が女性を描くとき、多彩な登場人物はなかなか興味ぷかい。

海瀬良子と、友人の新原田恵子は特別な感情を持ってみられていた。

そんな噂を立てられるような、仲に見られていた。

良子の夫から田恵子に縁談が持ち込まれる。

田恵子は元病院長の夫と死に別れた未亡人だった。

「ねえ、あなた、まだあれあるの?」「あるわよ。どうして?」「あがったらしわ、もう」

美しく清楚な未亡人として描かれる田恵子。

反面、再婚相手になる飯尾は、『背が低く、肩が張って、猪首で、髪が少なく、二つの鼻の穴は

遠くからはっきりと見える、厚い下唇』と、容赦ない醜男として登場。

そんな二人の再婚。

「ご心配かけたけどね、あれ、あったのよ」「本当?」

それから1年ばかり、良子は、田恵子の死亡通知を受け取る。死因は子宮筋腫。

「あれ、あったのよ」は、女の春の血ではなく、彼女の生命を奪う命の血だった。

いささか類型的な登場人物だが、題名の「春の血」を未亡人田恵子の女の部分に重ねて描く。

束の間の、女の春を感じる田恵子。

不幸な結末に、少し嫉妬を感じてたであろう良子の、無邪気な友人を失った悲しみ。

ふたりの短い会話から、微妙な心理の変化を読ませる。清張は女心を描かせても抜群だ。

2001年05月24日 記

登場人物

海瀬 良子 46歳。社長夫人
新原 田恵子 48歳。院長夫人(夫は5年前に死亡、未亡人)
飯尾 炭坑主・田恵子の再婚相手

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