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検索キーワードに見る清張作品の傾向と対策?

(その九:時刻表)

清張作品の書き出し300文字前後からあぶり出すキーワード!


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●時刻表と言えば「点と線」「時刻表」でしょう。

でも、違いました。
黒の回廊」は全集の月報が付録として刊行されています(非売品)
その後昭和50年代に単行本として発売されている。

神々の乱心(上)」は週刊文春掲載(未完)
1990年(平成02年)3月29日号〜1992年(平成04年)5月21日号
(病気のため休載)

たまたま、書き出しに「時刻表」が出ているだけの感がある。
全集の付録と未完の大作
意味ありげな両作品である。


2009年12月17日

 



題名 「時刻表」
●「黒の回廊 窓の外は窓になっている。隣のビルも昼じゅう天井の蛍光灯が点け放しだった。秋の半ばから太陽の位置がずれて日陰がつづく。来年の春にならないと日射しが戻ってくれない。この王冠観光旅行社では二階の窓に陽が当たってくるのを日向の回帰線と呼んでいた。陽光は四階から順々に降りてくる。日照権が問題になるはるか以前の建物だった。京橋では目抜き通りであった。営業部企画課の谷村が文章を練っていた。窓際でも終日スタンドが必要で、ひろい机の上にはパンフレット類が散らばって、人口の光をうけ、ここだけは花をならべたようである。パンフレットは自社のもあるし、他社のもある。ヨーロッパの地図と、電話帳のような国際線の時刻表も横に開かれていた。片方にはカラー写真が積み上げてある。手もとの灰皿に吸殻が堆積してまわりを灰だらけによごしていた。原稿用紙の最初に小説の題名のように「ローズ・ツア」と大きくかいてある。わきに”RoseTour"−−英字のほうがうまかった。
●「神々の乱心(上) 東武鉄道東上線は、東京市池袋から出て埼玉県川越市を経て、秩父に近い寄居町にいたっていた。武蔵野平野の西南部を横断しているかたちである。その途中に「梅広」という駅がある。昭和八年現在の東武鉄道の時刻表で池袋駅から所要時間が約一時間である。ここは埼玉県比企郡梅広町で、人口約一万三千。郡役所、裁判所出張所、警察署、比企郡繭糸同業組合支部、武州中央銀行支店、県立中学校、小学校などが備わっている。駅前通りには商店がならび、料理店も多い。旅館は六軒ある。駅前広場にタクシーが以前からみると相当ふえた。二つの自動車会社が一日平均三十台近くの車を動かして川越市、熊谷市、鴻巣町、玉川村方面へ客を運んでいる。昭和八年十月十日午後二時半ごろ、埼玉県特別高等警察課第一係長警部古屋健介が北村幸子を梅広警察署に呼び入れて参考人として尋問したのは、次のように偶然のことからだった。

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