研究作品 No_156
【役者絵】
(シリーズ作品/紅刷り江戸噂:第六話)
〔別冊宝石〕
1967年(昭和42年)1月号
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天保年間のことである。二月に入って春になったとはいえ、江戸はまだ寒い。ことにその年は例年になく寒気が強く、二日の灸の日は大雪であった。江戸の風習として、年に二回、男女とも灸点を行うのを例とした。二月二日と八月二日である。これを「二日灸」といった。「春もややふけゆく二月二日あたりははらにもぐさの萌ゆる若草」という狂歌は二月二日の灸のことをいった。灸を据えつけている者は、自分でもぐさをその個所に置けるが、そうでない者は、しかるべき人に灸点をおろしてもらわねばならない。そういうのを寺で行うことが多かった。二月二日が近づくと、小さな寺の門前には「二日灸」の貼り紙が出たものだ。谷中に浄応寺というあまり大きくない門徒寺があった。ここも例に洩れずに二日灸をした。灸を頼みにくる者も、町の按摩などに火をつけてもらうより、住職に灸点してもらったほうが何だか有難く、一年中、無事息災でいられそうであった。
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(初出の【紅刷り江戸噂】シリーズでは対象外)
〔(株)文藝春秋=全集24(1972/10/20)で【紅刷り江戸噂】第六話として集録〕
●「二日灸」 二日灸(ふつかきゅう・ふつかやいと)
陰暦二月二日と八月二日に灸を据えるもので、俗に普段に比べ効能が倍加するといわれる。
ただし俳句では二月の方を指すことが多く、春の季語となっている.
「谷中の浄応寺」は、具体的だが、実在しないようだ。
【テレビドラマ:役者絵】
「二日灸」のために浄応寺を訪れたお蝶
ロケ地:法蔵寺赤門とされているが、法蔵寺の所在地も不明だ。
【役者絵】
役者絵(やくしゃえ)とは、日本の江戸時代から明治時代にかけて製作された
浮世絵の画題のひとつで、歌舞伎役者を描いたもの。-Wikipedia
書き出しでは、登場人物はいない。あえて言えば、職業として「按摩」・「住職」が登場するくらいである。
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