研究室_蛇足的研究
2023年6月21日 |
清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!
研究作品 No_144 【青春の彷徨】 (原題=死神) 〔週刊朝日別冊〕 1953年(昭和28年)6月号 |
四人がマージャンをしていた。夜更けのことである。主人は医者。客は友人。宵の口からはじめて徹夜覚悟で、もう何荘めかである。急に犬が吠えだすと一緒に玄関の扉がどんどんと叩かれた。「なんだろう、電報か。」と、男の一人が自模った杯を宙に持ったまま主人の顔を見た。主人は少し渋い顔をして苦笑した。「ばかだな。今時分、医者の戸を叩くのは急患にきまっている。」夜食の用意を台所でごとごとしていた奥さんが出ていって、玄関で二言三言話していたが、やがて座敷に入ってきた。「あなた、Tさんからですよ。病人が苦しそうですから、お願いしますって。」「よしよし。すぐ行くと言って帰せ。」主人はもう覚悟を決めていたらしい。こう言って三人の顔を見まわしていった。「どうもすまんな。なに、注射を打ってくれば、おさまる病人だ。ちょっと失敬するよ。」「薬九層倍もたいていではないね。」と、男の一人が軽口を言った。 |
2023年6月19日に吉祥寺シアターで【松本清張朗読劇】があった。 当日の演題は、一部が『ゼロの焦点』、二部が『駅路』『青春の彷徨』で、三部が『「或る「小倉日記」伝』でした。 二部以外は過去に鑑賞していたので目的は二部だった。 『駅路』は、紹介作品にも取り上げていて、記憶にもあったが、『青春の彷徨』は余り記憶になかった。 会場まで電車で二時間近く掛かるので、電車の中で読んでみようと思い持ち出した。幸い本は、新書(KAPPANOVELS)で携帯できた。 開業医は友人とマージャンの卓を囲んでいる。どんな友人かの説明はない。 >「なんだろう、電報か。」と、男の一人が自模った杯を宙に持ったまま主人の顔を見た。 >主人は少し渋い顔をして苦笑した。「ばかだな。今時分、医者の戸を叩くのは急患にきまっている。」 妻が出て対応する。 主人である医者の言ったとおり、急患で、往診を求めるものだった。 主人はもう覚悟を決めていたらしく、仲間に断りを言った。 >「どうもすまんな。なに、注射を打ってくれば、おさまる病人だ。ちょっと失敬するよ。」 仲間の一人の男が言った。 「薬九層倍もたいていではないね。」 男の軽口に送られるように出かけた。 開業医に、「ある、ある」的な日常的な状況なのだろう。 事件として展開するなら、医者が駆けつけた先で思わぬ事件に遭遇する。そんな予感を含んでいるが書き出しだけではなんとも言いがたい。 原題の「死神」が気になる。 |