研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2001年05月24日

清張の作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


今月の研究作品

 【春の血


紹介No 005

【春の血】1958年 「文藝春秋」

海瀬良子は、友人の中に新原田恵子をもっていた。良子は四十六歳、田恵子は四十八歳であった。......◎蔵書◎「延命の負債」角川文庫1987年6月25日(初版)より

海瀬良子は、友人の中に新原田恵子をもっていた。良子は四十六歳、田恵子は四十八歳であった。良子と妙子の交際は二十年近くもつづいている。それは夫同士からの付き合いに始まった。良子の夫は、この地方の都市で、親から貰った資産を持ち、小さな会社の社長をしていた。田恵子の夫は−−−これは五年ばかり前に死んだが、同じ土地で病院の院長をしていた。知り合いになったのは、社長と院長の時代ではない。三十前だった良子の夫が盲腸炎を起こして入院したとき、剔出した係りの医員が妙子の夫だったのである。それ以来、両人の妻同士の交際は連綿として二十年継続している。もっとも、はじめの十五年間は、さほど親密な接触もなく、一年に三,四回、合うか合わないかぐらいであったが、夫の院長が亡くなってから田恵子がずっと良子に接近してきたのだった。

研究

海瀬良子、新原田恵子の紹介程度の書き出しである。二人の関係は良子が少し煩わしく感じているように感じられる。未亡人田恵子に何かが起こる予感を感じさせる。書き出しの数行で登場人物の生活環境を的確に描きわけている。二人の女の今までと、これからは.....。短編の導入部分としては清張の真骨頂である簡潔な文章で無駄がない。