研究室_蛇足的研究
2025年04月21日 |
清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!
研究作品 No_166 【ネッカー川の影】 (シリーズ作品/草の径:第二話■松本清張全集66では、第四話として収録) 〔月刊 文藝春秋〕 1990年(平成02年)4月号 |
今朝も、あの日本の留学生が窓の下を通る。今朝も、というのは浅尾利江子がこのテュービンゲンのホテル《Burgwache》(城の望楼)に泊まって四日目の朝九時ころだが、毎朝その人を二階の窓から見かけた。日本の留学生とは、ホテルの主婦ディアナが云った。その留学生は前額が広く、すこしちぢれげで、髪がうしろに長かった。やや猫背にして坂道をゆっくりと登ってゆく。その横顔からして三十をかなりすぎているかと思われた。坂道を上がりきったところにあるのは橋で、中世の刎ね橋である。下に周濠があって黒みがかった水に重い緑色の藻が浮ぶ。高い石垣は蔦の網に蔽われている。橋を渡るとホーエン・テュービンゲン城の正面となる。道は海鼠状の石の煉瓦を敷き詰め、煉瓦と煉瓦の間は薄紙一枚差し込めぬくらい接合して地面に深く食い込んでいる。 |
シリーズ作品「草の径」は、清張最晩年の作品です。 発表時から単行本に収録されるまでに紆余曲折があったように見受けられる。 発表は、「月刊 文藝春秋」で、1990年(平成2年)1月号から始まっている。 1990年(平成2年)1月号=「削除の復元」 1990年(平成2年)4月号=「ネッカー川の影」 1990年(平成2年)5月号=「死者の網膜犯人像」(原題:死者の眼の犯人像) 1990年(平成2年)6月号=「「隠り人」日記妙」 1990年(平成2年)8月号=「モーツアルトの伯楽」 1990年(平成2年)11月号=「呪術の渦巻き文様」(原題:無限の渦巻き文様) 1990年(平成2年)12月号〜1991年(平成3年)1月号=「老公」 1991年(平成3年)2月号=「夜が怖い」 何れも短編であるが、以上の通り順次発表されている。(必ずしも毎月発表された訳では無いようだ) 1991年に文藝春秋社から単行本「草の径」が、出版されている。(私は3版を蔵書/初版は1991年) ![]() 【草の径】第二話『ネッカー川の影』 【草の径】第三話『死者の網膜犯人像』 【草の径】第四話『「隠り人」日記抄』 【草の径】第五話『モーツアルトの伯楽』 【草の径】第六話『呪術の渦巻き文様」 【草の径】第七話『老公』 【草の径】第八話『夜が怕い』 ●全集の第66巻(1996年(平成8年)3月30日/初版) ※「松本清張全集 66 老公 短篇6」では、「削除の復元」は、 シリーズ「草の径」ではなく単独で収録 全集66巻短編6では、「草の径」 収録順番がかなり違っている。 それぞれ出版事情があるのだろうが、「老公」が、草の径の第一話のように編集されていて 「削除の復元」が、単独の短編として編集されている。奇妙に感じられる。 収録内容は 一.【草の径】(siri-zu03) 1.老公(077__02) 2.モーツアルトの伯楽(075__02) 3.死者の網膜犯人像(073__02) 4.ネッカー川の影(072__02) 5.「隠り人」日記抄(074__02) 6.呪術の渦巻文様(076__02) 7.夜が怕い(078__03) 二.「河西電気出張所」(613__03) 三.「山峡の湯村」(046__02) 四.「夏島」(606___02) 五.「式場の微笑」(113__02) 六.「骨壺の風景」(058__02) 七.「不運な名前」(614__02) 八.「疑惑」(004__02) 九.「断崖」(609__02) 十.「思託と元開」(704) 十一.「信号」(607__02) 十二.「老十九年の推歩」(608__02) 十三.「泥炭地」(677__02) 十四.「削除の復元(071) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ドイツのテュービンゲン 窓の下を通る留学生。三十歳を過ぎた留学生とは? 続く情景描写。 実在のモデルがいるのだろうか? 何も予見できない書き出しである。 ![]() ![]() ※ホーエン・テュービンゲン城とは? 街を見下ろす高台に建つホーエン・テュービンゲン城。 1078年に砦が築かれ、現在のようなルネサンス様式のお城が建てられたのは16世紀のこと。 1812年からはテュービンゲン大学の所有となり、研究施設として利用されるようになりました。 城内の博物館では、エジプトからギリシャ、ローマ帝国にいたる古代地中海文明の展示が中心で、 大学の研究結果が反映された詳細な解説がされています。ここのテラスからの眺めがすばらしく、 赤い屋根が連なる街並みやネッカー川、緑の田園地帯を一望できます。 |