研究室_蛇足的研究

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2023年8月21日


清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!




研究作品 No_146
犯罪広告
(シリーズ作品/黒の様式:第二話)

阿夫里の町は、南紀の端、熊野灘に面している。人口七千。蜜柑と魚の町だが、若い者は大部分隣県の水産会社や造船所に通勤していた。●蔵書【松本清張全集9】(黒の様式)文藝春秋社●「週刊朝日」1967年(昭和42年)3月3日号〜4月21日号
〔週刊朝日〕
1967年(昭和42年)3月3日号〜4月21日号


阿夫里の町は、南紀の端、熊野灘に面している。人口七千。蜜柑と魚の町だが、若い者は大部分隣県の水産会社や造船所に通勤していた。密柑山に働くのも舟に乗るのも、女や年寄りが多い。四月のある日、町の重立った人びとの家に一枚の活版刷りの広告が投げ込まれた。新聞半ページの紙を二つ折りにした表、裏に九ホの活字がぎっしりとならんでいた。表題の「告知」という二文字を見た者は、野暮ったい広告と思い違いするくらい貧弱なチラシだったが、内容はたいそう変わっていた。「阿夫里町のみなさんにご案内します。私、末永甚吉は、当町字宇佐津の池浦源作を、殺人の疑いで世に告発いたします。警察が取り上げてくれない殺人事件です。法律では、殺人犯罪の時効が十五年です。だから、二十年前の殺人を、こういうかたちで皆さんに訴えなければならないのであります。......」という文句で始まり、以下、次のように長々と書かれてあった。
阿夫里の町とは?
南紀の端、熊野灘に面している。人口七千...かなり具体的だが、具体的に「阿夫里町」は存在しないようだ。
でも、舞台は南紀端で、鳥羽市・志摩市あたりだろう。

「阿夫利神社」は、聞いたことがある。近所にも「阿夫利神社(アフリジンジャ)」が、あり、「里」ではなく「利」である。
タイトルが「犯罪広告」だが、戸別配布されたチラシのようなもののようだ。
内容としては、殺人事件の告発であり穏やかではない。
しかも、「怪文書」として、無視するには告発者や疑いを掛けられた人物まで特定している。
>新聞半ページの紙を二つ折りにした表、裏に九ホの活字がぎっしりとならんでいた。
と、この小説の作家が印刷関係に詳しいらしく、専門用語で書かれている。

書き出し自体が事件である。