研究室_蛇足的研究

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2023年2月20日


清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!




研究作品 No_142
悲運の落手

升田幸三が、大山康晴に勝って第十期名人戦の挑戦者に決定したのは、昭和二十六年二月、大阪での対局であった。●蔵書【任務】(松本清張未刊行短編集)中央公論新社●「週刊新潮」1957年(昭和22年)5月〜6月)
〔週刊新潮〕
1957年(昭和22年)5月〜6月



升田幸三が、大山康晴に勝って第十期名人戦の挑戦者に決定したのは、昭和二十六年二月、大阪での対局であった。
NHKは早速、東京、大阪の二元放送で、名人木村義雄との対談をやらせた。木村はまず、
「升田君。今回は挑戦者になられて、おめでとう」
と云った。おだやかな祝辞である。だが、知らない者には柔和に聞こえるこの挨拶も、実は複雑な内容があった。
二年前、木村と升田は読売の将棋で金沢で対局したとき、二人は些細なことから口論をはじめた。その揚句、升田は木村に向かって、「名人いうたかて、塵味みたいなもんや」
と悪態を吐いた。木村は忽ち顔を赭くして怒った。
「おれがゴミなら、きさまは何だ!」
と呶鳴った。当時、升田はどのように苦闘しても、名人戦の挑戦者になれなかったときだ。
升田は、べろりと舌を出さんばかりにして、上眼使いに木村を見て、「わしは、ゴミにたかる蠅みたいなもんかな」と、いなした。
「升田君、君も他の将棋では、強いと云われているんだから、一度くらい挑戦者になったらどうだい」
「へぼ将棋王より飛車を可愛がり」程度の将棋愛好者ですが、最近、藤井聡太五冠と羽生善治九段の王将戦が戦われている。
当初は、昨年から興味を持って読んでいる「帝銀事件と日本の秘密戦」(山田朗)から、清張作品の『小説帝銀事件』を蛇足的研究で取り上げる予定でいました。
そんな中、松本清張の未刊行短篇集が発売になり、『悲運の落手』を手に入れることが出来ました。
未購入でしたので登録する時に内容に触れることが出来ました。「悲運の落手」は、実際の対局をモデルにしています。

前置きはともかく、書き出しから分かる通り、第十期名人戦の模様が描かれています。
木村義雄名人と挑戦者升田幸三の闘いです。
名人木村と個性溢れる升田幸三の凄まじい闘い前の場面を描き出しています。
>「升田君、君も他の将棋では、強いと云われているんだから、一度くらい挑戦者になったらどうだい」
の一言に、さすがの升田幸三は反論できなかったようだ。

ボクシングでゴングが鳴る前に、リング上での睨み合い。まさにそんな感じだ。あえて言えば、プロレスの試合前のリングパフオーマンスとも言えるが、これから始まる試合は、ボクシングやプロレスの真反対で、盤上の格闘技である。

清張も将棋を指していたので、興味を持っていたのだろう。
だが、「観戦記」を書くわけでは無いので、どう小説にまとめるのだろう、興味深い。

   
                                   第一局、木村名人の勝利(投了図/7四飛まで)