紹介No 005
【春の血】1958年 「文藝春秋」
清張が女性を描くとき、多彩な登場人物はなかなか興味ぷかい。
海瀬良子と、友人の新原田恵子は特別な感情を持ってみられていた。
そんな噂を立てられるような、仲に見られていた。
良子の夫から田恵子に縁談が持ち込まれる。
田恵子は元病院長の夫と死に別れた未亡人だった。
「ねえ、あなた、まだあれあるの?」「あるわよ。どうして?」「あがったらしわ、もう」
美しく清楚な未亡人として描かれる田恵子。
反面、再婚相手になる飯尾は、『背が低く、肩が張って、猪首で、髪が少なく、二つの鼻の穴は
遠くからはっきりと見える、厚い下唇』と、容赦ない醜男として登場。
そんな二人の再婚。
「ご心配かけたけどね、あれ、あったのよ」「本当?」
それから1年ばかり、良子は、田恵子の死亡通知を受け取る。死因は子宮筋腫。
「あれ、あったのよ」は、女の春の血ではなく、彼女の生命を奪う命の血だった。
いささか類型的な登場人物だが、題名の「春の血」を未亡人田恵子の女の部分に重ねて描く。
束の間の、女の春を感じる田恵子。
不幸な結末に、少し嫉妬を感じてたであろう良子の、無邪気な友人を失った悲しみ。
ふたりの短い会話から、微妙な心理の変化を読ませる。清張は女心を描かせても抜群だ。
2001年05月24日 記
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登場人物
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海瀬 良子 |
46歳。社長夫人 |
新原 田恵子 |
48歳。院長夫人(夫は5年前に死亡、未亡人) |
飯尾 |
炭坑主・田恵子の再婚相手 |
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